EUが、バイオマス発電を再生可能エネルギーのカテゴリに入れない、または厳格化するという報道が入ってきた。環境活動家や研究者からは従来から批判もあったバイオマス発電は、ここにきてなぜ規制の議論が再燃しているのか。ゆーだいこと前田雄大が解説する。
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世界中で進行している脱炭素。特に議論が先行しているのがヨーロッパだ。元々、脱炭素には積極的だったが、それが一気に加速している。ハイブリッド車(PHV)をサステナブル投資から外すという動きもそうだが、新しく出てきた動きでは、「再エネからバイオマスを外す」という。
筆者が以前からいうように、脱炭素は気候変動対策の側面もありつつ、国家の覇権争いの側面もあるのが特徴になる。バイオマス問題は、気候変動について真剣に取り組む動きがルーツであり、ハイブリッド車の問題は、国家覇権争いの色が強いと見ている。
こうした国と市民の動きが両方入り混じりながら、脱炭素が加速していく、というのが気候変動問題の特徴であり、混ざりっぷりが顕著なのはやはり欧州。そうした論点を交えて、今日は欧州でのバイオマスの最新動向を紹介する。
再エネはCO2排出を伴わないというのが一般的な考え方だ。例えば太陽光や風力は、設備のライフサイクルとしてのCO2排出は別にすれば、発電時にはCO2排出をしない。
バイオマス発電では、バイオ燃料や木材ペレットなどを燃焼させて、エネルギーを得る。当然、燃焼時のCO2排出が伴う。ところが、バイオマス発電では、バイオマス特有の一連の炭素循環があるため、炭素中立(カーボンニュートラル)である、という考え方をする。
出典:関東農政局
この考え方では、バイオマス(たとえば木材)には、その木材の成長過程で、CO2が(光合成によって)固定化されていると考える。燃焼時にでるCO2は、固定化されたものが元に戻ったと考えることで、CO2はプラスマイナスがゼロになり、中立になる。
また、燃焼させる木材分を、たとえば同じ分量の植林をすることでも、木の成育過程による大気中のCO2吸収は行われる。すると、短期的に同じ分量を木の中に固定化できるとも考えられる。
そのような炭素の循環をしている限り、追加的なCO2の増加は大気中には起こらない。したがって、バイオマス発電はカーボンニュートラルである、という理屈になる。
ただ、実際は、こうしたバイオマス発電には批判があったのも事実だ。原料調達分と同じ分量を、本当に植林などで回復できるのか。それは環境に優しいのか。また、原生林を切り開いた後、仮にその後で植林をしたとして、原生林は戻ってこない。人工林ばかりになってしまうのではないか。
そもそも燃焼時にはCO2を排出するし、カーボンニュートラルの理屈は無理があるのではないか。こうした否定的な意見がつきまとっていた。
環境活動家や研究者らは、木材の燃焼を伴うバイオマス発電は、CO2を排出し、「カーボンシンク(炭素の蓄積)」といわれる、森林による本来のCO2吸収機能を低下させるとして、バイオマス発電に反対をしていた。
彼らは欧州委員会に対して、欧州の「再生可能エネルギー指令」を改正し、森林由来の原料を使った電力を再生可能エネルギーと認めないように求めてきた。
さらに、森林伐採だけでなく、間伐材や廃棄木材など、木材を原料とするバイオマス電力はすべて再生可能エネルギーの分類から除外すべきだと訴えてもいた。
EU内での議論はどうなっているのか。英フィナンシャル・タイムズによれば、バイオマス発電はEUの再生可能エネルギーの3分の2近くを占め、風力発電や太陽光発電などを上回っているという。
もちろん地域的な差異もある。再エネ導入で積極的なドイツは下記のようになる。再エネ比率は4割を超えており、その大くは風力が占めているが、バイオマスも太陽光と並ぶくらいの割合を占めてる。ただ、パーセンテージは8%程度。
ドイツのエネルギー構成比率(2019年)
Public Net Electricity Generation in Germany 2019: Share from Renewables Exceeds Fossil Fuels © Fraunhofer ISE/Bruno Burger
フランスは原発が主のため、バイオマスはほとんどない。
フランスのエネルギー構成比率(2018年)
BP statistical review of world energy 2019 : Environmental Progress
EUの中でもこれらの国では、そこまでバイオマス禁止に同情的ではないかもしれない。これに対して、今回のバイオマス発電禁止措置に反対している国として挙げられているのが、フィンランドやスウェーデンだ。
フィンランドの電力構成を見ると、たしかに、木質バイオマスの比率が高いのが分かる。というよりも、他の再エネは非常に少ない。
フィンランドのエネルギー構成比率(2016年)
Finnish energy mix. Source: Statistics Finland, Energy. : ResearchGate
スウェーデンも、バイオマス発電の比率が高い。原子力、水力が1位、2位だが、それと並ぶほどバイオマス発電は高い。
スウェーデンのエネルギー構成比率(2017年)
Data: Calculated using IEA(2019) online free version.: World Energy Data
こうしたフィンランドやスウェーデンなど、EU主要加盟国の中でもバイオマス発電への依存度が高い国は、EUの「再生可能エネルギー指令」を変更しないように働きかけている。
英FTの報道では、バイオマス発電の方針に関するリークされた内部文書を入手。文書によると、欧州委員会は、木材や、有機性廃棄物を原料とする可燃性ペレットを使うバイオマス電力を、再生可能エネルギーとみなすかどうかの基準となる「持続可能性基準」の厳格化を提案する予定である、ということだ。
また、「ノーゴー・エリア」と呼ばれる多様性の高い原生林からの木材は「再生可能」と認めるべきではないとしている、とのこと。
さらに、英FTによれば、EUのバイオマス総発電量のうち、原生林由来の木材を使用する電力は約18%を占めるため、この措置はそれなりに影響力がでると思われる。
しかし、筆者としては、この内容は、落としどころとして妥当かもしれない、と考える。つまり、古くからある原生林は手を付けない。ただ、人工林やバイオエタノールなどであれば、植林や農業生産などでカーボンニュートラルにできるし、(厳格化の上)大丈夫にする、ということだろう。
この整理であれば、サトウキビ、トウモロコシ、油やし(パーム油)など、加工されたバイオ燃料の元となっているものについてはとりあえず、セーフになるかもしれない。
また、EUの再生可能エネルギー指令の適用対象は、現在、発電容量20メガワットを超える発電施設に限られている。文書によると改正案ではこれを5メガワットに引き下げ、適用対象を広げる方針である。他にも欧州委員会は加盟国に対し、質の高い木材を発電原料として使用することは、他の原料を使い切った場合に限ることも求める方針だ、という。
今回の動きは、環境活動家などの働きかけがEUの意思決定に影響を与えたように見えるが、それだけではないと筆者はにらんでいる。冒頭に述べた通り、EUの脱炭素の原動力は気候変動対策の論点もさることながら、世界のビジネス覇権争いの側面も、EUの場合には必ずある。
脱炭素が進んでいる地域であるからこそ、世界の方向性をより急進的に脱炭素へもっていくことができれば、先行利益などが受けられるためだ。
筆者が外交官時代に感じたのは、EUのこうした"したたかさ"だ。EUという単位でまとまり、ジャイアントパワーを駆使しつつ、加盟国はEUとは別の発言枠で別個で次々と発言をし、数の論理も行使する。
彼らは基本的に、ルールや「標準」を作るやりかたが得意だ。国際的なルール形成では、こうした数の論理やジャイアントパワーの部分が効いてくる。
本当は裏でとりたいもくろみがあるのに、表向きには聞こえのよい理由をたて、とり繕いながら、ルール作りに参画してくる。
そのために、まず、EUとしての統一基準やルールを作る。あとは各国の外交力を組み合わせながら、うまく連携して立ち回る。こういう形でいつの間にか、自分たちの都合のいいルールを国際ルールとして適用してこようとする。
今回のバイオマスの措置も、いまはまだ入口で、ヨーロッパの中でも今回述べたように各国による差異があり、簡単には埋まらないだろう。ただ、今回もし、原生林は使用不可、というルールが作ることができたとなると、今度はそれをテコに、国際的にも原生林はダメだ、と言ってくることが想定される。
そもそも出発地点として、バイオマス発電のカーボンニュートラル理論にメスを入れに来たところも気になるところだ。
とかく、 CO2排出絶対悪、という立場を取りやすい欧州。ハイブリッド車についてはまさにそうした理屈を展開してきている。
より厳しい措置をすることで、自らに得るところが大きいとなれば、一番都合のいい理由を構築して、それを国際スタンダードにしようとする。そうしたことは容易に想像ができる。
そうなれば、炭素比率が高い日本の経済社会モデルに与える影響は大きくなる。そうした点からも、このバイオマスのEUの動きは、今後も注視した方がいいだろう。
今日はこの一言でまとめよう。
『バイオマスの動きに見るEUの今後の動きに要注意』
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