エナシフTVの人気コンテンツとなっている、もとさん、なおさん、やこによる「脱炭素企業分析」シリーズ、特に好評だった企業事例を中心にEnergyShiftではテキストでお届する。第4回は、微生物由来のバイオ燃料の商品化を目指すユーグレナである。
そもそも、ユーグレナとはミドリムシのこと。
池などに生息し、昔の教科書では「動物でも植物でもある」とされ、光合成もするが、行動して餌も食べる生き物とされている。今は動物でも植物でもない原生生物という別の分類。地球上に表れたのは約5億年前。ユーグレナという名前は学名、ラテン語で美しい目という意味である。
そして、この生物の名称をそのまま社名とするユーグレナは、ミドリムシを培養し、さまざまな形での利用を推進している、東京大学発の企業である。すでに上場しているが、会社としてはスタートアップ企業というイメージだ。現在は、食品や化粧品などのヘルスケア事業がメインとなっている。また、現在は直接売っていないユーグレナクッキーという、東大でも売られていたクッキーがあり、今はバングラデシュの栄養不足の子供達に寄付している。
代表的な食品に「からだにユーグレナ」シリーズがあり、他にもサプリメントや化粧品などを製造している。
そして、現在ユーグレナで最も開発に重点を置いているのが、持続可能な航空燃料(SAF)となる、バイオマスジェット燃料だ。
バイオマスジェット燃料の話をする前に、ユーグレナの株価の動向と業績を紹介しておく。
株価は2021年3月中旬をピークに株価が下がる傾向だったが、6月になって持ち直している。2020年初頭に大きく下落したあとは、上昇傾向。
株価上昇の原因の一つとしてあるのが、バイオマス燃料による脱炭素が期待されていることだ。特に持続可能な航空燃料であるバイオマスジェット燃料で航空機が最も期待されているところで、テレビなどで特集も組まれ、実際にバイオマス燃料による航空機の飛行に成功している。
一方、業績についてだが、 2020年9月期決算では売上高133.17億円で14.57億円の経常損失。しかし、ヘルスケア事業に限っては売上高133.01億円、1.15億円の利益を出している。
脱炭素で期待されているエネルギー事業は今のところ、実証段階のものも多く、売上高は1,562万円、9.86億円の損失。
2021年度の決算予測は売上高152億円となっている。
ユーグレナは2005年設立。
出雲社長のバングラデシュの経験から起業。バングラデシュでなかなか栄養を摂れない子供達を目の当たりにし、子供達にしっかりと栄養を与えたい、ということがきっかけとなっている。
栄養が多く、培養しやすい食べ物を探していて見つけたのがミドリムシだった。ミドリムシはハラルフード認定されているので、イスラム圏のバングラデシュでも食べることができる。
創業した2005年にはミドリムシの大量培養に成功。2010年には、バイオジェット燃料の共同開発に着手。他の面白い事業としては、火力発電所のCO2をミドリムシの光合成に利用して培養する、といった事も行なっている。
2017年には年間160トンの生産体制。これは例えば燃料として、1L100円で売却しても1,600万円くらいの事業規模。
2020年にはユーグレナバイオディーゼル燃料完成。バス、船舶にバイオ燃料を導入。
2021年には、ユーグレナバイオジェット燃料が完成、6月4日に初飛行。
いすゞ、ユーグレナ社が共同で進める「DeuSEL®プロジェクト」 石油由来の軽油を100%代替可能な次世代バイオディーゼル燃料が完成しました~いすゞの藤沢工場シャトルバスにて燃料使用を開始します~
ユーグレナ社のバイオ燃料を使用した初フライト実現
国土交通省が保有・運用する飛行検査機において、バイオジェット燃料を導入したフライト・飛行検査業務を実施
ユーグレナの現在の事業をけん引しているのは、食品や化粧品だといえるだろう。
緑のプランクトンの健康食品というと、クロレラを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。実際に、ユーグレナではクロレラの培養も行っている。とはいえ、ミドリムシはクロレラよりも優れている点が2つある。
一つに栄養素。ビタミン、ミネラル、アミノ酸と非常に栄養素が多く、食品として優秀。
サステナブル・タイムズbyユーグレナ「誰もなし得ていない、ミドリムシの屋外大量培養技術を確立せよ。」を元に再編集
もう一つクロレラより優れているのは、体の周りの硬い部分である細胞壁の有無。クロレラにある細胞壁がない分だけ、ユーグレナの方が消化しやすい。
とはいえ、脱炭素企業として期待されるユーグレナのゴールはSAF(持続可能な航空燃料)。これがきちんと商用化されることだ。
なぜ航空機の燃料が重要なのか? それは、自動車については電気自動車や燃料電池自動車などの開発が進んでおり、鉄道についてはすでに電車が走っている。船舶も電気か燃料電池を用いるのでバイオ燃料の必要性は低い。
そうすると残るのは航空機だ。たしかに電動飛行機の開発も進められているが、蓄電池の重量は重く、電気で飛ばすためにプロペラ機になってしまうことが課題だ。
水素をジェット燃料として利用する可能性もあるが、水素は同じ体積辺りだとカロリーが低い。さらに、水素タンクを抱えて空を飛ぶというのも、爆発などの可能性を考えると不安だ。
こうしたことから、CO2を排出しないジェットエンジン用のSAFが必要とされ、その1つとしてバイオマス燃料が注目されている。ほかには、グリーン水素を使って作る合成燃料や、植林などをしてカーボンニュートラルした燃料などもSAFにふくまれている。
ただ現在、ユーグレナのバイオマス燃料は約1リットル1万円くらいと非常に高価なのが問題。これを100分の1まで引き下げないと商用化はむずかしいだろう。
バイオ燃料にも様々あり、食用油を使用後、燃料に変えることも試みられている。
バイオマス燃料については、他社も動いている。例えば大阪の近畿大学が、ミドリムシでジェット燃料をつくる会社MeDreamを2019年に設立したりもしている。
ユーグレナのタグラインは「いきる、たのしむ、サステナブる」というものだ。これをみると、未来志向が高い企業だと感じる。とはいえ、脱炭素企業として考えると、疑問もある。
実際に、ミドリムシは栄養価が高いので、ビジネスとして考えると食品として売った方が利益は出る。世界の問題はエネルギー問題だけではない。SDGsの中でも大事な食糧問題も世界がかかえる問題の1つだ。
あくまで私見だが、ユーグレナは食糧問題を解決する方向にフォーカスした方が、会社としての価値は高いのではないかと考えている。
SAFについては、長期的にグリーン水素がどんどん安くなってくると考えられるので、グリーン水素由来の合成燃料を使う方がバイオ燃料よりも燃料費は安くなるのではないだろうか。
脱炭素という枠にこだわることなく、食糧問題の解決に積極的に取り組んでいくことも、企業の価値を高めるものだと思うのだが、どうだろうか。
(Text:MASA)
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