日本はなぜ、世界から非難されても石炭火力の新設を続けるのか 簡単に手放せない裏事情とは | EnergyShift

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日本はなぜ、世界から非難されても石炭火力の新設を続けるのか 簡単に手放せない裏事情とは

日本はなぜ、世界から非難されても石炭火力の新設を続けるのか 簡単に手放せない裏事情とは

2021年12月22日

脱炭素に向けた流れは世界中で大きなうねりとなり、多くの二酸化酸素(CO2)を排出する石炭火力発電の廃止機運は高まるばかりだ。日本は「いつまで石炭火力を使うのか」と世界から厳しい視線を浴びる中、高効率石炭火力発電所の新規建設など、石炭火力の使用を模索し続けている。なぜ、日本は廃止できないのか。そもそも高効率石炭火力は本当に高効率なのか。世界情勢も交えて最新動向を追った。

石炭依存度が高いアジア、簡単に手放せない事情とは

2021年11月、イギリスで開催されたCOP26では、石炭火力の廃止をめぐって各国が激しい応酬を繰り広げ、交渉は難航した。議長国イギリスは、主要経済国は2030年代に、世界全体で2040年代に、温室効果ガスの排出削減対策が取られていない石炭火力を廃止するよう求めた。この要請に対しヨーロッパを中心に46ヶ国が賛同したが、日本やアメリカ、中国、オーストラリアのほか、石炭火力に電力の多くを依存するインドや、産油国であるサウジアラビアなどは賛同しなかった。

石炭火力をめぐって、なぜ主張がぶつかり合うのか。背景のひとつに石炭火力への依存度の違いがある。

イギリスは大規模な洋上風力が普及するほか、パイプラインで天然ガスを調達することができるため、石炭火力の比率は2%しかない。フランスも原子力でほとんどの電力をまかなっているため、石炭比率はわずか1%だ。依存度が非常に低いこともあって、両国は2024年までに石炭火力をすべて廃止すると表明している。

しかし、エネルギー情勢は各国で大きく異なる。

各国の石炭火力の発電割合

イギリス2%
フランス1%
ドイツ30%
インド73%
中国67%
インドネシア56%
フィリピン52%
ベトナム47%
シンガポール1.2%
アメリカ24%
日本32%

経済産業省の資料などをもとに作成

石炭は直近では価格上昇が続くものの、価格はほかの燃料より安く、資源量も豊富だ。さらに石油と違い、主な産出国がオーストラリアなどで中東依存度がゼロであるうえ、LNG(液化天然ガス)と異なり、長期保管も可能で、エネルギー安全保障上、重要な資源のひとつである。

とりわけ長期にわたって価格安定が見込める石炭は、中国やインド、東南アジアにおいてその依存度は高い。しかも、途上国はまだ電気のない地域も抱えているうえ、今後、経済成長で電力需要が急増することが見込まれているだけに、安価な石炭火力をそう簡単には手放せない。インドはCOP26で「石炭火力を使う権利がある」と主張したほどだ。

アジアで石炭火力の比率が極端に低い国はシンガポールくらいだろう。シンガポールは天然ガス火力が90%以上を占めており、石炭火力はわずか1.2%しかない。それゆえCOP26において、石炭火力からの早期脱却を目指す脱石炭国際連盟(PPCA)にアジアの国ではじめて加盟し、全廃に取り組む。

日本でも加速する石炭からの事業撤退

アジアを中心に石炭依存が続く中、これまで日本は世界をリードする高効率石炭火力の技術によって、「途上国の非効率な石炭火力を高効率火力に置き換えることでCO2の削減に貢献する」という方針を掲げてきた。しかし、脱炭素対応の成否が、企業の競争力に直結する時代に突入する中、石炭火力からの事業撤退が相次いでいる。

東芝石炭火力発電所の新規建設から撤退を表明(2020年11月)
三菱重工業石炭火力向けボイラーの生産を集約(2021年2月)
住友商事発電事業の石炭火力比率を2035年めどに30%まで削減(2020年6月)
丸紅石炭火力の設備容量を2025年に半減、2050年にゼロ(2021年3月)
三菱商事一般炭事業から撤退し、豪州クイーンズランド州原料炭に集中
三井物産モザンビーク石炭事業から撤退(2021年2月)
双日一般炭事業から撤退、将来的には原料炭事業からも撤退(2021年3月)
伊藤忠商事Drummond炭鉱を売却、2023年度までに一般炭事業から撤退

総合商社や重工、電機メーカーが撤退を表明する中、日本の3大メガバンクも石炭火力発電への新規融資を停止したほか、地銀や機関投資家などによる資金引き揚げも進む。

金融界による資金引き揚げの拡大や環境規制の高まりを受け、石炭火力発電所の新増設計画も見直しを迫られている。

発電事業者大手のJパワーは2021年4月、山口県宇部市に宇部興産と大阪ガスの3社で建設予定だった60万kWの発電所2基の撤退を表明。新設断念に追い込まれた背景に規制強化がある。政府は非効率な石炭火力を2030年までに休廃止する方針を2020年7月に掲げた。経済産業省は非効率石炭のフェードアウトに向け、発電事業者などに発電効率を43%とする新基準を策定。だが、経産省の集計によると、全国に約150基ある石炭火力のうち、大手電力会社が保有する石炭火力で発電効率43%以上は2基しかない(2019年度時点)。

43%基準に適合するには、新設にしろ、既設にしろ、巨額の投資が必要となる。火力発電の場合、投資回収には完成から少なくとも20年以上かかるとされている。石炭火力をめぐる規制は今後、強化されることはあっても、緩和されることはない。投資回収できない座礁資産になる可能性が高まり、Jパワーは撤退に追い込まれたのだった。

Jパワーの撤退表明と時期を同じくして、丸紅と関西電力は秋田市で計画していた石炭火力の建設を中止すると発表した。3,000億円超を投じて2024年に稼働する計画だったが、環境対策費が膨らんだことで着工を延期していた。丸紅と関西電力の計画頓挫により、国内の石炭火力で未着工の新設案件はゼロとなった。気候ネットワークによると、建設中案件は8基、547万kWとなっている。


計画中・建設中の石炭火力発電所
出典:気候ネットワーク

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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