カナダは天然資源に恵まれた国として知られている。化石燃料だけではなく、水力発電などの再生可能エネルギーが豊かであり、原子力発電の燃料となるウランなどの鉱物資源も産出する。そして将来に向けて電気自動車(EV)用や電力システムの需給調整用などで拡大が期待されている蓄電池に不可欠なレアメタルについても資源量が豊富だ。
2022年1月28日、カナダ大使館は日本企業に向けて、レアメタルの採掘からEV産業のさらに先にある蓄電池リサイクル事業まで、自国でバリューチェーン全体を提供できるということを前提とした投資セミナーを開催した。
この日、プレゼンテーションを通じて示されたカナダのバリューチェーンとはどのようなものなのか、紹介していく。
この日、最初にプレゼンテーションを行ったのは、カナダ投資庁のコウスケ・アベ氏。海外企業に対し、カナダへの投資にあたっての情報収集やビジネスケースの調査などのサービスを提供している機関だ。
現在、カナダでは“Mines to Mobility”として、EVに必要な技術だけではなくレアメタルなど天然資源も有していることをアピールしている。とりわけ、紛争鉱物として問題が大きいコバルトについても産出しており、北米唯一の精錬所もある。
また、不足する資源を有効利用していくためのリサイクル技術を行なうスタートアップ企業もある。
EVについても、GMやステランティスなど大手5社を誘致しており、部品会社は700社を超え、年間500万台を輸出しているということだ。
こうした点に加え、とりわけオンタリオ州とケベック州については米国へのアクセスの良さも評価されているということだ。
カナダ天然資源省のリュック・レボーエフ氏は、レアメタルがいかにビジネスチャンスとなっているのかについて語った。レボーエフ氏によると、世界銀行は今後リチウムの需要だけで500%ものびるという予測をしているという。世界のエネルギー需要は鉱物資源によって供給されるようになっていくということでもある。こうした中、下の図に示されるように、ほぼすべてのレアメタルの鉱山を有するカナダの鉱業はESGを理由に世界から好意的に見られているという。労働環境などさまざまな配慮がなされているからだ。
(緑は卑金属、青は貴金属、灰色は両方を産出)
出典:Canada.ca(The official website of the Government of Canada)
一方、カナダ・イノベーション・科学・経済開発庁のシェリル・ホールデン氏は、カナダの製造業がいかにCO2排出が少ないのかという点を強調した。カナダの電力の82%はCO2を排出しない電源に由来している。60%が水力、15%が原子力、7%がその他の再エネという内訳だ。
こうしたことに加え、教育政策にも力を入れていることから、労働者の質が高いことも指摘。産業誘致にあたっての優位性を強調した。
カナダ天然資源省のアンナ・ヴァンダーキャンプ氏は、主に蓄電池の拡大とそのリサイクルについてプレゼンテーションを行った。
カナダでは電力の需給調整にあたって、揚水発電を古くから利用してきただけではなく、蓄電池をはじめフライホイールなど多様な蓄電システムを導入、あるいは開発を行なっている。蓄電システムは秒単位の調整から季節単位の調整までさまざまなものが必要とされる。そうした中にあって、用途が幅広いことから今後主力となっていくのは蓄電池だという。
カナダでは蓄電池リサイクルを行なうスタートアップ企業はいくつも登場しているが、この日はLi-Cycle社とLithon社を紹介した。いずれもリチウムイオン蓄電池のリサイクルを中心とした事業を行なっており、年間5,000トンの処理能力を構築ないし計画している。
出典:Li-Cycle社
出典:Lithion社
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