「日本で最も美しい村」から、「自立する美しい村」研究会、そしてエネルギー自給へ | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

「日本で最も美しい村」から、「自立する美しい村」研究会、そしてエネルギー自給へ

「日本で最も美しい村」から、「自立する美しい村」研究会、そしてエネルギー自給へ

2020年09月24日

原村からの便り 2

2005年に日本で発足したNPO法人「日本で最も美しい村」連合は、小さくても素晴らしい地域資源と美しい景観を守り、自立することを目指す町村が参加する組織だ。そこでの課題の一つは、経済的な自立であり、そのひとつがエネルギーの自立である。千葉商科大学名誉教授の鮎川ゆりか氏が原村への移住を決めたきっかけも、原村がこの連合に参加していることだという。

「世界で最も美しい村」連合会が守る3つのこと

私が長野県諏訪郡の原村に移り住んだ理由のひとつは、原村が「日本で最も美しい村」連合に加盟していることだ。これは「世界で最も美しい村」連合会という国際組織の日本版で、加盟する村は単に「美しい景観」だけでなく、持続可能な発展により、経済的な自立を目指している。

日本支部のメンバーが発祥の地であるヨーロッパを訪れ、そこで学んできたことをDVDにまとめたものを見た。要は「地域の経済的自立」「住民の自主的活動」「世襲財産」の3点だ。

その「地域の経済的自立」への第一歩は、再生可能エネルギーを使って経済を循環させることだ。地域の里山から出る木質バイオマス、薪などから電気や熱をつくり、地域の人々に使ってもらうことで、それまで外に出て行ったエネルギー費用を地域内で循環させられる。

住民の自主的活動」とは、例えば小さな食肉屋さんが若者に「マイスター制度」を使い、食肉の全加工工程を学ばせ、その地域固有の美味しさを生み出し、住民がそれを食べる。養豚場から出る糞尿からバイオガスを発生させ、電気や熱をつくり、住民が使う。発生させた後に残る残差は堆肥化して、農業に使い循環させる。

3点目の「世襲財産」。村民の手で建てられた村営スーパーマーケットにはイベントスペースやカフェが併設されている。企業の誘致ではなく起業支援を行い、雇用を創出する。木材から派生する薪は住民が各自で地域ボイラーのあるところへ運び熱に替えられる。熱は村全体の暖房・給湯に使われる。村民一人一人が自立した村に貢献し、次世代に美しい景観を遺す。

このDVDを原村のみんなに見てほしい、と村内有志8人の意見が一致し、「自立する村へ!DVD上映会+講演会」が企画された。昨年(2019年)6月頃の話だ。


「日本で最も美しい村」連合ウェブサイトより 原村の紹介

上映会&講演会をきっかけに「自立した村」への研究を開始

「DVD上映会+講演会」では、DVDを作成した「日本で最も美しい村」連合創設に関わった山田泰司氏を招いて講義をして頂いた。その後、原村でブルーベリーを栽培している農家さんと移住してきた若いママさんと山田氏を交えてのトークセッションを行い、それぞれに30年後の原村がどうなって欲しいか等の話をしてもらった。

村が共催してくれたため、広報「はら」にチラシを入れ全戸配布し、村内放送もできた。村長には別途ご挨拶に伺い、当日のご挨拶をお願いした。9月29日当日、中央公民館の講堂はいっぱいになった。


上映会での山田泰司氏

この「DVD上映会+講演会」企画が母体となり、どのようにしたら連合のめざす「自立した村」になれるかを研究する「自立する美しい村研究会」が発足した。

その第1回研究会は同年12月8日に開かれた。内容は、気候変動がどのくらいの危機的状況にあるかを私が話し、その後参加者全員で、いかにしたら地域内でエネルギーと食料を自給する「自給圏」、「自立した村」を創れるか、そのためにどんなテーマを検討すべきか、ブレインストーミングを行った。

そのブレインストーミングをもとに、まずは原村の基幹産業である「農業」に焦点をあてるべく、農業が消費するエネルギーについても考える第2回研究会を、2020年2月24日に開いた。原村の特産品であるアルストロメリアの花卉栽培家と、セルリー(セロリーのフランス語)農家さん、そして原村出身の若手で「メロンより甘い八ヶ岳生トウモロコシ」を売り出した青年、3名を招いてお話しいただいた。


第2回研究会の様子

原村特産のアルストロメリア花卉生産販売者は、花をそだてるため、5℃の気温維持が重要。原村の冬の気温はマイナスになるため、暖房にA重油を使っていた。それを複数の農家さんと共同でヒートポンプを導入したところ、光熱費全体は減ったが、重油消費量削減の代わりの電気代の割合が多くなった。また冬場に停電になると花は一晩で全滅のリスクがあるため、自家発電機の導入を検討している。埼玉農業試験場では地中熱交換ハウス、八ヶ岳中央農業実践大学校(原村)では太陽熱利用暖房システムなどの実証実験を行った。

セルリー農家は冬場に苗を育てるため、ハウスの温度を15℃にしなくてはならない。そのためやはりA重油を使っているが、温泉の地熱を使えないか考えている。
夏場の乾いた畑には夕方水を撒かなければならないが、山の方から流れてくる地下水を使う。上から下へ流れる「位置エネルギー」を使い、畑灌漑施設を整備すると、バルブを開けば自動的に散水できる。

Uターンで原村に戻って来た青年は、都会で学んだマーケティング方法を使い、村の美味しいトウモロコシの糖度をさらに上げ、メロンより甘い「八ヶ岳生トウモロコシ」と名付け、観光客と別荘族をターゲットにした販売戦略で成功した。今ではネット販売でも売れ、八ヶ岳に来なくてもトウモロコシだけは食べたい、というリピーターが増えているとのこと。


セルリー畑 手前が水まき用のポンプ

エネルギー自給率向上で地域経済循環村づくりへ

その後、今年の2月後半からコロナ禍で原村でのイベントや会議はすべて中止され、活動ができなくなった。

そこで私たちは、こうした時だからこそ「地産地消」を試そうと、原村の生産者と消費者を直接つなぐ役割をめざし、7月末から毎週土曜日に、原村で「原村ヴェジテラス」という高原野菜の小さなバザールを始めた。この取り組みについては、改めて紹介をしたい。

5月~6月にかけて、原村役場の若手職員は村の経済循環を分析する「地域経済分析プロジェクト」に取り組んだ。その結果、原村の経済的自立を示す「地域経済循環率」は57.7%で、県内町村平均59.1%より低いことがわかった(広報誌「はら」9月号)。

これを向上させるため、農産品多品目化、戦略的観光誘客、住民主体の活動、そしてエネルギー自給率を高める屋根上ソーラーや小水力など、再生可能エネルギーの活用を研究会は提案している。

研究会が目指すところはこうした研究・分析の結果に沿うものであることから、原村の村長や村役場職員と研究会がタッグを組んでいこう、と話を始めている。

そして今年の8月29日、ようやく第3回研究会が開催できた。第2回の「農業」を受け、農業に欠かせない水の話から、水を利活用する「小水力」の話へ持って行く「水の歴史と今後」というタイトルだ。

詳細は追って報告する。今後は林業・木質バイオマス、屋根上ソーラー、地中熱、温泉熱、そして小規模分散型の地域経済循環村づくりに向けて考えていく予定になっている。


アルストロメリアの花(著者撮影)

連載:原村からの便り
1 環境アセスメントが止めた長野県・霧ヶ峰の諏訪メガソーラー

 

鮎川ゆりか
鮎川ゆりか

千葉商科大学名誉教授 CUCエネルギー株式会社 取締役 1971年上智大学外国語学部英語学科卒。1996年ハーバード大学院環境公共政策学修士修了。原子力資料情報室の国際担当(1988~1995年)。WWF(世界自然保護基金) 気候変動担当/特別顧問(1997~2008年)。国連気候変動枠組み条約国際交渉、国内政策、自然エネルギーの導入施策活動を展開。2008年G8サミットNGOフォーラム副代表。衆参両議院の環境委員会等で参考人意見陳述。環境省の中央環境審議会「施策総合企画小委員会」等委員、「グリーン電力認証機構」委員、千葉県市川市環境審議会会長を歴任。2010年4月~2018年3月まで千葉商科大学、政策情報学部教授。同大学にて2017年4月より学長プロジェクト「環境・エネルギー」リーダーとして「自然エネルギー100%大学」を推進し、電気の100%自然エネルギーは達成。2019年9月より原村の有志による「自立する美しい村研究会」代表。 『e-コンパクトシティが地球を救う』(日本評論社2012年)、『これからの環境エネルギー 未来は地域で完結する小規模分散型社会』(三和書籍 2015年)など著書多数。

エネルギーの最新記事