水素も脱炭素も任せろ 東レの世界最高レベルのすごい膜 | EnergyShift

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水素も脱炭素も任せろ 東レの世界最高レベルのすごい膜

水素も脱炭素も任せろ 東レの世界最高レベルのすごい膜

2021/09/15

水素社会に向けて、日本企業が続々と動きを見せる中、脱炭素の実現には、日本の素材技術が欠かせないとして、世界の脱炭素ジャイアントが日本企業と提携した。それが東レとシーメンス・エナジーAGの提携だ。両社の提携が水素製造にどのような影響をもたらすのか。ゆーだいこと前田雄大が解説する。

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日本の素材技術がなければ、脱炭素は加速しない

半導体など日本がかつて強かった分野の多くが苦戦している中、いまだに強いのが「素材」分野だ。

実は、いま世界を動かさんとしている脱炭素は、この素材分野が重要になっている。例えば、人工光合成では触媒や膜などの素材が肝になっており、そこで高い技術を示したのが、日本の素材技術だ。そう、日本の素材技術がなければ、脱炭素は加速しない。

脱炭素は、世界を舞台に脱炭素ジャイアントが技術開発を競い合っている。そのジャイアントが水素製造には日本企業の素材が欠かせないとして、提携を申し出てきた。それが9月6日に発表された東レと世界的な再生可能エネルギー企業を傘下に持つシーメンス・エナジーの提携だ。

そこで今回は、両社の提携を紹介したうえで、水素製造、脱炭素にどのような影響をもたらすのか。次の3つの論点を解説したい。

  1. 今回対象となったPEM型水素製造とは何か、なぜ素材が重要なのか
  2. 今回使われた東レの炭化水素系電解質膜とは何か
  3. 脱炭素に欠かせない、東レが持つ先進的技術とは

なぜ、シーメンス・エナジーは東レと提携したのか

今回、東レと提携したのが、ドイツに本拠を置くシーメンス・エナジーAG。

シーメンス自体は情報通信、交通、防衛、生産設備、家電製品等の分野で製造、およびシステム・ソリューション事業を手掛ける世界的企業だが、このエネルギー部門が分離して出来たのがシーメンス・エナジーだ。

シーメンス・エナジーは傘下にシーメンス・ガメサという会社を持っており、このシーメンス・ガメサが、この脱炭素時代、そして風力発電が世界的に拡大するというこの時代において、風力タービンメーカーとしてはヴェスタスに次いで2位に位置している。そして、日本がこれから力を入れていく洋上風力については、ぶっちぎりでいま1位のタービン会社になっている。

こうした特色を持つシーメンス・エナジーが、日本が力を入れている水素、このフィールドにも参入してきた。

今回、シーメンス・エナジーと東レは、革新的なPEM型水電解を用いたグリーン水素製造技術の創出、これによってカーボンニュートラルな社会の実現に貢献するという名目で、両社の「戦略的パートナーシップの構築」に係る基本合意書を締結した。世界の脱炭素ジャイアントと、日本の東レがタッグを組んで、水素に取り組むというわけだ。

この提携で何をしていくのか。洋上風力のように日本市場を奪いにきた、という話ではない。ともに世界を取りに行くぞ、という形になっている。つまり、東レの素材が世界で勝負、という展開だ。

発表によれば、今後、飛躍的に拡大が予想される世界市場獲得に向けて、両社の水素・燃料電池関連技術・事業、グローバルネットワークを活かして世界各国・地域の顧客に最適なソリューションを提供し、再エネ由来グリーン水素の導入拡大、および戦略的なグローバル事業展開を共同で推進していく。

いま、ようやくグリーン水素という文脈が世界で出始めてきた。水素は脱炭素が進展した次、つまり、次の次だ、という話は以前、解説したが、そこに、シーメンス・エナジーとしてはシェア拡大に向け、今から体制を構築したいという思惑がある。ただし、製造の肝となる技術、そこが足りない。そこで白羽の矢が立ったのが東レだった。

発表においては、シーメンス・エナジーと東レは、再エネ等由来の電力を用いて、水の電気分解からグリーン水素を製造、そこで得られたグリーン水素を、大規模発電等の電力用途のみならず、熱・輸送燃料・産業用途で活用するセクターカップリングによって脱炭素を進展させていく、という。

さっそく東レとシーメンス・エナジーは、8月に採択されたNEDOのグリーンイノベーション基金事業「再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造プロジェクト」に参画。このプロジェクトで、国内最大級10MWクラスのPEM型大型水電解装置の技術開発、建設、実証を共同で推進していくとした。

このプロジェクトで今回採用された水素装置がPEM型である。PEM型とは何か、気になる読者も多いはずだ。そこで、PEM型水素製造とは何か、なぜ素材が大事なのか、解説していきたい。

PEM型水素製造とは何か

今回、作るのはもちろん、再エネ由来のCO2フリーのグリーン水素だ。

水に電気を流し、電気分解して水素と酸素に分離する水電解、これが一般的な製造方法であり、3つ手法があるとされている。


出典:水素・燃料電池戦略協議会 CO2フリー水素ワーキンググループ「CO2フリー水素ワーキンググループ報告書

一つ目が、水に導電性のカリウムイオンなどを溶かしたアルカリ水電解法だ。

アルカリ水に接するように陽極と陰極があり、その間を電気が流れ、その時にアルカリ水が分解して酸素と水素が生成される、という従来から使われている方法になる。

そして、上図の一番右のものが高温水蒸気電解と呼ばれるものだ。水蒸気を電気分解する形で、通常の状態で水の電気分解を行うよりも高い効率で水素が製造されると考えらえている。現在、この高温水蒸気電解は原子力発電の排熱とセットで、と考えられているが、まだ研究開発段階にある手法になる。

対して、今回、採用されたのが、上図真ん中のPEM方式。PEMというのはPolymer Electrolyte Membraneの略で、日本語名称は固体高分子膜。PEM方式では、まず、陽極で酸化反応が起き、そこでプロトン(H)が発生する。そのプロトンがPEMを通って陰極に移動するときに還元反応が生じる。このときプロトンが水素になる、という手法だ。

PEM方式、2つの特徴

このPEM方式の特徴が、アルカリ水電解と比較すると設備の専有面積が小さく、また製造される水素の純度が極めて高いために精製を必要としないといった点があげられる。こうした特徴があるものの、水素製造はまだ先進的な取り組みが始まったばかり。アルカリ水電解がいいのか、それともPEM方式がいいのか、そこはまだ結論は出ていない。そうした中、アルカリ水電解は、旭化成が取り組んでいる。PEM、アルカリ水電解、両にらみで、日本勢が競い合いリードしていって欲しい。

このPEM方式、先述したとおり、膜を通って還元反応で水素が発生する。つまり、この膜が非常に肝になるわけだ。そして、膜といえば素材分野。日本企業が強い分野だ。

そして、この膜、これまでは電解質膜にはフッ素系イオン交換膜等が使用されてきたのだが、近年登場して、ブレークスルーの予感を感じさせているのが、より電解効率の高い炭化水素系膜だ。

今回のPEM方式で使われたのが、そう、東レの炭化水素系膜。曰く、「独自開発の低ガス透過性の膜によって高効率化を実現した」とのことだが、この膜が非常に優れている。

そこで、次に今回使われた東レの炭化水素系電解質膜を解説していきたい。

炭化水素系電解質膜とは何か

東レの炭化水素系電解質膜の取組みは、脱炭素以前からはじまっており、2006年に開発し、実用化している。

曰く、「東レは、2006年11月3日、ナノレベルでの分子構造制御技術を駆使し、水素を燃料とする燃料電池自動車などに適した炭化水素系電解質膜の開発に成功した」という。

そしてこの時点ですでに、従来使われているフッ素系電解質膜は、高コスト、環境汚染の懸念、化学的耐久性が不十分などの課題があるので、炭化水素系の膜を開発した。

これがどれくらいすごいのか。炭化水素系の膜の開発については、山梨大学がNEDOの支援を受け、燃料電池向けの高性能な非フッ素系電解質膜の開発に成功、という発表が一部ウェブメディアなどで報道されたのだが、それが2017年のこと。それに先駆けること10年以上前から、東レはこの炭化水素系電解質膜を開発していたわけだ。

ただし、ここから生産開始までが長かった。東レの資料には次のような形で記載されている。


出典:東レ

サラッと炭化水素系電解質膜については2019年に生産を開始と書いてある。今回の実証ではまさにこの2019年生産開始の膜を使ったわけだが、2006年の開発からかかること10年以上。これだけの時間がかかった。

この膜、さぞすごいのだろう、世界最高レベルではないかと探ったものの、東レが控えめなのか、あまり出てこない。

単なる高効率な膜なのか? それでも探したところ、やはりあった。電力中央研究所が今年4月にまとめたこのレポートにしっかり書かれていた。

「PEMWEの材料面では、東レ株式会社が低コストで環境性に優れる炭化水素系電解質膜の開発に成功しており、その膜を用いた水電解は世界最高レベルの性能を示している」

世界最高レベル。シーメンス・エナジーもそれを求めての連携だろう。

やはり凄かった、東レの素材。東レももっとアピールすべきではないか。

今回の事業では、この世界最高レベルの東レの「炭化水素系電解質膜」をシーメンス・エナジーに供給。両社で協力して、シーメンス・エナジーのPEM型大型水電解スタック・装置「Elyzer」への搭載・実証・事業化を推進するとともに、グリーン水素の利活用分野へのコラボレーション拡大についても検討していく、という形になっている。

「やっちゃえ、東レ」、という感じだ。

しかも東レ、水素文脈だけにはとどまらない。そこで、最後に脱炭素に関する東レの先進的技術について、紹介したい。

脱炭素に欠かせない、東レの先進的技術とは

水素は気体だ。東レが膜に強いと聞くと、水素を取り出す膜がすごいのではないかと思うだろう。そのとおり、非常に優れている。

東レもしっかりアピールしている。その名も水素高選択透過高分子分離膜。

東レは、半世紀にわたり逆浸透膜に取り組んできたのだが、そこで培った精密界面重合技術を深化させ、混合ガスから水素を選択的にかつ高透過可能な、世界最高レベルの高分子系分離膜の創出に成功した。

分離膜構造は次の図のようになっており、ポリアミド製のものが使われているが、ここもポイントだ。このポリアミドが水素高選択透過分離機能層となっており、水素の高選択・透過性を実現しているというわけだ。


出典:東レ

それだけではなく、他社は、パラジウム膜、ゼオライト、炭素膜、高分子製ではポリイミド膜が市販または研究されているが、そのどれよりもポリアミド製の方が安い。

つまり、世界最高レベルなのに安価というわけだ。

さらに、高耐熱高分子素材×精密相分離によって耐熱・耐圧多孔質支持膜を設計。実は、水素の透過性・選択性を高めると耐熱性、耐圧性が下がってしまう、この両立も課題だった。しかし、東レは耐熱・耐圧の膜とポリアミドの層と複合することによって、耐熱性、耐圧性、高水素選択分離性を有する新規分離膜の創出に成功した、という格好だ。

熱かろうが、圧が高かろうが、水素を含む混合ガスから水素を世界最高レベルで取り出すことが可能になる、そういう膜になっている。

ちなみに、水素でいけるなら、CO2の分離もいけるのではないか? 脱炭素時代にCO2の分離は重要になるのではないか? と思われた読者も多いだろう。鋭い!

東レは、同じようにCO2分離膜を開発している。その名も革新CO2分離膜。


出典:東レ

CO2分離性能と高耐久性を兼ね揃えており、かつ、柔軟で非常に細いため、通常の繊維と同じように連続生産が可能で、高密度充填できることからモジュールの小型化が可能だとする。

優れものすぎる。

まだ、開発に成功した段階で、社会実装はこれからだが、東レの膜なしに脱炭素時代は考えられない、と言えるのではないだろうか。

今回はこの一言でまとめたい。
『凄すぎる東レの膜技術 これは世界で勝負できるぞ』

 

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前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボール出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。