出力制御の実施時には、太陽光発電の売電が制限されます。売電の制限は利益減少に直結しているため、出力制御は太陽光発電を行う事業者にとってネガティブな要因になるのです。しかし、出力制御は停電を回避するなど、電力系統を安定して運用していくために、あるいは電力系統を効率的に運用していくために、不可欠な施策であるため、太陽光発電を始めるのであれば出力制御と上手く付き合っていく意識が大切です。
今回は、ときに太陽光発電のリスクとなる出力制御についてご説明します。
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一般的な出力制御は、電力の需要と供給のバランスを正常に保つため、電力会社が発電事業者の保有する発電所と電力系統の接続を制限することです。このときに用いられる、電力の需要と供給は以下を指します。
つまり、太陽光や火力、原子力により発電を行う設備の総発電量(電力の供給)が、家庭・企業で消費される電力量(電力の需要)を上回ったときに出力制御が実施されるのです。出力制御が行われた場合、発電所と電力系統の接続は制限されるため、制限中に売電収入は発生せず発電事業者は実質的に損失を被ります。なお、出力制御は、つぎのような「優先給電ルール」に則って実行される仕組みとなっており、あらゆる発電所に対して行われます。そのため、太陽光発電を行う事業者のみが、大きな損失を被るわけではありません。
*経済産業省「再エネの発電量を抑える「出力制御」、より多くの再エネを導入するために」
上記画像が示すように、火力発電やバイオマス発電の出力制御を行ったのち、太陽光発電が対応の対象となります。
出力制御は、発電事業者にとって損失をもたらす不可解な対応に思えるかもしれません。電気が余る分には問題ないのではないか、と。しかし、電力系統を安定させて、私たち電力の消費者が安心して電気を使用するためには出力制御が欠かせません。
電力供給の不足により停電を引き起すことは想像できますが、実は過剰な電力供給を続けた場合にも停電を招くのです。これらの現象は、電力の需給バランスが崩れることによって、電気の周波数に乱れが生じることで起こります。
2018年に発生した北海道の地震により北海道の全エリアを対象に大規模停電(ブラックアウト)が生じた理由も、まさしく需給バランスのブレによるものです。経済産業省が公表している「日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか」の記事内でも言及されているように、発電所には安全装置が搭載されており、周波数の乱れを感知したとき停止してしまいます。つまり、需給バランスの維持ができなくなったとき、周波数が乱れたために発電所の停止を招き、さらなる周波数の異常が連鎖的にトラブルを招くのです。
上記は、地震により大規模な発電所にダメージが加わったことを原因としていますが、逆に発電側が電気をつくりすぎて需要がない場合でも、周波数の乱れが発生します。したがって、出力制御を行わなければ平時でも似たような現象に陥ります。そのため、私たちが安心して電気を使うためには出力制御は必要な施策なのです。
出力制御は、下記のいずれかの方法によって行われます。
スケジュールによる出力制御は、電力会社から公表されるスケジュールを専用機器に反映させて、事前に設定したスケジュールに則って出力制御を行う方法です。スケジュールを取得し、太陽光発電所のある現地に赴いて直接設定を入力する方法と、専用機器がインターネットを通じてスケジュールを自動的に更新してくれるシステムがあります。これらスケジュールによる出力制御の方法のうち、より売電ロスが少ないのはインターネット回線をもちいた自動更新のタイプです。
一方、手動操作による出力制御の方法では、スケジュールタイプのような専用機器によるコントロールを使わず、現地の太陽光発電所を直接操作します。
売電ロスを減らせるといった理由から、一般的には自動的にスケジュールを更新するタイプが推奨されているものの、インターネットの接続可否により選択肢を制限されるケースがあることに留意してください。また、出力制御に関するルールは地域別で違うため、太陽光発電所の購入時に販売業者へ確認することを推奨します。
出力制御の適用基準は各電力会社により異なっており、3つのうちいずれかがルールとして設定されています。
360時間ルールは新ルールとも呼ばれており、出力制御の合計時間を「年間360時間まで」と設定したうえで、それ以上の出力制御は損失分を補填する体制を取っています。
指定ルールでは、出力制御の合計時間が定められておらず、損失分を補填するような対応はありません。電力会社の多くは、まず新規発電所に360時間ルールを適用し、発電所の受入数が「接続可能数」と呼ばれる一定のラインを超えたのちに、指定ルールを適用させています。
3つ目に挙げた30日ルールは旧ルールとも呼ばれており、年間30日を出力制御の上限としてそれ以上の損失を補填するもので、360時間ルールより以前に採用されていました。30日ルールは、2015年時点で接続の手続きを進めている場合、かつ500kW以上の太陽光発電所に適用されるルールであるため、これから太陽光発電を始めるならほぼ関係のないルールだといえます。
出力制御は、電力の供給量が需要を上回るときに行われるものです。当然、需要と供給は地域によって変動するため、エリアによって出力制御が発生する可能性は異なるほか、出力制御に関するルールも違います。
10~49kW | 50kW~ | |
東京電力 | 適用対象外 | 360時間ルールを適用 |
中部電力 | ||
関西電力 | ||
北海道電力 | 指定ルールを適用 | 指定ルールを適用 |
東北電力 | ||
北陸電力 | ||
中国電力 | ||
四国電力 | ||
九州電力 | ||
沖縄電力 | 360時間ルールを適用 | 360時間ルールを適用 |
*2020年1月時点の情報
なお、上記のルールは新築物件に適用されるものであり、すでに接続の申し込みを終えている太陽光発電所に関しては、過去に設定されていたルールが適用されている場合もあります。このルール、および地域の特性から、出力制御が起こりやすい条件についてご説明します。
現状、たびたび出力制御が実施されているエリアは、九州電力のみです。毎日新聞の記事「九州電力 出力制御は1年で56日実施 抑制へ運用見直し」でも取り上げられているように、九州電力では2018年10月から2019年10月までのあいだに、56日間の出力制御を行っています。この原因は、九州電力の管轄エリアが太陽光発電に適している土地であり、太陽光発電所の設置数が際立って多いためです。
九州電力は出力制御の運用を見直し、制御の対象となる電力量の削減を目指しているものの、すでに接続可能数に達したため「指定ルール」を適用しているエリアから、今後は出力制御の回数が増えていくことが懸念されます。
電力の需要は時期に応じて上下する傾向にあり、1年を通して少しずつ変化していきます。下記は、2018年度における電力需要の推移を示したものです。
2018年における電力需要の推移(単位:1,000kW) | |
2018年1月 | 72,533,755 |
2018年2月 | 70,788,311 |
2018年3月 | 64,570,465 |
2018年4月 | 57,493,869 |
2018年5月 | 55,204,441 |
2018年6月 | 55,622,807 |
2018年7月 | 63,136,505 |
2018年8月 | 69,597,170 |
2018年9月 | 63,249,954 |
2018年10月 | 55,754,861 |
2018年11月 | 55,189,222 |
2018年12月 | 59,705,14 |
*経済産業省「各種統計情報(電力関連)」より抜粋
空調を利用して温度調節を利用する真冬・真夏は、電力を多く消費するため需要は高くなる傾向です。一方、春や秋は過ごしやすい時期が続くことから、ピーク時に比べて1~2割ほど需要が減少します。
特に、5月付近は電力需要が少ないものの、発電に適した日射量・気候が続きます。そのため、需要と供給のバランスが崩れるケースは多く、出力制御は春先から夏までのあいだに発生しやすいといえるでしょう。
出力制御によって売電を制限されるほど、太陽光発電所の運用による利益は減少します。出力制御の実行に対する拒否権はなく、売電によって利益を得るのであれば出力制御を受け入れるしかないため、太陽光発電投資を行ううえで避けられないある種のリスクだといえます。
また、売電が制限されることによる利益減少のほか、間接的に以下のようなネガティブな要因を招く可能性があるのです。
売電の制限による利益減少だけでなく、出力制御は「FIT制度による安心感を奪う」といった問題を招きます。キャッシュフローの安定感を失うことによる不安は、損失額の大小とは関係なく投資家へプレッシャーとなってのしかかるものです。
また、出力制御によって利益率が左右されるリスクは、ローンの審査を行う金融機関の心証を悪くするケースがあります。出力制御が発生するタイミング・回数を、投資家側でコントロールできないことから、融資の対象として適切ではないと判断される可能性があるのです。
実際のところ、出力制御が利益率に与える影響はわずかだといわれており、投資を諦めるほどのネガティブな要因にはなり得ないと考えられます。
しかし、出力制御が利益を減少させる可能性を持つのは事実であり、金融機関からローンを受けるうえで不利に働く存在です。そのため、何らかの対策を講じなければなりません。具体的な選択肢としては、以下の2つが挙げられます。
それぞれ、どういった対策なのかご説明します。
出力制御保険は、出力制御により発生した損失分を補填する保険商品です。
太陽光発電所を運用するにあたり、適用を検討すべき保険は数多くあるため、それぞれの保険と比較したうえで出力制御保険に加入するか否かを決めなければなりません。
太陽光発電に適用できる主な保険 | |
火災保険 | 自然災害や電気的・機械的事故による損失を補償 |
動産総合保険 | 自然災害や盗難、突発的な事故による損失を補償 |
賠償責任保険 | 他者へ損害を与えたときに補償を受けられ |
休業補償保険 | トラブルによる稼働停止時の損失を補填する |
出力制御保険は、上記のうち休業補償保険にカテゴライズされる保険の1つです。
保険加入の優先度としては、火災保険・動産総合保険のいずれかが最優先。次点で賠償責任保険や休業補償保険が検討候補に挙がるため、火災保険や動産総合保険へ加入したうえで、コストと安心感の兼合いをはかりつつ出力制御保険の加入を判断する必要があります。なお、出力制御保険は、加入すれば出力制御による損失がすべて補償されるのではなく、補償の対象範囲を制限するために「免責時間」を設定しているものが大半です。
たとえば、1年のうちに100時間の出力制御が行われたとき、免責時間が年間40時間に設定された出力制御保険に加入していれば、補償の対象となるのは60時間。免責時間の存在により、40時間分は通常通り損失となるのです。出力制御保険は、万能の対策になり得るものではない点に注意してください。
出力制御補償は、出力制御による損失のカバーを目的とし、保険に付帯する形で加入するタイプの商品です。出力制御保険と同様、免責時間を設定しているものが多く、加入するか否かは費用対効果を考慮したうえで決めることを推奨します。
また、出力制御保険・出力制御補償のいずれも、提供元によって補償対象や補償内容が異なるため、すべてのサービスを同一視することなく契約前は必ず諸条件を確認してください。
電力の需要と供給のバランスをとることとは別に、送電線の容量に応じた出力制御も行われます。10万kWの電気しか送れない送電線に、20万kWの発電所をつくったら、全部の電気を送ることはできません。力系統にはあらゆる電源が接続されており、接続の上限は決まっています。この上限が埋まってしまうために、新たな電源を接続できない状況を系統制約と呼びます。
とはいえ、実際の送電線は、「全電源フル稼働+緊急時用の枠」を想定し、余裕を持って整備されています。そこで、系統制約を解決するため、従来の運用体制を見直すことにより電力系統の最適化をはかる取り組みがおこなわれています。これが「コネクト&マネージ」です。すでに取り組みは進んでおり、下図の通りに計画が進行しています。
*経済産業省「総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会‐中間整理(第2次)」
太陽光発電の設置にあたって、送電線の容量に対応した出力制御を前提に接続するという対応がすすめられています。これはコネクト&マネージの一環として実施される施策の1つ、上図の「③出力制御前提の接続」にあたるもので、ノンファーム型接続と呼ばれます。
ノンファーム型接続は、基本的に確実に系統へ接続できるファーム型接続とは違い、系統が空いている時間にのみ系統へ繋げられる接続方法です。つまり、系統の空きを見つけて隙間の範囲内で接続し、空きがなくなれば平時であっても出力制御の対象となるのです。なお、ノンファーム型接続は整備途中ではあるものの、すでに東京電力パワーグリッドが複数エリアにて試験的に導入、あるいは検討しています。これから太陽光発電を検討している場合、決して無関係な動向とはいえません。むしろ、新たな太陽光発電の設置に向けて、拡大していく可能性があります。
投資目的で太陽光発電を始めるなら、出力制御は無視できない要素です。太陽光発電の利益率を不安定なものにするほか、金融機関を通じてローンを利用するときにネガティブなポイントになり、投資家の投資活動に支障をきたすからです。想定外の損失を回避するなら、まずは出力制御がどのようなリスクをもたらすのか理解し、どの程度の出力制御が予想されるのかを考慮したうえで、太陽光発電投資を始めなければなりません。
こういったポイントを踏まえ、太陽光発電所を構えるエリア、保険や補償の利用について考えたのちに太陽光発電所を運用しましょう。
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