製鉄会社にとって、カーボンニュートラルは守りの脱炭素である一方、エンジニアリング部門は攻めの脱炭素だといえる。日本製鉄の子会社である日鉄エンジニアリングがオンラインによる記者懇談会を開催した。そこで示されたのは、エンジニアリング会社としての成長のチャンスは洋上風力とデジタル化にある、ということだ。
2021年8月25日、日鉄エンジニアリングは記者を対象とした社長懇談会をオンラインで開催した。
石倭行人社長のプレゼンテーションは、次のような内容だった。
現在、エンジニアリング業界は大きな変革期を迎えており、特にカーボンニュートラルとそれによるエネルギートランスフォーメーション、そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)は成長のチャンスだという。
このうち、石倭社長はこの日はカーボンニュートラルに焦点を絞って話した。
会社としては、2025年には脱炭素・低炭素関連の売上比率を50%まで高めることが目標だという。この時点では、地熱発電や廃棄物発電、バイオマス発電など、既存の事業の延長の割合が高い。また、洋上風力も成長させていく。その先、2030年には、水素ステーションやCO2回収技術が登場する。こうした中にあって、洋上風力とCCUSは重要なものとなっていくということだ。
とりわけ洋上風力については、BOP(Balance of Plant:本体工事には含まれない、基礎や海底ケーブル、変電設備など)案件として、基礎メーカーとしてEPCを受注する一方、その後のメンテナンスなどにも取り組んでいくということだ。国内外で実績を積み重ねていく上で、とりわけ日本の場合は気象条件や地震などの課題があり、こうした条件で安全なものをつくっていくことを自分たちの知見としていくということだ。
また、日本は年間を通じて工事可能な期間が短いため、効率的な施工を確立することになる。そうした取組みを通じて、2030年にはBOP案件として年間1,000億円を目指すとしている。
出典:記者懇談会配布資料
DXについては、所管する高田寛執行役員がプレゼンテーションを行った。
日鉄エンジニアリングにとって、DXでは、O&Mの効率化とEPCのデータの標準化が大きなウエイトとなってくるという。
O&Mについては、個別のプラントで行っている作業などについて、横ぐしで管理できるものとしていく。また、遠隔での作業が広がれば、オペレーターの省力化にもなる。
EPCについては、設計段階から標準化していくということだ。とりわけ物流施設は標準化に取り組みやすいとしている。
この他、電力需要予測にも取り組む。日鉄エンジニアリングは分社時に当時の新日本製鐵から電気事業を受け継いでいる。その経験を踏まえ、需要予測を商品化できれば、他の小売電気事業者に販売することもできる。
さらに、こうしたDXを成功させていくためにも、人材育成を行っていく。プラントなどには機密事項もあるため、開発や人材育成はインハウスで行っていくということだ。
プレゼンテーションのあと、各社との質疑応答も行われたが、洋上風力に関する質問が多かった。
年間1,000億円という売上は、国内の洋上風力の市場規模を年間5,000億円と想定した上で、その6割について受注、BOP分が1,000億円になるという計算だ。
また、その先には、PPAとしての洋上風力や、電力安定化のための蓄電池によるソリューションも視野に入れているという。
一方、洋上風力の事業の先には、どのような新規事業を見据えているかという質問に対しては、CCUSをはじめとする多様な事業に着手していくと答えた。その中には、水素関連事業なども含まれている。また、CCUSについては、製鉄プラントにも応用できる技術でもある。その意味では、グループとしての本業である製鉄事業での脱炭素への貢献も期待されるだろう。
エネルギーの最新記事