テレビや新聞、ウェブニュースなどでも最近よく見かける「SDGs」。これは国連が掲げている2030年までの世界共通の目標です。世界の目標と聞くと自分とは縁が遠い話に聞こえるようですが、SDGsには誰にとっても大切なエッセンスが詰っています。この記事ではSDGsについて知っておきたいことをわかりやすく解説します。
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SDGsはSustainable Development Goalsの略で、日本語では持続可能な開発目標と呼ばれます。読み方は「エス・ディー・ジー・ズ」で、最後の小文字のsはGoalsの複数形を示します。SDGsは2030年までに世界が達成すべき17の目標(ゴール)と169のターゲットで構成され、「地球上の誰一人取り残さない」という力強いメッセージを掲げています。
2015年9月にニューヨーク国連本部で開催された「持続可能な開発サミット」において、国連全加盟国の全会一致でSDGsは採択されました。当時の国連事務総長・潘基文(パン・ギムン)氏は、「これは『人民のアジェンダ』であり、あらゆる場所のあらゆる次元で貧困に終止符を打ち、誰も置き去りにしないための行動計画である」と述べています。
国と国との繋がりである国連ですが、グローバリズムが進んだ現在の世界で起きている貧困、健康、環境、経済成長などに関する様々な課題は、もはや国家間の協働だけで解決できるものではありません。各国政府に加えて民間企業や市民社会など様々な立場の人々が同じ方向を向いて行動し、より良い未来を実現するための指針がSDGsなのです。
SDGs以前にも、21世紀における国際社会の共通目標が掲げられていました。それがSDGsの前身にあたる「MDGs:Millennium Development Goals(ミレニアム開発目標)」です。MDGsは2000年の国連サミットで発表された「国際ミレニアム宣言」をもとに貧困、疾病、環境、開発などに関する目標がまとめられ、2015年までの期限付きで国際社会の支援を必要とする課題の達成を目指すグローバルな行動計画として機能していたものです。MDGsでは一定の成果が見られたものの、十分に対応しきれなかった課題もありました。
SDGsはこのMDGsをベースに策定されており、MDGsで達成できなかった課題を全うするとともに、さらに2012年にブラジルで開催されたRio+20(持続可能な開発会議)で議論された地球環境の保護やより良い未来に向けた課題なども盛り込まれています。SDGsは2015年から2030年までの15年をかけて、世界から極度の貧困や不平等をなくし私たちの大切な地球を守る、壮大なテーマのプロジェクトと言えるでしょう。
SDGsのアジェンダには「国会、国連システム、国際機関、地方政府、先住民、市民社会、ビジネス・民間セクター、科学者・学会、そしてすべての人々を取り込んでいくものである。」と明記されています。これはSDGsの大きな特徴で、世界の課題解決に向けて政府や国際機関だけが動くのではなく、企業のイノベーション力や人的資源、金融機関が及ぼす経済への影響力、市民社会に関わる一人ひとり意識や行動力まで総動員して、2030年までにSDGsのゴールを達成しようと呼びかけています。
これを受け日本政府は2016年5月に内閣総理大臣を本部長とする「SDGs推進本部」を設置、同年12月に日本の取り組み指針となる「SDGs実施指針」を決定しました。経済産業省においては2019年5月に「SDGs経営ガイド」が作成され、企業経営の中でSDGsを実践するための情報が整備されてきています。国連開発計画(UNIP)によると、SDGsが達成されれば労働生産性の向上や環境負荷低減等の経済効果によって、2030年までに年間12兆ドルの新たな市場機会が生まれうると言われています。これは企業成長の「チャンス」であるとともに、世界がSDGsの達成を目指す中、これを鑑みずに進むことは企業の持続可能性が危ぶまれる「リスク」にもなり得ます。
SDGsの達成期限である2030年は世界共通のターニングポイント。SDGsを企業が自分事として捉えることは、世界の重大な課題に取り組むために必要な解決策や技術を生み出すきっかけになります。
※本章の解説に用いる画像の出典は、いずれも「国連開発計画(UNDP)」です。
SDGsは17の目標(2030年に目指す姿)と169のターゲット、232の指標で構成されています。人権、ジェンダーの平等、食料安全保障、教育、健康・福祉、強固な経済基盤の構築、持続可能な生産と消費、気候変動への対応、天然資源や海洋、生物多様性の保護、平和と安全、子ども・障がいや病を抱える人、高齢者、先住民、難民、移民など弱い立場の人を受け入れることなどを世界が直面する最も重要な課題とし、これらに取り組み完遂すべき目標として掲げています。
17の目標は、世界共通の1から17の数字とわかりやすいアイコンで示されていて、異なる言語のあいだでもSDGsの共通認識を持つことを可能にしています。また子どもから大人まで幅広い層が理解しやすいこの工夫は、学校教育の現場や一般消費者が目にする媒体でも活用しやすく、SDGsをスムーズに浸透させる手助けにもなっています。
経済が発達し人々が豊かになった現在は、飽和状態にある既存の商品やサービスも多く存在しますが、そのような中でSDGsの目標には世界で求められている潜在ニーズが潜んでおり、将来のビジネスチャンスを見極めることにも繋がります。各国政府にはSDGsを実行する際のフォローアップとレビューの一義的な責任が置かれ、国民全体への説明責任を果たす役割を担うとともに、世界レベルでSDGs各目標の進捗報告を行います。
今ご覧いただいている「EnergyShift(エナジーシフト)」はSDGsと密接に関わるメディアです。脱炭素や自動車の電動化、サステナビリティに対する世界の動きが益々加速する中、それに関連する情報を得たいというニーズは高まっています。当メディアでは、化石燃料や原発に依存しない持続可能な社会を実現すべく「エネルギーシフトを加速させる」をミッションに掲げ、主に再生可能エネルギーや電力自由化、エネルギーテックやeモビリティに関するビジネスニュースおよびコラムを配信しています。ニュースキュレーションに加えて編集部のオリジナル記事や専門家によるコラム、注目企業やキーパーソンのインタビュー、制度情報、海外の最新動向など編集部の独自取材記事などを扱い、EnergyShiftを読むだけで業界動向をキャッチアップできるよう、情報をお届けしています。
SDGsの169のターゲットでは、先に説明した17の目標を達成するために具体的に何をすればいいのかが詳細に示されています。1から17の目標それぞれに対して平均10項目のターゲットが設定されており、目標を実現するための行動指針、達成期限などが記されているため、169のターゲットを熟読すると取るべきアクションをイメージしやすくなります。
例えば目標3の「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」の配下に設定されているターゲット3.1では、「2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70 人未満に削減する」と記載されているように、具体的な数字によって明確なゴールが提示されています。
しかし中にはターゲット3.3のように「2030年までに、エイズ、結核、マラリアおよび顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症およびその他の感染症に対処する」といった、やや曖昧な表現に終始している項目も見受けられます。
そのためさらに細かい232の指標が追って策定され、「3.3.1 非感染者1,000人当たりの新規HIV感染者数」、「3.3.2 10万人当たりの結核感染者数」、「3.3.3 1,000人当たりのマラリア感染者数」、「3.3.4 10万人当たりのB型肝炎感染者数」、「3.3.5 顧みられない熱帯病(NTDs)に対して介入を必要としている人々の数」などを補足しています。
エネルギー分野に関する目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」の例も見てみましょう。ターゲット7.1では「2030年までに、安価かつ信頼できる現代的エネルギーサービスへの普遍的アクセスを確保する」と記されています。この内容を精緻化するために「7.1.1 電気を受電可能な人口比率」、「7.1.2 家屋の空気を汚さない燃料や技術に依存している人口比率」という説明が指標で補足されています。
ドイツのベルテルスマン財団と持続可能な開発ソリューション・ネットワーク毎年発行がしている「Sustainable Development Report」では、毎年世界各国のSDGs達成状況を分析し、SGDsランキング(SDGsインデックス)を報告しています。2019年のレポートで発表されたスコア上位10か国は以下の通り。(カッコ内はスコアを示します)
日本のグローバルランクは162か国中15位(スコア78.9)でした。特に赤色で示されている「目標5 ジェンダー平等の実現」、「目標12 つくる責任・つかう責任」、「目標14 海の豊かさを守る」は最大の課題であると評価を受ける結果となりました。ジェンダーギャップにおいては女性が保有する議席数、男女の賃金格差、無償労働をする男女の格差などが際立っています。
2019年9月に開催された国連のSDGsサミット2019では、首脳レベルでSDGs採択以降過去4年間の取り組みのレビューが行われ、日本からは安倍総理が出席しました。安倍総理の声明の概要は以下の通りです。
これに対する国連からの評価と、政府の対応方針は以下のようなものとなっています。
SDGsサミット2019に出席した国連首脳陣からは、世界の取り組みは進展したもの達成状況には偏りがあり、あるべき姿からは程遠く、取り組みを拡大・加速化しなければならないと危機感が表明されました。今後の2030年まで期間を「行動の10年」と位置付け、グローバルおよびローカルな取り組み、人々の行動や互恵的なパートナーシップの構築が重要だとしています。
日本のSDGsを牽引する企業や団体はどのような取り組みを行っているのでしょうか。2017年から日本政府のSDGs推進本部が実施している「ジャパンSDGsアワード」の表彰事例をいくつかご紹介します。ジャパンSDGsアワードはSDGs達成に資する優れた取り組みを行う企業・団体等を選定し表彰するものです。
第3回SDGsアワード・副本部長賞(内閣官房長官賞)
【低炭素の活動を通し九州の農業を元気に!「九州力作野菜」®「九州力作果物」®プロジェクト】
味の素(株)九州事業所がアミノ酸を製造する過程で発生する栄養分豊富な副生バイオマスの乾燥方法を、重油の使用から、堆肥への混合に変更。年間600キロリットルの重油の不要化に貢献。約60の農業団体・各業者等が連携し、製造された堆肥を使用して生産した野菜・果物は、価値の向上が見込まれることがわかり、「九州力作野菜」 ® 「九州力作果物」 ®として高付加価値化して販売。発酵関係業者、堆肥製造業者、農家、卸売業者、小売業者等、多くの事業者が連携。「環境大臣賞」受賞。代表のイオン九州は、当ブロジェクトが評価され、日本政策投資銀行の「DBJ環境格付」で最高ランク認定。
第3回SDGsアワード・SDGs副本部長賞(外務大臣賞)
【海外難民・国内避難民視力支援活動】
1983年以来、毎年海外の難民キャンプや国内避難民の居留地を訪問し、難民・国内避難民の視力検査 を行って、一人ひとりに合った眼鏡を無償で寄贈する活動を実施(延べ37回)。参加社員は延べ195名、寄贈した眼鏡は169,446組。 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)とは全世界最長のパートナーシップを継続。日本国内の協力会社等のステークホルダーも活動に協力。2006年にUNHCRからナンセン難民賞を受賞。 支援活動を通じた社員の技術力向上と仕事への誇りはビジネスと難民支援活動の好循環を醸成。
第3回SDGsアワード・SDGsパートナーシップ賞(特別賞)
【全国の社会課題の解決に取り組む団体を、預金を通じて支援する「応援定期預金」】
顧客が関心のある社会課題の名前を冠した定期預金に預け入れることによって、SDGsの課題解決に取り組む 団体に寄付がされる。 預入金額は10万円からと低く設定し、幅広い顧客ニーズに対応。継続的な応援ができる仕組み。 「こどもの自立支援」、「こどもの医療支援」、「障がい者スポーツ支援」および「環境保護」の4つのテー マで8地域、13の応援先を用意。 預金残高は約500億円。
第2回SDGsアワード・SDGsパートナーシップ賞(特別賞)
【女性の社会進出と人々の健康意識の向上を図る。ヤクルトレディの宅配 システムや健康で楽しい生活づくりのモデルを国内外に広げる取り組み】
生きた乳酸菌の摂取を目的とした商品(プロバイオティクス商品)である乳酸菌飲料の生産・販売を通じ、世界の人々の健康生活の実現に貢献。「ヤクルトレディ」の宅配システムを中心とした就労機会の提供を通じ、収入増加による生活の安定、さらに子女等の教育機会の拡大に貢献。女性の就労や社会進出、能力向上、活躍を後押し。地域に根ざした事業展開により、途上国等に対して、日本国内で培った安全・安心・高品質な商品の生産技術や省エネ技術、販売ノウハウ等を移転。地域密着で現地の雇用を創出。
第3回SDGsアワード・本部長賞(内閣総理大臣賞)
【商店街から発信するSDGs達成に向けたESDの実践】
商店街として「SDGs宣言」を行い、「誰一人取り残さない」形でニーズに応えるイベントやサービスを 様々なステークホルダーと連携しながら実施。ホームレス自立支援・障害者自立生活支援などの社会的包括に視点を置いた活動や、飲食店等と協力 したフードロスの削減、規格外野菜の販売等の地産地消を推進。商店街内のビルをリノベーションし、若手起業家やワーキングマザーのための環境整備を実践。透過性太陽光パネルを設置して商店街の電力として活用。公共交通機関を利用した来店を促進。憩い の場所の新設や商店街内の遊休不動産を再生するリノベーションまちづくりを実施。
※本章の解説に用いる画像の出典は、いずれも「国連開発計画(UNDP)」です。
SDGsを実現するためには経営者やCSR担当者が理解しているだけでは不十分。企業のあらゆる層の社員、自治体の関係者、学校教育の現場などにもSDGsの考え方を浸透させていく必要があります。その手助けとなるのがSDGsをテーマにしたカードゲームです。複数人で行うカードゲームは、様々な立場のステークホルダーとの協調が不可欠なSDGsの世界観を理解するのに最適です。ゲームではSDGsを自分事として捉えられる工夫がされているので、今までSDGsに関心がなかった人が自分の未来と切り離せないことだと気付くきっかけになると期待できます。
SDGsを扱ったゲームにはいくつか種類がありますが、今回は代表的なカードゲーム「2030SDGs(ニイゼロサンゼロ・エスディジーズ)」をご紹介します。
はじめにプレーヤーには価値観(目標)を表すカードがランダムに配られます。Aさんは「大いなる富が最も大事」、Bさんは「悠々自適な時間が大切でスローライフを送りたい」、Cさんは「地球の環境を守りたいと思っている」、Dさんは「貧困をなくしたい」、Eさんは「バランスの取れた豊かな世界を望む」というように、プレーヤーごとに異なる価値観(目標)が与えられることで、現実と同じように、カードゲームの世界でも様々な価値観を持つ人が存在する状態になります。各プレーヤーには「お金」と「時間」のカードも配られます。
プレーヤーは与えられた価値観(目標)を実現するために、お金や時間のカードを集めます。「大いなる富」を求めるプレーヤーはより多くのお金を集め、「悠々自適な時間」を求めるプレーヤーは時間を集めるといった形でゲームは進行します。
さらにプレーヤーにはそれぞれ「プロジェクト」と呼ばれるカードが割り当てられます。各プロジェクトのテーマは「交通インフラの整備」や「再生エネルギーへの切り替え」、「労働組合活動の活発化」、「軍事兵器の段階的削減」といったものや、「子どもを労働力として利用する」のようなネガティブなものまで様々です。プレーヤーは与えられたお金や時間のリソースを使いながらプロジェクトを実行します。プレーヤーがプロジェクトを実行するたびに、ゲームの世界の状況メーター(青=経済、緑=環境、黄=社会)も変化するため、青・緑・黄のマグネットをホワイトボードに掲示して、チーム内でゲーム進行中の世界観を共有します。
プロジェクト実行後は成果として「お金」、「時間」、「次のプロジェクト」、「意思」のカードがもらえます。「意思」はやりがいや情熱など無形の価値を受け取れるものです。各プレーヤーはプロジェクトを実行しながら、自分の価値観(目標)の実現を目指すとともに、他の人たちと連携して自分たちのプロジェクト実行によってチーム内の世界の状況メーターがどのように変化していくのかを楽しみます。
「2030SDGs」はゲームを取り仕切るファシリテーターの役割が重要です。SDGsの世界観を理解しながら現実世界の認識を持ち、フラットな感覚でゲームを進行できるファシリテーターを養成するための講座も用意されています。
「2030SDGs」のカードゲームを体験することができるイベント開催情報は、イマココラボ様のウェブサイトで確認できます。
グローバル化が進んだ現在、世界は複雑に繋がっています。日本だけが良ければいい、自分の企業だけ儲かればいい、今だけ幸せならいいという考え方を持っていては、持続可能な社会を実現することは難しいでしょう。今この瞬間、自分が選択する行動、お金や時間を何に使うかの判断は、遠く距離の離れた国に住む人や、未来の自分や子どもにまで影響を与える力があります。
2030年に向けたSDGs達成までの道筋は誰も経験したことがない未知の世界ですが、SDGsの世界観に一人でも多くの人が触れて共感し、行動を起こすことで、持続可能な社会はきっと実現可能です。まずはSDGsの17の目標について、2030年までの10年間で自分ができることを考えてみましょう。
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