東レ<3402>は積極的な投資を続けた炭素繊維事業がコロナ禍で赤字を余儀なくされている。しかし脱炭素の流れが加速する中で、風力発電機の翼用炭素繊維の需要が拡大し、また中国で電気自動車が普及期に入りセパレーターフィルムの出荷が増加している。資源・エネルギー問題の解決を自社の事業領域に盛り込んでいる東レは、脱炭素の成長トレンドに乗ることができるか注目される。
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鉄の4分の1の比重でありながら、鉄の10倍の強度を持つといわれ、かつて夢の素材とされた炭素繊維の世界最大手は東レ<3402>であり、積極的な投資により市場シェアの約30%を握るとされている。
炭素繊維の主な用途は航空機だが、新型コロナウイルス問題の発生で航空機需要が落ち込み、東レの炭素繊維事業は2021年3月期において、赤字が継続中だ。
しかし脱炭素の流れが加速する中で、風力発電機の新設や大型化が相次いでおり、風力発電機の翼用炭素繊維の引き合いが増えている。東レの炭素繊維事業は風力発電用途で息を吹き返す可能性がある。
東レは長期及び中期経営計画において事業部門を、自社の事業を地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決に貢献する“グリーンイノベーション(GR)事業”と、医療の充実と健康長寿、公衆衛生の普及促進、人の安全に貢献する“ライフイノベーション(LI)事業”に分けている。
長期経営計画である“TORAY VISON2030”(2020年5月発表)では、2030年度の目標としてGR事業の売上高4倍(2013年度の4,631億円比)としており、中期計画においてのGR事業は2022年度の売上収益目標が1兆円である。
この中で炭素繊維の風力発電機翼とリチウムイオン二次電池用のセパレータとして使用されるバッテリーセパレータフィルムの成長が期待されている。
風力発電機の翼用炭素繊維は需要量が2019年度から2022年度まで年率約13%での拡大が予想され、同社は2014年3月に買収した炭素繊維子会社・Zoltek社の生産能力を増強している。
また重要な電池材料であるバッテリーセパレータフィルムは、車載用中心に2019年度から2022年度まで年率22%の需要拡大を見込んでおり、同社は年間2~3割の生産能力増強を行っている。電気自動車が特に中国で普及期に入りつつあり、バッテリーセパレータフィルムに対する引き合いも増えている。
東レが今後の成長エンジンとして期待する風力発電の翼用炭素繊維とバッテリーセパレータフィルムは、脱炭素の流れとともに市場の成長が加速しており、同社の成長も加速する可能性がある。
東レの業績は下記で推移している。
売上高 | 営業利益 | 当期純利益 | |
2018年3月期 | 2兆2,048億円 | 1,564億円 | 959億円 |
2019年3月期 | 2兆3,888億円 | 1,414億円 | 793億円 |
2020年3月期 | 2兆2,146億円 | 1,311億円 | 557億円 |
2021年3月期(予想) | 1兆8,700億円 | 900億円 (事業利益) | 390億円 (予想EPS24.3円) |
※2021年3月期よりIFRSを採用
同社はコロナ禍の前より減益が続いている。今期(2021年3月期)からIFRSが採用されるが、最終利益ベースでは今期も減益の見込みである。
今期は特に炭素繊維事業の赤字が痛い。ただし炭素繊維の新規契約分について、2017年以来およそ4年ぶりに約2割の値上げを行うことで採算の改善を急ぐ。
来期は炭素繊維事業が風力発電機向けの需要の伸びや値上げで黒字化できるか、またバッテリーのセパレータフィルムを扱う機能化製品事業がどの程度の伸びを見せるか、という点が業績の鍵を握っている。
東レ サステナビリティ・ビジョン 紹介動画より
東レの株価はコロナショック前に700円を超える水準で取引がなされていたが、コロナショックにより一時400円を割れた。しかし昨年11月以降の上昇で2021年に入り700円を回復し、3月には750円まで上昇した。ただし4月に入り下落基調にあり、700円を若干割れて取引がなされている。
2021年は概ね700~750円間のレンジ相場が続いており、レンジ相場を上下どちらにブレイクするか注目される。
また予想PERは約28倍であり、4月22日の東証1部平均予想PER23.77倍に比べ若干割高の水準だ。PERの観点では株価の行方は2022年3月期業績予想が鍵を握るといえよう。
東レはこれまで炭素繊維に積極的な投資を続けたが、主力の航空機向けがコロナ禍で苦戦を余儀なくされている。しかし風力発電の翼用途が健闘中である。
また中国で電気自動車が普及期に入り、バッテリーセパレータフィルムの出荷も伸びている。長期及び中期経営計画で伸びが期待されていた製品群が、脱炭素の加速を背景に成長の加速が期待できる状態だ。
若干の減益が続く東レだが、脱炭素を追い風に2022年3月期から成長路線を進むことができるのか、今後の株価の行方とともに注目される。
東レ サステナビリティ・ビジョン 紹介動画より
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