SDGs(持続可能な開発目標)は、現在のビジネスにおいても重要なワードとなっている。しかし、現実にはどのような取り組みをしたらいいかわからない、というビジネスマンは少なくないだろう。
今月より、エネルギーや気候変動にとどまらない、SDGsの17のゴールを視野に入れた、社会課題の解決に向けたヒントを、10年以上にわたって持続可能な開発に関わってきたValue Frontierのメンバーからお届けする。第1回は、梅原由美子氏による「SDGsに悩む現代のビジネスリーダー」。
ローカルな問題は全て世界とつながっている
2020年は、中国の武漢市で始まった新型コロナウィルスとの闘いからの幕開けとなった。数千キロも離れた地域での「流行病」が一気に世界に拡散しつつある。私たちはヒトやモノが自由に移動するグローバルな経済活動の恩恵を受ける一方で、今回のような「負の影響」を即座に食い止めることができない現状も目の当たりにした。
事象は異なるが、米国のサブプライムローンに端を発した問題が、地球の反対側の国々を破綻の危機にまで追い込んだ「リーマンショック」を思い出したのは私だけではないかもしれない。あるいは数カ月にも及ぶ大規模な連鎖を止めることができなかったブラジルやオーストラリアの森林火災もしかり。
今やローカルな問題も全て世界とつながっていると考えるのが正しいのであろう。今回未知のウィルスとの闘いに直面して、多くの人が改めて考える機会になるのかもしれない。
第一話から何だか暗い話題だが、少しだけ我慢してお付き合いいただきたい。恐らく人類はこれからも、これまで経験しなかったような様々な環境・社会課題に直面するだろうが、そんな時に私たちは課題を「見ない」あるいは「見えないふり」をしてしまいがちである。なぜなら解決方法が分からない課題を直視することは、誰にとってもストレスなのである。
しかし、そうすることで問題はより深刻化し影響はより大きく深くなっていく。
地球温暖化による気候変動を例に挙げるまでもなく、グローバルな環境問題はもはや無視できないレベルで世界の経済・社会に影響を及ぼし始めている。それらの影響は途上国や貧困層など脆弱な人々に最も重くのしかかるが、先進国日本も他人事ではない。むしろ人口減少、少子高齢化、長引くデフレ、格差や相対的貧困といった成熟国家ならではの課題に加えて、世界共通の課題にも向き合っていかなければならない。
ここから先、どのように豊かさを定義し、誰もが安心して幸せを感じられる社会を創造していけるのか。そのために私たち個人や企業、NGO、自治体、国、国際機関など、誰もがクリエイティブに考え、主体的に動き、積極的につながり、多様なパートナーシップで「共通価値創造」に向けて進んでいくことができるのか。まさに今、私たちはヒトという種として、これからも繁栄していけるかどうかを、自然界から試されているのではないだろうか。
持続可能な環境と開発、どちらもが求められている。SDGsとビジネスを語れるリテラシーを
話は変わるが、2019年9月から弊社で開催した「次世代ビジネスリーダーのためのSDGs研修」の第1期が先日、2020年初めに修了した。
2006年に「持続可能な環境と開発のためのコンサルティング会社」として設立して以来、弊社は企業や自治体、国、国際機関やNGOをつなぎ、Sustainable Developmentに資するプロジェクトを推進するための中間支援的な仕事をしてきたことから、SDGsに関心がある皆様に、何か私たちの経験がお役に立てるのではないかと考え、様々な業種、部署、役職の方々とお話しをさせていただいた。
その中で共通して聞かれたお悩みが「SDGs」と「イノベーション」であった。そこで、まずはビジネスリーダー達が、サステナブルに向かう世界のマクロトレンドを理解し、環境・社会課題を避けられない制約として受け止めた上で、課題解決から新規事業をクリエイティブに創造するための学びと実践の場づくりをご提案したところ、共感いただいた各社から精鋭が送り込まれてきたという訳だ。
そしてSDGs未来都市・モデル都市でもある北九州市の後援を得て、市職員も参加し、市長にもご登壇いただき、民間企業の異業種メンバーが北九州市にSDGs施策の提案を行うという、ユニークな官民連携による学びの場となった。
参加者は大手通信会社、食品会社の経営企画や中小・ベンチャー企業の若手経営者などの異業種メンバー。初めはビジネスとSDGsを結びつけることにしっくりこないと感じる参加者もいたと思うが、最終回にはそれぞれが、自身の関心や自社事業との関連からバックキャストで導いた具体的なSDGsビジョンを発表し、そのどれもが聞き手をワクワクさせる、しかし説得力のある力強いコンテンツであった。
現実のビジネスでは、目の前の売り上げと中長期視点のSDGsでは、時間軸も評価軸も今すぐには一致しない。それでも自分の言葉でSDGsとビジネスを語れるリテラシーは、これからのリーダーに欠かせない嗜みと言えるだろう。なぜなら「誰ひとり残さない社会」の「誰ひとり」には当然「私たち」も含まれており、今後のビジネスのあり方を左右するであろう要素が、SDGsにはたくさん散りばめられているからである。
この連載では、世界各地で環境・社会課題の解決に取り組む弊社メンバーが各自の視点でリアルにSDGsを語っていく。読者の皆様に少しでもヒントがあれば幸いである。