再エネ議連は、二重課税に起因する問題点が多岐にわたると懸念している。
では、具体的に太陽光発電事業者への負担増大によってどのような問題点が生じるのか。再エネ議連が考えるものを挙げていく。
最初に挙がったのは「公平な競争の妨げ」だ。ここでの公平性とは他の電源種と比較しての話を指すが、他の電源種では生じない二重課税が如何に特例的な問題なのかわかるだろう。
次に、二重課税によって事業予見性にも影響が及ぶと予想される。事業計画時点で想定していなかった課税が加われば、借入金の返済計画等を変更せざるを得なくなるためだ。
もちろん、その影響はこれから自立化を目指して事業を開始する事業者にも大きく響く。そもそもの事業の採算自体が成り立たなくなる可能性があるためだ。
最後に、長期安定稼働に及ぶ悪影響も見逃せない。太陽光発電は、国の主力電源を担うことを目指している。太陽光パネル税が導入されれば、FIT期間終了後の事業継続や、そのための再投資意欲が削がれ、長期的な安定稼働に支障が出ると思われる。
ここまで太陽光パネル税の問題点や導入時に想定される課題を挙げてきたが、最後にこの税制が実施された場合、その影響が美作市のみに限られないことについて触れたいと思う。
もちろん、太陽光パネル税をめぐる問題はあくまで美作市の話であって、全国的なものではなかろう、と考える人は少ないだろう。
今回の条例が総務大臣の同意を取得して実行されれば、他の地方都市でも相次いで似たような条例が導入されるであろうことは予想に難くない。
先述の江口氏の資料によると、日本にある太陽光パネルは約21億枚と想定される(稼働済み太陽光発電所からの逆算で1MW=4,200枚。さらに非住宅で稼働済の太陽光発電所の発電量が50,000MWとなるので、4,200枚×50,000MWの21憶枚となる)。さらにそこから、太陽光パネル税が全国に波及した場合の金額が2,730億~4,000億円規模になることにも言及。美作市が挙げている5年間という課税期間も延長可能であることから、一度税収を得てしまえば容易に手放せなくなることが想像できる。
太陽光発電事業には、再エネ戦略のみならず地方創生の目論見も持たれている。地方自治体の財政を潤すための太陽光パネル税が導入されれば、地方創生が遅れるという本末転倒な形を招きかねない。地産地消等の需給一体モデルの推進や発電設備の維持管理等、地域の雇用機会が失われる恐れがある。
何より、太陽光パネル税が導入されれば、再エネにおける最大の課題である長期的かつ安定的なグリーン電力の供給の目処が立たなくなるだろう。再エネ議連では、他の同様の課税で気にするものはないとしているが、今回の課税が実施されれば陸上・洋上風力発電所にも法定外目的税を導入する流れが生じかねないという見方もある。
なお、再エネ議連の全体的な方針としてもやはり太陽光パネル税には反対の姿勢を示している。再エネ議連の会長を務める柴山昌彦衆議院議員は報道陣に向けて、すでに本件が総務省の地方財政審議会にて3度にわたって議論されており、美作市の納税者からは反対意見を受けており、今回の議連の内容もそこに反映させていく旨を伝えた。事務局長の秋本真利衆議院議員は、標準処理期間が約3ヶ月とされる中で、すでにそれを超える時間をかけて慎重に検討を重ねることを強調するとともに、徹底的に話し合うことを美作市にも通達済であるとした。
そのうえで、秋本氏は、地方自治の自主性、特殊性を損なわないことを考え、本件を慎重に問いたいとも発言。地方の個別処理という物をどれだけ認めるべきなのかという点を総務省と確認していきたいとした。
先述のように、太陽光発電事業者はFIT制度下では収入が固定され、価格転嫁できない構造となっている。一般利用者にとって、今は対岸の火事かもしれないが、元より課題視されてきた卒FIT後を待たずして太陽光発電事業が縮小していく可能性が生まれることは、電力の選択肢が奪われることにつながる。国益にまで視野を広げずとも、勤務先の脱炭素化にも悪影響が及ぶ場合もあるだろう。
美作市の災害対策における費用面の問題が悩ましいのは事実であるが、その解決とは別に、再エネ推進に向けた逆風がこれ以上増えないことを願うばかりだ。
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