やっぱりすごい トヨタの蓄電池戦略 | EnergyShift

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やっぱりすごい トヨタの蓄電池戦略

やっぱりすごい トヨタの蓄電池戦略

2021年09月08日

9月7日、トヨタ自動車が会見を開き、蓄電池の戦略を発表した。1.5兆円という投資額を発表したことで、金額ばかりが取り沙汰されているが、記者会見を全部見ると、実際には、テスラやフォルクスワーゲン(VW)がやっているような、包括的なバッテリー戦略の詳細説明だった。トヨタここにありを示した会見で、これはまさにトヨタ版「バッテリーDAY」といえる。今回は、トヨタの蓄電池戦略について、ゆーだいこと前田雄大が解説する。

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トヨタ版「バッテリーDAY」6つの注目点

すでに、いくつか報道されており注目論点も多い。そこで、今回は次の6つについて、一つずつ、解説していきたい。

  1. なぜ、トヨタは1.5兆円を蓄電池に投資するのか
  2. 全固体電池の現状について
  3. トヨタの蓄電池に関するこだわりと考え方
  4. トヨタの電池のフルラインナップと、バイポーラ電池の採用について
  5. 蓄電池のコスト低減、かつ、電費改善について
  6. トヨタの蓄電池戦略を通した全体の考え方

それでは、①1.5兆円の蓄電池投資について解説していきたい。

なぜ、トヨタは1.5兆円を投資するのか

トヨタは電動化が基軸だと分かっている。そして、その中でコアとなるのは次の図のとおり、モータ、パワーコントロールユニット、そして、蓄電池である。


出典:トヨタ自動車

それは、BEVはもちろんのこと、FCVだろうがPHEVだろうが、HEVだろうが、蓄電池は使う。そのため、この蓄電池は、これから非常に大事になる。

そこで、トヨタはシンプルに「蓄電池生産に新規投資します」と宣言した、という格好だ。その額が1.5兆円。そして、それは2030年までのタイムラインで投資がされていくことになる。

内訳だが、5,000億円が研究開発。そして、1兆円が生産ラインの増強になる。

5,000億円の研究開発の中には、後述するが、一台あたりの蓄電池のコスト低減も含まれている。

そして、設備増強の1兆円。一気に全額投資するのではなく、毎年コツコツと投資して、段階的に生産ラインを増やしていくという形になる。ちなみに、トヨタの2021年3月期の電池向け投資額は800億円。この額を増やし、そして継続して積み上げていく。今後は年1,000億円超の水準を2030年まで続け、その合計が1兆円になる。

元々は2030年までに180GWhの生産能力を目指すとしていたトヨタだったが、昨今の脱炭素、車の電動化の波を踏まえて、今回の投資で増強。2030年までに200GWhの生産能力にする、とした。

あれだけバッテリー工場を作るといったVWも欧州全体で240GWhの目標だ。200の大台に載せた、ことは評価できる。もちろん、仮にBEVの普及が予想よりも早い場合は、200GWh以上とすることも想定している。

その増強スケジュールだが、まず2025年までにBEV用の蓄電池ラインを10本増強、2026年以降、毎年10本以上の生産ラインの増強を行い、トータルで70本程、BEV用として用意していく予定だ。

トヨタもかなり軸足がEVに移ってきた感がある。

続いて世間で関心を集めている②全固体電池の現状、こちらについてお伝えしたい。

全固体電池の現状とは

まず全固体電池、これは次世代電池として、各国の企業が競争しており、開発・導入を急いでいる。

トヨタは世界で一番、全固体電池の特許を持っており、その観点ではフロントランナーでもある。

さまざまな特性を持つ全固体電池だが、次の図のように整理できる。


出典:トヨタ自動車

イオンの動きが速い、高電圧に耐えられる、高温への耐性があるという特徴から、高出力で、航続距離が長くなり、また充電時間を短くすることができる、という夢のような特性がある。

プラス、安全性も高いと一般にはされている。

さて、その全固体電池、開発状況について発表があったのだが、二重の意味で意外な発表であった。

まず一つは進捗という意味での意外性だ。

全固体電池搭載の車がナンバーを取得して、日本の道路を走っていることが会見で言及された。

全固体電池搭載の車のナンバー取得は世界初。

去年6月に試作車を作成し、走行データを入手。それらを踏まえて8月にナンバーを取得し、一般走行をし、さらにデータを取得していったという。

その結果、判明したことがこれだ。


出典:トヨタ自動車

元々特性としてイオンの動きが速いことは分かっていたが、それが想定以上に速いことが分かった。イオンが高速で移動するということは、それだけ出力が高くなるという特性が出てくる。しかしその一方で、寿命が短くなるという欠点も出てくる。

そうした特性から、全固体電池については、BEVではなく、まずはHEVから搭載をし、そこでデータを溜めながら、改善をしてBEVにつなげていくという発表がされた。

てっきり、全固体電池はBEV用かと思いきや、まずはHEV、ここが2点目の驚きだ。

ただ、見えてきた特性と課題を踏まえ、しっかりロードマップを描く。しかも、世界に先駆けて導入していくというから、さすがトヨタというところではないか。

HEVに搭載し多くのデータが取れれば、それを改良につなげられる。上図右のとおり、隙間の発生を抑えるなどして、高出力の特性を活かしながら、高寿命を両立させる。その先に、優秀なBEV用蓄電池の完成が待っている、そういうロードマップだ。

ちなみに、実際の全固体電池の投入時期は2020年代前半と、こちらは従来の目標を維持した格好だ。

とはいえ、全固体電池もかなり形が見えてきたのではないか。

蓄電池投資と全固体電池について、解説したわけだが、今回はトヨタにとってのバッテリーDAYだ。実際にはもっと奥深い、重要な情報があった。次にそれらを解説していきたい。

トヨタの蓄電池に関するこだわり

③トヨタの蓄電池に関するこだわりと考え方だ。

いま、車載用蓄電池は航続距離、高速充電、そしてコストが注目を浴びることが多い。

もちろん、トヨタはそこも意識しているのだが、それだけでは車づくりはダメだ、安全、長寿命、高品質、良品廉価、高性能、この5つをしっかり高いレベルで実現することが重要だとした。


出典:トヨタ自動車

これだけを見ると当たり前じゃないかとなるのだが、明示的にトヨタは会見で、例えば高速充電は電圧を高めれば可能だし、高出力だけを求める、ということも当然可能だ。しかし、電池特性として、それらを追い求めると、安全性がついてこない、と指摘した。

いま、実際に、韓国LGの蓄電池の発火が問題となっている。現代もGMもリコールにまでなり、そして、GMと蓄電池プラットフォームを共同開発するホンダも影響を受ける可能性がある。

トヨタは、今回の会見で、暗にそこに釘を刺したのではないか。分かりやすい性能だけを求めると、必ず弊害が出る。

だが、車は、安全安心と性能が両立してこそ、であると。

その上で、トヨタの求める電池の安全についても言及した。

次の図のとおり、高負荷が電池に与える影響を分析し、そのデータをとにかく集める。そうしたデータを元に、電池は高負荷がかかれば、不具合が生じる傾向のあるものだが、そうならば、それをしっかり監視することで、異常・発熱などを検知して、事故を未然に防ぐ仕組みを作り上げた、とした。


出典:トヨタ自動車

トヨタのこだわり、2つ目は長寿命だ。

長寿命については、HEVのときから培ってきたものを昇華させ、BEVにも活かすとし、劣化物抑制などの技術によって、新たに投入するBEVに搭載される蓄電池については10年後の容量維持率を世界最高レベルの90%にする、という目標設定に言及した。

このレベルの寿命をトヨタが実現している、というのは新発見であり、驚きでもあった。これはBEVにおいても、市場は高く評価するポイントになるはずだ。

その上で高品質にも言及。生産工程や、構造がしっかり設計されていなければ、正極と負極の接触が生まれ、これが故障の原因となる。そのため異物の発生を防ぐことが重要であるとして、トヨタはそこを徹底し、故障が発生しない高品質の電池を提供するとした。

これらは、充電や出力、航続距離に隠れがちな論点であり、確かにいま、立ち返らないといけない論点である。

こうした論点でも高いクオリティを出しながら、航続距離、出力、充電でも高い答えを出す、それがトヨタの目指すところであり、実際にそれが実現できたら、脱炭素時代においても「トヨタ強し」、になるのだろう。

こうした蓄電池の根底思想を共有した上で、④トヨタの電池のフルラインナップと、バイポーラ電池の採用について触れたい。

電池フルラインナップとバイポーラ蓄電池

これがトヨタのフルラインナップだ。


出典:トヨタ自動車

HEVの場合は瞬発力が重視される。その特性を踏まえて開発されたニッケル水素電池、リチウムイオン電池、それらを進化させるとともに、今年から新たにバイポーラ型ニッケル水素電池を搭載する。

対して、持久力が重視されるBEVやPHEVについてはリチウムイオン電池を進化させるとともに、全固体電池を含む次世代電池を投入していく、とした。

それぞれ求められる車の特性によって、使い分ける、というトヨタ鉄板の「オールメニュー」対応になっている。蓄電池でオールメニュー、これは競争上強いし、かつ、脱炭素にしっかり乗ってきた感がある。

そして、次世代の電池がこれだ。

いまのリチウムイオン電池は液系だが、それに対して先述した全固体電池がある。

ただし、全固体電池だけではなく、液系電池についても、材料の進化という方向性、そして、新構造の両方を模索するとした。これを2020年代後半投入に向けて開発をしていく、という。

それに加えて、世界で初めてバイポーラ型の蓄電池を車に投入する。

バイポーラ型は構造が異なり、その結果、従来型だと電流が多くの経路をたどるが、バイポーラはストレートに大電流を流すことができる。そのためコンパクト化とともに、高出力が実現できる格好だ。

バイポーラ型蓄電池は今年から新型アクアに搭載され、同じ体積で2倍の出力を実現するに至っている。

高出力以外にもバイポーラには利点があり、まず構造がシンプルであること、シンプルゆえに部品点数が減る、という利点もある。メディアとの質疑応答でも、「BEVに使えるのか」という質問に対し、「使える」とトヨタは回答。ただし、「あくまで選択肢の1つである」としたところが、オールメニューのトヨタらしい。

いずれにしても、蓄電池の世界で注目されるバイポーラ型、これも車搭載世界初であり、いかにトヨタが蓄電池でも進んでいるかが分かる。

ここまでの解説に対して、「技術は分かった、でもコストは?」と思う読者も多いだろう。

そこで次に⑤トヨタによる蓄電池のコスト低減、電費改善について解説したい。

蓄電池のコスト低減、電費改善はどこまで進むのか

概念はシンプルだ。


出典:トヨタ自動車

まず電池そのもののコスト低減をはかる。

高価なコバルトやニッケルなどはできるだけ使わず、別の材料を模索し、材料費を安くしていくというのが一点。次に、いまは電池パックを作っているが、これをパックレスにして、車と一体構造にすることで、無駄を減らすなど、構造からのアプローチがある。

またいまは、電池は寿命追及との両立の観点から、電池容量を100%使い切らないエネルギーマネージメントにしているが、寿命を追求しつつ、使用可能容量比を高めるとも言及。

それら改善を行うことで、2020年代後半には30%、電池そのもののコストを下げる、とした。

加えて、車における電費改善も盛り込んだ。

走行抵抗の低減のほか、車の軽量化や、高効率のパワー半導体の導入にも言及。車の電費を30%改善するとした。電費が30%改善するとは、同じ航続距離実現のための蓄電池容量を30%減らせることであり、車一台あたりのコスト改善にもつながる。

トヨタは、電費改善も合わせて、トータルで車1台あたりのバッテリーコストを2020年代後半までに50%下げると発表した。

EVは蓄電池のコストが全体の3割を超えると言われている。蓄電池が50%低減するということは、車自体の価格が15%以上下がることになる。

品質を高めながら、同時並行でコストを下げる。ここは日本メーカーが頭ひとつ抜け出しており、テスラやVWの発表と比べても引けをとらない。さらに、安全・品質という論点では上をいく印象すら与える。

このバッテリー戦略を携えて、トヨタはどう戦うのか。

最後に⑥トヨタの蓄電池戦略を通した全体の考え方について解説する。

トヨタはどう戦うのか

トヨタが会見冒頭で示した図がこれだ。


出典:トヨタ自動車

トヨタはあくまでもカーボンニュートラルの実現に貢献する。その中で、再エネが進んでいる地域はゼロエミッションヴィークル、それ以外のところは移行期としHEVも含めた電動化である、とした。

こうした地域事情の差、そして、ニーズが異なる中、トヨタは、電動化という中で、オールメニューでやっていくと強調した。

やはり、根底にある考えは、そこにあるニーズ、それに細やかに答えるために、オールメニューを用意する、ということだ。

BEVであれば、アメリカは航続距離を求める、中国はそこまで航続距離はいらない、といった差も出てくる。とすれば、適する蓄電池も異なる。そうした異なる事情、ニーズに、蓄電池レベルでもオールメニューで細やかに柔軟に対応する、それがトヨタだとしたわけだ。

今回の一連の蓄電池戦略を聞けば、いかに、この精神でトヨタがやってきたかが分かるだろう。

たしかにHEVに傾倒し過ぎた時期があった。BEVについては若干読みを誤り、後発になり、いまもチャージ中だ。ただ、その肝となる蓄電池については、しっかりと論点を押さえてやってきた、この部分については十分見えたかと思う。

あくまでも指標の一つに過ぎないとしながらも、電池関連の特許数でも世界1なのだという点もトヨタはアピールしていた。これも一つの裏付けにはなるだろう。


出典:トヨタ自動車

しかし、全て自前でやるのか。この問いについてはパートナーシップを広く持つと説明。中核となるのは、トヨタ・パナソニック連合だが、CATLなどの中国企業とも提携をする絵図が示された。その上で、パートナーシップも車のニーズも、地域によって使い分けるとしている。


出典:トヨタ自動車

車の電動化はまさに群雄割拠。テスラ、VWが先行する中、上海ウーリンのような中国の新興勢力も急成長している。少なくともBEVのセールスでは、いまは後発のトヨタ。

だが、今回の戦略には巻き返しに十分な材料があったのではないか。コストを下げ、性能を上げ、安全性は引き続き維持して、いい車を作る。

重要な論点をしっかり押さえて、「トヨタ強し」、この姿を世界に示してほしい。

今回はこの一言でまとめたい。
『バッテリー戦略もトヨタはすごかった』

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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