経済産業省、脱炭素社会の構築に向けて 2021年度8,365億円を概算要求 その中身を詳しくみる | EnergyShift

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経済産業省、再エネ型経済社会の創造に向けて 2021年度8,365億円を概算要求 その中身を詳しくみる

経済産業省、脱炭素社会の構築に向けて 2021年度8,365億円を概算要求 その中身を詳しくみる

2020年10月16日

経済産業省が、2021年度予算の概算要求を公表した。資源・エネルギー関連に8,365億円を計上し、「再エネ型経済社会の創造」に向けた施策を本格化させる。コロナを機に脱炭素化の深化を目指す経産省の重点政策とは何か。2021年度概算要求をまとめた。

コロナを機に脱炭素を深化

経産省は9月30日、2021年度予算の概算要求を公表した。同省全体の概算要求額は、2020年度当初予算額比12.7%増となる1兆4,335億円である。

そのうち、資源・エネルギー関連は2020年度当初予算比11.8%増となる8,365億円を計上した。中でも、重点的に予算配分されたのが「イノベーションによる脱炭素化の推進」だ。コロナを機に脱炭素化を深化させるという方針のもと、前年度比14.8%増の5,303億円をあてた。

イノベーションによる脱炭素化の推進は、「非効率石炭火力フェードアウトの推進」、「再エネ主力電源化・省エネの推進」、「CCUS/カーボンリサイクルの推進」、「水素社会実現の加速」、「安全最優先の再稼働と原子力イノベーションの推進」の5つの分野から構成されている。

これら5つの分野を推進することで、2020年7月に打ち出した「非効率火力発電のフェードアウト」、そして「再エネ型経済社会の創造」に向けた施策を本格化させる。

経産省「令和3年度経済産業政策の重点、概算要求・税制改正要望について」より ※四捨五入の関係上、合計が一致しない場合がある。

非効率石炭火力のフェードアウトに244億円

5つの分野における重点分野を見ていく。「非効率石炭火力フェードアウトの推進」には、前年度比25.7%増となる244億円をあてる。石炭火力から排出されるCO2の大幅削減を目指し、最先端の高効率石炭火力(IGFC:石炭ガス化燃料電池複合発電)の実働に向けた設備導入によって、2022年に世界初の実機レベルでの実証を目指す。また、再エネ電源が事故等により脱落した場合でも、旧来の火力発電と同様に瞬間的な電圧低下を緩和する技術(疑似慣性力)の開発等も実施する。重点項目は下記のとおりである。

カーボンリサイクル・次世代火力発電の技術開発事業

2021年度概算要求額195億円(2020年度当初予算額155億円)
次世代の高効率石炭火力発電技術であるIGFCや高効率ガスタービン技術等の火力発電の高効率化に関する技術開発等を実施する。CO2フリーアンモニアの火力発電への混焼に関し、燃焼安定性、排ガス中の低NOx化等について、実機レベルでの実証試験を実施する。

再生可能エネルギーの大量導入に向けた次世代型電力制御技術開発事業

2021年度概算要求額42億円(2020年度当初予算額31.9億円)
火力発電等のタービン回転による発電方式は慣性力(瞬間的な周波数の変動を抑制する能力)を有するが、太陽光発電等のパワーコンディショナ(PCS)で発電を制御する再エネは慣性力を有しない。今後、慣性力を持たない再エネが大量導入されると、系統全体の慣性力が低下し、系統事故等による瞬間的な周波数変動に耐えられず、大停電に至るおそれがある。このため、再エネに付帯するPCSに疑似的な慣性力機能を付与する技術を開発し、再エネ大量導入下における系統の慣性力を確保する。
また、再エネのさらなる導入促進を図る上で、系統混雑時における再エネ電源の出力制御、再エネ適地から大需要地への送電容量不足等が障壁となる。これら課題解決に向け、既存系統の最大限の活用や配電網の最適な制御、再エネ適地から需要地への直流送電システム導入に向けた開発を行う。

再エネ主力電源化の切り札・洋上風力の支援拡大

再エネ型経済社会の創造に向けて、中心となる施策が「再エネ主力電源化・省エネの推進」である。2,310億円(前年度比16.1%増)と予算配分額は最大となった。
毎年1GW、2030年までに10GWの導入を目指す洋上風力の市場形成はじめ、国産木質バイオマスの低コスト化支援等により、再エネ主力電源化を推進する。また、需要側における電化を促進し、エネルギー転換・省エネも推進していく。重点項目や新規事業は下記のとおり。

洋上風力発電等の導入拡大に向けた研究開発事業

2021年度概算要求額86.8億円(2020年度当初予算額76.5億円)
洋上風力発電事業の実施に必要な基礎調査等を実施し、導入拡大を目指す。また、再エネ海域利用法の施行に伴い、洋上風力発電の導入拡大が見込まれる中において、競争力強化を図り、低廉かつ強靭なエネルギー供給体制を構築するため、効率的なメンテナンス技術開発等を行う。さらに、水深の浅い海域・港湾でも利用可能な低コスト浮体式洋上風力発電の確立、基礎構造・施工技術のコスト低減に向けた技術開発・実証を実施する。

木質バイオマス燃料等の安定的・効率的な供給・利用システム構築支援事業

2021年度概算要求額15億円(新規)
木質バイオマス発電の発電事業としての自立化と、木質バイオマス燃料の供給元としての森林の持続可能性確保の両立を目指し、燃料材に適した草成樹・広葉樹等の樹種の選定、育林手法等に関する調査・実証を行い、国産木質バイオマスの活用促進、安定供給の確立等を図る。

水力発電の導入加速化補助金

2021年度概算要求額25億円(新規)
水力発電の事業初期段階における事業者による調査、設計や地域における共生促進に対し支援を行うことで、2021年~2025年の5年間で50MWの新規導入を目指す。

2024年、苫小牧CCUS拠点への液体CO2船舶輸送を目指す

「CCUS/カーボンリサイクルの推進」には、前年度比21.2%増の530億円を計上した。CO2を吸収してつくられるコンクリート、CO2から化学品を製造する人工光合成、2024年に世界に先駆け、苫小牧CCUS拠点への液体CO2船舶輸送実証のほか、カーボンリサイクル・CCUS(CO2分離・回収・有効利用・貯留)技術の開発支援、そして脱炭素化に向けた資金環境の整備を行う。重点政策は下記のとおりである。

カーボンリサイクル・次世代火力発電の技術開発事業

2021年度概算要求額195億円(2020年度当初予算額155億円の内数)
石炭火力発電所から回収したCO2をメタンや炭酸塩、化学製品原料、液体燃料等に転換するカーボンリサイクル技術に関し、低コスト化や低エネルギー化を目指し技術開発を実施する。
特にCO2を吸収するコンクリート製造技術については、鉄筋コンクリート等への用途拡大や低コスト化を図り、2030年に従来品と同等のコストを目指す。

化石燃料のゼロ・エミッション化に向けたバイオジェット燃料・燃料アンモニア生産・利用技術開発事業

2021年度概算要求額52.8億円(2020年度当初予算額45億円)
バイオジェット燃料の商用化に向けて、CO2を集中的に吹き込んで成長促進させる微細藻類培養技術等の実証事業を行う。また、燃焼時にCO2を排出しない燃料アンモニアの利用・製造システムの確立に向けた技術開発等も行う。

CCUS研究開発・実証関連事業

2021年度概算要求額65.3億円(2020年度当初予算額62億円)
二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術の実用化、将来の社会実装に向け、①苫小牧での大規模実証における圧入後のCO2の監視(モニタリング)、②世界に先駆けた船舶による液化CO2の長距離輸送実証、③既存設備で分離・回収したCO2を利用したカーボンリサイクル(メタノール合成)実証、④安全なCCS実施のためのCO2貯留技術の研究開発を実施する。

水素社会の実装に向け848億円

水素社会の実現に向け、豪州から水素を液化水素船で運ぶ世界初の実証や、福島における再エネ由来水素等による駅や工場のCO2排出ゼロ化、水素を活用して鉄鉱石を還元する製鉄技術の実証・開発を支援するのが、「水素社会実現の加速」である。前年度比21.1%増となる848億円をあてた。重点政策は下記のとおり。

産業活動等の抜本的な脱炭素化に向けた水素社会モデル構築実証事業

2021年度概算要求額78.5億円(新規)
「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」で製造した水素等を活用し、公共施設等への電熱供給、駅や工場のゼロエミッション化、水素ドローンや燃料電池自動車(FCV)をはじめとする多様なFCモビリティの導入実証等を実施し、福島県等において水素社会の先駆けとなるモデルを構築する。

未利用エネルギーを活用した水素サプライチェーン構築実証事業

2021年度概算要求額74.8億円(2020年度当初予算額141.2億円の内数)
水素社会実現のため、海外に豊富に存在する未利用エネルギー(褐炭や副生水素等)を活用した水素の製造、輸送・貯蔵、利用(水素発電)に至る、国際的な大規模水素サプライチェーン構築の基盤となる一連の技術の確立を目指す。

クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金

2021年度概算要求額200億円(2020年度当初予算額130億円)
省エネやCO2排出削減に貢献するだけでなく、災害時の電源としても活用することができる電気自動車やFCV等のクリーンエネルギー自動車の導入および充電インフラの設置を支援することで、世界に先駆けて国内市場の確立を図る。

全国大で地域マイクログリッドの実装支援

原子力イノベーションの推進とともに、原子力立地地域振興策を強化するのが、「安全最優先の再稼働と原子力イノベーションの推進」である。仏・米と協力した高速炉や小型軽水炉(SMR)等、国際連携による革新炉の開発、持続的な原子力事業に不可欠なサプライチェーン支援による産業基盤の強化、原子力立地地域の着実な支援に向け、前年度比5.5%増となる1,371億円を計上した。

2021年度予算の概算要求には、「社会環境の激変に対応した資源・エネルギー強靭化」施策も盛り込まれている。「新たな日常」の実現への貢献、ポストコロナの資源確保、そして災害等に強いエネルギー供給網の3分野から構成されており、中でも「新たな日常」の実現への貢献には、全国数十ヶ所での地域マイクログリッドの実装支援や、蓄電池等の分散型エネルギーリソース(DER)を活用した系統安定化等の実証事業に取り組む。要求額は前年度比15.7%増となる4,305億円である。詳細は次のとおり。

蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業

2021年度概算要求額60億円(新規)
蓄電池等の分散型エネルギーリソース(DER)は、需給ひっ迫における一般送配電事業者によるデマンドレスポンスへの活用実績が増える中、逆潮流も含めたDERの制御による系統安定化への貢献等、DERを活用した効率的な電力システムの構築、そして再エネの普及拡大を実現する。また、FIP制度の導入等を踏まえ、太陽光発電や蓄電池を組み合わせた、より高精度な発電予測・制御等の実証を行う。

https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2021/pr/en/shoshin_taka_04.pdf

① ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証
再エネ電気の供給量に応じた卸電力市場価格に連動して、電動車の充電タイミングをシフトする取り組みを拡大。また、小売電気事業者と電動車ユーザーに経済性のある電動車利用支援アプリを通じた、ユーザーの放充電行動の支援や、小売電気料金メニューの開発等を進める。

② 再エネ発電等のアグリゲーション技術実証
FIP制度導入を踏まえ、太陽光発電等多数の再エネや蓄電池等のDERを束ね(アグリゲーション)、需給バランス確保のための発電量予測や制御技術等の実証を行う。 また、蓄電池やエネファーム等からの逆潮流・周波数調整機能等の活用や、IoT技術を活用した分散型リソースの稼働状況把握のための実証も行う。

地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業

2021年度概算要求額46.8億円(2020年度当初予算額17.3億円)
地域にある太陽光発電等の再エネを活用し、平常時は下位系統の潮流を把握・制御し、災害時による大規模停電時には自立して電力を供給できる「地域マイクログリッド」の構築を支援。再エネ事業を地域に定着させ、長期安定的な事業運営を確保するため、地域共生に取り組む優良事業を認定する。


2021年度予算の概算要求は、財務省における検討・調整等を経て、2021年1~3月にかけて通常国会での審議・可決後、正式に成立する。

参照
経済産業省「令和3年度経済産業政策の重点、概算要求・税制改正要望について」2020年9月30日
経済産業省「令和3年度 資源・エネルギー関係概算要求の概要」2020年9月

(Text:藤村 朋弘)

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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