原発は「エース」から「控え」に:過度な期待は危険、依存度は下げるべき ―シリーズ:カーボンニュートラルと原子力発電(1) | EnergyShift

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原発は「エース」から「控え」に:過度な期待は危険、依存度は下げるべき ―シリーズ:カーボンニュートラルと原子力発電(1)

原発は「エース」から「控え」に:過度な期待は危険、依存度は下げるべき ―シリーズ:カーボンニュートラルと原子力発電(1)

2021年10月20日

2030年温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラルという日本政府の目標に対し、再エネとともにCO2を排出しないエネルギーである原子力は、どのような役割を果たすのか、あるいは果たせないのか、議論が分かれるところだ。実際に、原子力はどのように扱っていくべきなのか、有識者の見解を示していただいた。その第1回は、元原子力委員会委員長代理であり、長崎大学核兵器廃絶研究センター教授の鈴木達治郎氏にご寄稿いただいた。

シリーズ:カーボンニュートラルと原子力発電

はじめに

福島原発事故後、初のエネルギー基本計画(2014)*1には、事故を起こしたことへの反省を忘れないとしつつ、「原発依存度を可能な限り低減させるの方針」の下、「重要なベースロード電源として確保していく規模を見極める」としている。この一見相矛盾する政策が、福島原発事故以降の原子力政策となっている。

これは大変わかりにくい政策だ。

今回、カーボンニュートラルを目標にした新たなエネルギー基本計画でもこのあいまいさは残りそうだ。はたして、カーボンニュートラルを達成するために原子力発電をどう扱えばいいのか。その判断には、原子力発電の実力を客観的に見極める必要がある。その評価を避けているから、上記のような迷ったままの政策になっているのだ。脱原発か否かの二極論に陥ることなく、冷静に原子力発電の評価をすることが本論の目的だ。

原子力発電利用の3大条件はそろっているか:経済性、安全性、社会の信頼

原子力の将来を占ううえで、重要な要素として考えなければいけないのが、経済性、安全性(供給安定性と言い換えてもよい)と社会の信頼である。この3つがそろわない限り、ベースロード電源としての重要性は失われるだろう。

経済性について、大きな転換点を迎えるデータが公表された。2030年時点で平均発電コスト比較では、原発は最も低コストではなくなったのである*2(図表ー1)。

これは政府による発電コスト比較が公表され始めてから初めてのことであり、原子力政策の将来を占ううえでも重要な転換期ということができる。この経済性悪化の背景には、当然のことながら福島原発事故の影響がある。

発電コスト検証ワーキンググループの推定によると、1基あたりの追加安全対策費用は約2,000億円に上り、資本費に換算すると1,369億円、発電コストに換算すると1.3円/kWh(2015年時には0.6円/kWh)に上る。事故リスク対応費用も、発電コストに換算すると0.6円/kWh(2015年時には0.3円/kWh)であり、これだけで2円近い発電コストの上昇になっている。

さらに核燃料サイクルコストも上昇している。青森県六ケ所村に建設中の再処理工場の総経費は、いまや14.4兆円(2015年時は12.6兆円)に上るとされ、発電コストに換算すると0.7円/kWh(2015年時は0.6円/kWh)となっている*3。これらのコストは今後も上昇するものと予想されており、原子力発電所のコスト競争力は改善する見通しは立たないのが現状だ。

図表ー1   2030年時点での発電コスト比較


出所:発電コスト検証ワーキンググループ、「発電コスト検証に関するとりまとめ(案)」(2021年8月)

さらに安全性と社会的信頼も回復できていない。2021年4月、原子力規制委員会は東京電力ホールディングスに対し、柏崎刈羽原子力発電所への新規燃料装荷を止めるよう命令した。その理由は、中央制御室への違法立ち入りや、核物質防護設備の機能喪失に対する代替措置を怠っていたことが理由である*4。これらは核物質防護措置違反にあたり、厳しい規制判断が下されたことになる。このような状況では、原子力産業や政府に対する信頼感は回復できない。

経済性の神話も、安全神話も崩れ、社会的信頼も回復できそうにない。そうなれば、エネルギー政策としての選択は、やはり「ベースロード電源として確保」するよりも「原発依存度をできるだけ低減する」政策をとるのが賢明であろう。

原発の拡大・縮小にかかわらず解決しなければいけない課題として、核のゴミ問題、福島第一原発の廃止措置や賠償、福島の復興問題、再処理から回収されて蓄積しているプルトニウムの処理・処分問題などがあげられる。過去の原子力政策の「負の遺産」とも言える。

これらの重要課題の解決が何よりも重要であり、政府が全力で取り組まなければいけない。原子力発電の将来を論じるのは、それらの問題に解決のめどが立ってからであろう。福島原発事故の持つ意味はそれほど重く、深いものであり、「一時も放念してはならない」のである。

「エース」から「控え」に

それでは、すぐ脱原発に移行すべきなのであろうか。カーボンニュートラルを達成する手段として考えた場合、原発の位置づけは全く必要のないものと言えるのか。

日本経済研究センターの試算(2017)によると、2050年のCO2排出量は原発比率15%の時と0%(脱原発)とでは、その差は2%程度であり、決定的な差にはならない、と結論づけている。ただし、その前提には火力発電からCO2を回収するCCS(二酸化炭素回収・貯留)技術の商業化と環境税導入が不可欠としている*5

さらに、同センターの新たな報告書(2019)では、カーボンニュートラルを目指すのであれば、環境税はトンあたり2万円程度が必要であり、その場合原発ゼロでもCCSの積極導入で実現が可能であるとしている*6(図表―2)。

図表―2 2050年カーボンゼロを達成するのに必要な環境税


出所:日本経済研究センター、「デジタル経済への移行、温暖化ガスは6割減に、2050年8割削減には1万円の環境税、排出量ゼロ、大量のCCSが必要に」、2019年5月7日。

福島事故以前、温暖化対策のエースは、間違いなく「省エネルギー」と「原発」であった。福島事故を踏まえて、原発はいわば「肩を壊したエース」となり、もはや先発1番手としては頼ることはできない。

「省エネルギー(効率改善)」は、デジタル化経済のもとで、最も期待できる1番手のエースとなり、さらに新人の「再生可能エネルギー」と「炭素税」が最も勢いのある2番手、3番手として期待を集めている。

まだ戦力としては未知数だが、将来有望なCCSが4番手として控えており、肩を壊した原発とどちらかが必要になる。CCSの将来がまだ見通せない段階では、「最後の砦」として残しておくことが必要かもしれない。

原発の議論は、どうしても「推進か否か」の二極分化に陥りがちだ。しかし、脱原発を決定しているドイツやスウェーデン、ベルギー、スイス、台湾といった国でも、既存の原発を活用しつつ原発依存度を下げていく現実的な政策を採用している。

CO2削減戦略を構築するうえで、必要なのは、そのような客観的で冷静な分析に基づき、一方で将来の不確実性に柔軟に対応できる戦略である。今の日本のエネルギー政策論議に最も欠けている部分ではないだろうか。

*1 経済産業省「エネルギー基本計画」(2014年4月)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/140411.pdf
*2 経済産業省発電コスト検証ワーキンググループ、「発電コスト検証に関するとりまとめ(案)、令和3年(2021年)8月3日。
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/2021/data/08_05.pdf 

*3 経済産業省発電コスト検証ワーキンググループ「発電コスト検証に関するとりまとめ(案)」21年8月
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/2021/data/08_05.pdf 
*4 原子力規制委員会、「東京電力ホールディングスに対する命令」、2021年4月14日。
https://www.nsr.go.jp/data/000349220.pdf

*5 日本経済研究センター、「環境税導入でCO2、2050年には7割削減は可能~経済構造の変革により環境と経済の両立は可能」2017年10月13日。
https://www.jcer.or.jp/policy-proposals/20180825-3.html 

*6 日本経済研究センター、「デジタル経済への移行、温暖化ガスは6割減に、2050年8割削減には1万円の環境税、排出量ゼロ、大量のCCSが必要に」、2019年5月7日。
https://www.jcer.or.jp/jcer_download_log.php?f=eyJwb3N0X2lkIjo0NjI5MCwiZmlsZV9wb3N0X2lkIjo0NjI4OH0=&post_id=46290&file_post_id=46288 

ヘッダー写真:Mugu-shisai, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

鈴木達治郎
鈴木達治郎

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA) 副センター長 教授 1951 年生まれ。工学博士(東京大学)。専門は原子力政策、科学技術社会論。MIT客員研究員、電力中央研究所研究参事などを経て、2010年1月より2014 年3月まで内閣府原子力委員会委員長代理。核兵器と戦争の根絶を目指す科学者集団パグウォッシュ会議評議員。2017年より衆議院原子力問題調査特別委員会アドバイザリーボードメンバー。主要著書に「核兵器と原発」(講談社現代新書、2017年)、「核の脅威にどう対処すべきか:北東アジアの非核化と安全保障」(鈴木達治郎、広瀬訓、藤原帰一編著、法律文化社、2018年)、「第三の核時代:破滅リスクからの脱却」(吉田文彦、遠藤誠治、鈴木達治郎編著、RECNA叢書、2021年)。

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