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中小企業にも及ぶ脱炭素の波 企業の脱炭素の成否を握るスコープ1、2、3とは

2021年12月08日

スコープ3の難点とはどこにあるのか

スコープ3の難点は①正確な数値の算出・把握が難しい、②スコープ1・2よりも大きな排出量が算出される、③CO2排出量の算定・報告ができないと将来的にサプライチェーンから外れる可能性が生じてくる、の3点が主なものとして挙げられる。

このうち、①に関しては、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)というスコープの定義を提案した団体ですら、正確な算出が困難だと問題提起をしている。

しかし、その困難さゆえに、先述の日立の新システムのように算出を行う企業が現れ、新たなビジネスチャンスになっているケースがある。他にもOKIグループでは、受託した試験評価サービスによって発生するCO2排出量を測定し、試験結果に追記する新サービスの展開を発表。加えて同グループは、全拠点で使用する電力を順次再エネに切り替えることで、2025年までに全受託試験評価サービスでのCO2排出量をゼロとすることも発表した。

いずれにせよ、困難であることに変わりはないが、第三者検証という形を主として、それに対する解決策が生まれつつあるという状況だ。

②は①にも通ずる問題だ。自社の排出量のみならば把握することができていた企業も、広範囲かつ大量のCO2について把握することは難しい。特に、関連企業が多い大企業ほど、その下請け企業や孫請け企業など、対象がどんどん増えてしまう。そうなれば、その総排出量もネズミ算式に大きくなる。

例えば、豊田自動織機が(株)NTTデータ経営研究所の支援を受けて排出量を把握したところ、スコープ3による排出量が全体の98.1%を占めていたという結果が出た。

サプライチェーンの温室効果ガス排出割合


豊田自動織機HP「スコープ3」より

またスコープ3の中でも、カテゴリー11(製品の使用段階での排出)は、スコープ3全体の91.0%を占めていた。これは、自社製品(フォークリフト、自動車、エンジンなど)が将来(製品の使用、廃棄段階)にわたって排出するGHG排出量の予測値も含んでいるためだとしており、現在のみならず将来的な排出量も含めれば、その総量はさらに膨大になる訳だ。

もちろん、だからと言って、どの企業も手をこまねいているばかりではない。

日立や、NTTデータ研究所などの第三者検証によって実態を把握した後、解決に乗り出す企業は数多い。

他にも、丸紅はスコープ3の可視化プラットフォームの実現を目指すとしており、資材調達に伴うGHG排出量の可視化とともに、環境負荷を考慮したサプライチェーンの最適化を実現するサービスの提供を目指すという。スコープ3の中でも、購入した製品・サービス(カテゴリ1)と輸送、配送(カテゴリ4)を対象に、商社機能などを掛け合わせることで、サプライチェーン全体のGHG削減を狙う考えだ。

スコープ3も含め、自社事業による正確なCO2排出量を把握すれば、優先的に排出量を削減すべき対象を特定でき、長期的な削減案や事業戦略策定にも役立てることが可能だ。特に、パリ協定で定められた温室効果ガス削減目標に整合する目標を設定した企業を認定する国際的なイニシアチブ「SBT」を取得している企業は、その目標との差異を把握することが重要になる。

何故スコープ3の排出量の削減が必要なのか・・・次ページへ

高橋洋行
高橋洋行

2021年10月よりEnergyShift編集部に所属。過去に中高年向け健康雑誌や教育業界誌の編纂に携わる。現在は、エネルギー業界の動向をつかむため、日々奮闘中。

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