太陽光発電事業の新たなスタイルとして、近年拡大しているのが、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)だ。農地として利用しながら太陽光発電を行うことは、新たな農業の姿にもつながっていく可能性がある。
こうしたソーラーシェアリングが期待される背景や魅力、将来性などについて、今回から、千葉エコ・エネルギー代表取締役の馬上丈司氏に、紹介していただく。
2030年の太陽光発電の導入目標を150GWに
我が国でFIT制度が始まってから9年目となり、再生可能エネルギー発電はその政策目標の通り劇的な増加を見せている。特に太陽光発電の顕著な増加は、2000年代に失われた太陽光発電大国としての我が国の地位を取り戻す勢いに見えたが、狭小な国土で空き地を埋め、山を切り、農地を潰すという無軌道な開発が、各地で地域の反発を買うことになった。
その結果、経済産業省・資源エネルギー庁に規制強化の口実ばかりを与えたことで、2010年代に起きた国内太陽光発電産業の隆盛は泡と消えようとしている。
しかし、この状況は太陽光発電の持つ本質的な価値が損なわれたことを意味するものではなく、特にFIT制度下で新たに導入された40GW(4,000万kW)以上の事業用太陽光発電によって積み重ねられた知識と経験は、今後の再生可能エネルギー主力電源化時代に間違いなく活かすことが出来る。
現在、我が国における再生可能エネルギー発電の導入目標は、2030年度時点で総発電電力量の22~24%程度であり、太陽光発電のみで見ると7%(約64GW)である。既にFIT制度の成功によって太陽光発電の導入量は50GWを超えており、事業計画認定されているものが順調に稼働していけば、あと2年程度で2030年度目標を達成することになる。
では、8年も前倒しで政策目標を達成するという快挙を成し遂げた後、日本の太陽光発電はどこを目指すべきだろうか。
国際エネルギー機関(IEA)が公表しているWorld Energy Outlookによれば、2030年時点での再生可能エネルギー発電の導入量に関するシナリオで、最も高位のケースでは太陽光発電による発電電力量は3,513TWh(3兆5,130億kWh)とされている。大まかな計算ではあるが、2010年代後半の世界における発電電力量は約20兆kWhであり、我が国は約1兆kWhと世界の5%の電気を消費している。
これを比率として当てはめると、このシナリオにおける2030年時点での我が国における太陽光発電は、1,756億kWhを供給するという計算になる。設備利用率を13.5%と仮定して、約150GW(1億5,000万kW)の太陽光発電設備に相当する。これがひとつ、我が国が最低限目指すべき太陽光発電の導入量と言えるだろう。
食料とエネルギーの同時確保をソーラーシェアリングで
さて、2019年時点で50GWの太陽光発電を2030年に150GWへと伸長させるにはどのような手を打つべきだろうか。
現在の50GWから150GWまで、100GWの新規導入を可能とするポテンシャルがあるとすれば、その選択肢のひとつが農地の活用である。 国内に存在する約440万haの耕地のうち、3%程度を活用することで100GWの太陽光発電を導入することが出来る。
しかし、再生可能エネルギーの導入と同様に、我が国にとっては農業生産を拡大し食料供給を確保していくことが重要な社会課題である。であれば、単に地面を太陽光パネルで覆い尽くしてしまうのではなく、農業生産と太陽光発電を両立させる取り組みが必要となる。それを可能とするのが、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電設備)である。
農業と太陽光発電が共存するソーラーシェアリングソーラーシェアリングは、「農地に支柱を立てて、営農を適切に継続しながら上部空間に太陽光発電設備を設置することにより、農業と発電を両立する仕組み」として、農林水産省が2013年に農地への設置を正式に認めた太陽光発電設備の一形態である。
農作物の生育に支障のない日射・日照と、トラクターなど農業機械が使用できる空間を確保すること、一定以上の作物の収穫量を維持することで、農地における農業とエネルギー事業の重層活用を実現した取り組みとして、我が国を中心に世界へと広まりつつある新たな太陽光発電事業モデルとなった。
特に国内でソーラーシェアリングが注目された理由は、発電設備の支柱部分のみを一時転用するという形を取ることで、農業以外の用途での利用が厳しく規制されている農業振興地域の農用地区域内となる農地や、甲種・第1種農地にも設置することが出来る点にある。これによって、先に述べた国内約440万haの農地のほとんどで、ソーラーシェアリング形態による太陽光発電設備の導入が可能となっている。
明治維新以降、我が国では農地を潰して都市を拡大することによって発展してきた背景から、大都市近郊であってもまとまった農地が賦存しているなど、従来の野立て設備とは違った視点で設備導入ができる。また、農業と共存することが前提となるため、エネルギー事業収入を活用した農業振興に資することや、一時転用許可によって定期的な行政による事業への監督が入ることから、野立てよりも野放図な事業を抑制しやすいことなど、これまでのFIT下における太陽光発電事業とは異なった展開が考えられる。
次回以降、本連載ではソーラーシェアリングの特徴やその将来性などについて紹介していく。