日本にはゼロイチのサポーターがもっと必要 環境エネルギー投資・河村修一郎代表取締役 | EnergyShift

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日本にはゼロイチのサポーターがもっと必要 環境エネルギー投資・河村修一郎代表取締役

日本にはゼロイチのサポーターがもっと必要 環境エネルギー投資・河村修一郎代表取締役

2021年04月24日

ベンチャーキャピタルにおいて、これからは脱炭素を含めた社会的課題を解決していく事業を、それもゼロから育てていくための投資を行っていくことが、社会的な要請となっている。これから開発されるべき技術も数多い。
環境エネルギー投資代表取締役の河村修一郎氏への連続インタビュー、第3回では投資を拡大していく意義や政府に求められる政策について語っていただいた。(全3回)

第1回はこちら 第2回はこちら

日本にはゼロからイチをつくるサポーターが必要

― とはいえ、海外と比較すると、まだまだエネルギーテック系のスタートアップなどは日本では少ないような気がします。

河村修一郎氏:我々の果たしている役割に対しては、もう少し資金が必要だと思います。

環境・エネルギー分野は、ある種の専門性というか知識やネットワークがないとやりづらい面があります。リアルのインフラに直結しますし、ハードウェアやソフトウェアも絡み、既存のルールも存在します。

例えば、発電設備ひとつとっても系統とつなぐには複雑な手順が必要となることを理解していないとできません。リスクマネーを張るには、ニッチな世界ですが、経験と知識、人脈がないと難しいのも事実です。こうしたハードルを越えて、我々のような取り組みをする会社が増えていくといいと思います。

最近は、エネルギー会社などのコーポレートベンチャーキャピタルが続々と立ち上がっています。我々と目的は異なりますが、一緒にリスクをとる側面もあるので協力していきたいと思っています。投資ボリュームも増えていくことを期待しています。

ステージにもよりますが、日本にある技術やシーズをある分野で活かそうとすると、手間暇がかかります。

企業側がもっている素材の技術を活かして、省エネの分野で起業したいと考えたとしましょう。それを支援していくエコシステムのプレーヤーにも多くの手間がかかります。そのため、我々だけでは世の中に送り出していける起業家の数に限りがあるのです。

ゼロからイチをつくる支援をする存在が、マクロでみたときに増えていかないといけないと強く感じています

環境エネルギー投資・河村修一郎代表取締役
環境エネルギー投資・河村修一郎代表取締役

日本はありとあらゆる手段で脱炭素を

― 今後、注目していくべき技術などについてお聞かせください。

河村氏:我々は、今、世の中で話題になっているところはすべて見ています。デジタル化や発電・受電の最適化、AIやブロックチェーンはもちろん、物流なども含めたCO2排出量の把握に資する技術などは、一通りチェックしています。

日本はありとあらゆる手段で脱炭素を目指さないといけない状況ですから、そうしたイノベーションはもちろん、より広い視野で検討しなければなりません。例えば、再エネを電池ではなく熱やお湯にかえて貯める手段や、製造業による生産調整で再エネ余剰を吸収する方法もあります。再エネを出力抑制するより、熱やその他いろいろな形で貯められないのかという検討も必要です。余熱利用の分野では、日本にはノウハウがあるのではないかと思っています。

再エネ全般に加え、ありとあらゆる省エネに貢献できるソリューションがあるならば、すべて仔細にチェックすべきでしょう。

我々もよく議論していますが、FIT制度では再エネを買いとりますが、同時に省エネに対してもFITのような制度があってもいいと思います。CO2削減量のカウントとしては、再エネも省エネも同じではないでしょうか。省エネ版FITの買い取りを促すような全方位的な取り組みがあればいいと考えています。

省エネに関しては、家電業界が省エネ性能アップに取り組んでいますが、さらに上流ではまだ省エネの余地があると思います。半導体や素材、あるいは需要家に近いところでの運用改善などです。いろいろなやり方がある省エネに対して、再エネ同様に重要であるという認識を広めたいですね。

政府の積極的な情報開示は、非財務の情報開示の発想と似ている

― 政策に対してのご希望やご意見をお聞かせください。

河村氏:国際イニシアチブとしてRE100は全世界的に浸透したと思っています。私は、RE100のほかにもいろいろな取り組みを推進するイニシアチブがあればいいと考えています。例えば、RE100のほかにもこんなやり方がある、あんな手段ならできるというように、取り組みレベルに応じたイニシアチブがあってもいいのではないでしょうか。


RE100に参加する日本企業は50社を越える

それらのイニシアチブに対して、参加者側が情報を開示していくガイドラインを設けるのもいいと思います。それぞれの企業の取り組みレベルに合った情報開示ガイドライン的なものがあると、エネルギーを「つくる・つかう・つなぐ」といったサイクルが活性化するのではないかと考えています。

また、企業と同じように、政府や自治体も積極的に情報開示をすべきだと思います。官公庁などは多くの建物がありますが、それらの情報を率先して開示していくと面白いのではないでしょうか。エネルギーの見える化を政府・自治体がすすんで取り組むことには大きなインパクトがあると思います。

目標達成までしなくとも、現状をつまびらかにすることがまず重要です。これは非財務の情報開示の発想と似ています。良し悪しではなく、ありのままを見える化すると、場合によっては他者と比べることで、自分たちの特徴を正確に把握できます。

これまでクローズドだった情報を明らかにしていくのは、もはや世の中の流れです。企業はもちろんですが、先回りして政府・自治体が取り組むことでより大きな訴求力になるでしょう。

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(Interview:本橋恵一、Text:山下幸恵、Photo:関野竜吉)

河村修一郎
河村修一郎

2006年に日本初の環境エネルギー特化型ファンド運用会社、環境エネルギー投資(旧日本エネルギー投資)を設立し、代表取締役社長に就任。以後、環境エネルギー分野への投資活動に従事。 1989年日本興業銀行入行、1996年から産業調査部において、電力・エネルギー業界担当アナリスト業務に従事。業界動向の調査、分析を行うほか、通産大臣の諮問機関(電気事業審議会等)の委員スタッフとして、電力規制改革案の提言、制度設計に参画し、エネルギー業界に多くの知己を得る。 その後、2000年より興銀証券(現みずほ証券)にて環境・エネルギー関連企業向けコーポレート・ファイナンス業務に従事。 2003年には、米国コンサルティング会社Strategic Decisions Group(シリコンバレー Stanford Research Institute からのスピンオフベンチャー)と共同で、日本初のエネルギー産業特化型のコンサルティング会社、インダストリアル・ディシジョンズを設立、同社代表取締役社長に就任。3年にわたり、日本のエネルギー・環境関連企業に対する経営コンサルティング事業を拡大、深化させる。それらの活動を通じて、環境エネルギー分野へのリスクマネーの提供と経営支援を併進する事業の必要性を痛感し、投資会社の設立に至る。 東京大学法学部卒、米国Princeton大学Woodrow Wilson School, MPA。

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