続・なぜ、JEPXは高騰したのか、「わかったこと」と「わからないこと」 前編 | EnergyShift

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続・なぜ、JEPXは高騰したのか、「わかったこと」と「わからないこと」 前編

続・なぜ、JEPXは高騰したのか、「わかったこと」と「わからないこと」 前編

2021年03月12日

2020年12月末から2021年1月にかけてのJEPX(日本卸電力取引所)の価格高騰については、政府の審議会でも検証が進められている。しかし、現時点で明確な原因が特定されたわけでも、結論が示されたわけでもない。示されている限られたデータからどのようなことが読み取れるのか、日本再生可能エネルギー総合研究所の北村和也氏が分析する。

前回の記事「なぜ、JEPXは高騰したのか」はこちら→
2021年冬の電力ひっ迫関連の記事はこちら→

原因の究明はこれから

前回のコラムでは、今回の高騰が異常であり、想定外であったことをまとめた

世の中に数多く発生する事象は、時間が経つにつれ発生時にはとてもできなかったような言動が後から出てくるものである。2011年3月11日の福島第一原発事故でも勝手な物言いをする人が後出して、残念な思いをすることも多い。

今回の高騰は、一部の電力を売り買いする人たちの間での出来事のためか、それが早まっている気もする。すでに、しらっと「異常でない」と言わんばかりの言い回しも飛び出している。

また、ちょうど時期を同じくしたテキサスの停電や電力システムのダウンを取り上げて、日本と同列と語ることも聞かれる。しかし、あくまでもひっ迫であり、全体の電力需給は問題なく枠に収まっていたJEPXのケースとは根本が違っている

経産省でさえ『原因』についての結論が出せないでいる

経済産業省資源エネルギー庁関係の委員会がこの間、何度も開かれ、これまで出てこなかった資料も表になってきた。また、旧一電(旧一般電気事業者)のヒアリングも行われている。一方、まだ出てきていない資料も多く、経産省でさえ、『原因』についての結論が出せないでいる。

ここでいう原因とは、経産省がまとめた資料にも書かれている「今般のスポット価格の高騰の要因は、実質的な売り入札の減少により売り切れ状態が継続して発生し、スパイラル的に買い入札価格が上昇したこと」がなぜ起きたかということである。それは、委員会に参加した委員から出ていた「予備率が回復してもなぜ市場供出が増えず」高騰が延々と続くことになったかの理由でもある。

予備率に関しては、前回のコラムで示したように、ごく一部で3%を切ることが起きたが、それは電力の融通やその他発電側などの努力で、節電、停電なしと事なきを得ている。12月初めから年末年始の予備力のデータは、筆者も複数のルートで求めているが、まだ公開されていない。

コラムの冒頭で申し訳ないが、原因の究明はこれからといってよい。その一方で、FIT電源の売却で送配電事業者にたまった巨額の“余剰金”を賦課金の“補填”に使うことが決まった。後述するように、サーキットブレーカーなどの市場改革は、見送られる公算が強い。原因抜きの結論を急ぐのはいかがなものか。早い幕引きでは、市場の信用は回復できない。

2020年12月26日土曜日に起きたこと

さて、やっと前回からのテーマ「12月26日土曜日」に入ることができる。

今回の高騰が始まったのは2020年12月半ばであるが、問題となった「売り入札の大幅減少によって売り切れ状態」が現出したのは、年末の数日からである。

図1 スポット市場の入札・約定量の変遷(2020年12月1日〜2021年1月25日)

(出典:スポット市場価格の動向等について 2021年1月19日、第29回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 配布資料に一部筆者が加筆)

図1のグラフは、スポット市場の「売り入札量(青線)」、「買い入札量(オレンジ線)」、「約定総量(グレー線)」の日毎の変化を示している。売りと約定が一致する売り切れが12月24日あたりから起き、1月22日過ぎまでなんと一ヶ月も続いた

注目すべきは、12月25日から26日にかけてで、売り入札量が激減(赤丸枠:以下筆者)していることである。一方、緑丸枠のように買いも減っているが売りの半分程度で差が大きく広がっている。売りの減少がおよそ300万kWhに対して、買いの減少は150万kWh程度である。

JEPXのシステムプライスで見ると、前日25日の「ピーク30円、平均15円」に比べ、26日は「ピークで75円、平均36円」と、2倍以上になっている。

この売り買いの差はさらに続き、1月初旬には、その差がおよそ450万kWhで最大化し(赤矢印)、その後スポット市場は最高騰を記録した。

電気を買えなかった小売電気事業者はどうしたのだろう?

「買い」が「約定」を大きく上回っているこのグラフを見ると、普通は大きな疑問が湧く。

電気を買えなかった小売電気事業者は、どうしたのだろうという素朴な「?」である。供給先に電気が行かなければ、停電になってしまうと。

もちろん、そのようなことはこの期間に一回も起きていない。その差は、インバランスとして、各送配電事業者が用意した予備の電力ですべて埋めている。逆に言うと、小売電気事業者は、買いが成立しなくても電力の確保については安心していられたのである。

ここからも全国の電力の需給は問題なく、バランスが取れていたことがわかり、今回それなのに長期間、高騰が続いたという異常事態が実感できるのである。

続・なぜ、JEPXは高騰したのか 後編はこちら

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北村和也
北村和也

日本再生可能エネルギー総合研究所 代表、株式会社日本再生エネリンク 代表取締役。 1979年、民間放送テレビキー局勤務。ニュース、報道でエネルギー、環境関連番組など多数制作。番組「環境パノラマ図鑑」で科学技術映像祭科学技術長官賞など受賞。1999年にドイツへ留学。環境工学を学ぶ。2001年建設会社入社。環境・再生可能エネルギー事業、海外事業、PFI事業などを行う。2009年、 再生エネ技術保有ベンチャー会社にて木質バイオマスエネルギー事業に携わる。 2011年より日本再生可能エネルギー総合研究所代表。2013年より株式会社日本再生エネリンク代表取締役。2019年4月より地域活性エネルギーリンク協議会、代表理事。 現在の主な活動は、再生エネの普及のための情報の収集と発信(特にドイツを中心とした欧州情報)。再生エネ、地域の活性化の講演、執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作。再生エネ関係の民間企業へのコンサルティング、自治体のアドバイザー。地域エネルギー会社(地域新電力、自治体新電力含む)の立ち上げ、事業支援。

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