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なぜ、JEPXは高騰したのか、「わかったこと」と「わからないこと」(前編)

なぜ、JEPXは高騰したのか、「わかったこと」と「わからないこと」(前編)

2021/02/18

2020年12月末から2021年1月にかけてのJEPX(日本卸電力取引所)の価格高騰は、新規参入の電力会社に大きな影響を与え、それは今後、消費者への影響ともなっていくだろう。では、なぜ高騰したのか。何より、こうした事態を再び引き起こすことがないようにするためには、どうすればいいのか。新規参入者への適切な支援も含め、日本再生可能エネルギー総合研究所の北村和也氏が分析する。

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2021年1月末、JEPXの狂乱ぶりは落ち着いているが・・・・・

2020年12月半ばから始まったJEPX(日本卸電力取引所)の高騰は、2021年1月末には、ほぼ平常に戻りその後も安定的に推移している。システムプライスのコマ(30分間の単位)が最高で一時250円を上回り、一日平均でも150円を超える狂乱ぶりから比べると、「まるで嘘のよう」という気がする。

スポット市場価格の動向等について
出典:スポット市場価格の動向等について 2月5日、経産省資料

強烈なダメージを受けている地域や自治体新電力など新興の小売電気事業者は、この間、そして一段落ついた後、何度も資源エネルギー庁(エネ庁)などに支援を含む対応策の『要望』を行っている。

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直接の原因は、「LNG不足や厳寒」ではなく、「市場での売り買いの極端なギャップ」

担当官庁であるエネ庁は、原因究明などのための旧一電、新電力などへの各種ヒアリングやデータ収集を行って情報をまとめている。

このコラムでは、エネ庁の関連委員会での配布データ(1月19日、25日、2月5日)と委員会での議論を中心に、今回の高騰はなぜ起きたのか、そして、どこに問題があって、今後どのような対応をすべきかを何回かに分けで書き進めるつもりである。

配布データは、各方面からの要請で毎回更新され、内容も増えてきているが、原因などを判断する材料として足らないものも多い。本コラムの結論が不明確な部分があることは前もって了解してもらいたい。

ただし、これまでの資料で、おおよその原因がどの領域(エリア)にあったかは分かってきた。LNG不足や厳寒は確かに「きっかけ」であった可能性がある。しかし、高騰の要因は、JEPX市場の売りと買いのギャップが極端に広がったことであった

つまり、市場の外のエリアではなく、直接的には市場の領域を基本とした動きが高騰につながったということである。ここにきて、関係者の見解はほぼ一致してきたといってよいだろう。

2021年2月5日に開かれた「電力・ガス取引監視等委員会 第55制度設計専門会合」のエネ庁の配布資料68ページには、「今般のスポット価格の高騰の要因は、実質的な売り入札の減少により売り切れ状態が継続して発生し、スパイラル的に買い入札価格が上昇したことであったと考えられる。」とあるのは、それを裏付けている。

もちろん、“原因話”はこれで終わりではない。なぜ、「実質的な売り入札の減少により売り切れ状態が継続して発生し、スパイラル的に買い入札価格が上昇」したのかの究明と、今後の対策が重要なのは言うまでもない。

起きたことは『異常』なのか、『想定外』だったのか

JEPXの取引が落ち着きを見せ、小売電気事業者への支援の決着と今後の市場の在り方へ議論が移ってきている。その中で、要因の分析に入る前に確認しておいた方が良いことがある。

今回の高騰をどうとらえるか、一種の評価についてである。

それは、特にダメージが大きい中小の新電力への支援策をどうするか、また、今後の市場設計をどう見直すかについての重要なベースとなるからである。

SNSなどに見られる、例えば、価格変動に対するリスクヘッジについて、通常時と今回のケースとを混在させた議論を相手にするつもりはない。しかし、予見できたか、問題がシステムに潜んでいたか、誰かの意図などで引き起こるものか、小売電気事業者のリスク回避は可能だったかなど、チェックすべきポイントは多い。

それらを総合的に判断した結果、それぞれの関係者が、「今回の出来事は、○○だった」と評価することになる。○○に入る言葉は、この項のタイトルにある『異常』、『想定外』などという言葉となる。

この評価も、実は、ある程度収束してきている。

本コラムでも使っている中心的な資料が配布となった、2021年2月5日「第55制度設計専門会合」の最後に、会合の座長である稲垣 隆一氏(弁護士 稲垣隆一法律事務所)は、次のような言葉で締めくくっている。

(本日の議論で)皆が異常と考えている。この市場の働きが社会的合意を超えたことが発生したということ」と言い、今回の出来事は、異常だということについては共有されていると思ってよい。この会合には、専門家、有識者だけでなく、オブザーバーとして、当事者である小売電気事業者(新電力)、旧一般電気事業者(旧一電)の小売りや発電、また、監督側であるエネ庁、電力広域的運営推進機関、JEPXなども参加している。

ややこしいのは、異常だということには異論がなくても、想定の範囲だったかどうかでは、微妙に意見が食い違いはじめることである。裏に透けるのは責任との関係で、やはり自らのところに重荷がやってくるのは誰もが避けたいと思うのであろう。

議論の収束と乖離(かいり)する対応策

第55回(2月5日)の議論でも、例えば、消費者側の委員が、新電力の支援策として、「FIT電源について、買取価格を市場での上限価格」とするように求めたのに対して「決定した価格を過去に戻って=遡及して行うのはダメ」と強く主張する委員もいて、支援については、大きな違いを見せている。

実は、これを修復するための方法は、先ほども引用した、会合最後の委員会の座長稲垣氏の言葉にある。

それは、「我々が市場として想定した、あるいは合意した範囲は何だったのか、から出発して、それを取り巻く周辺のことを含めて広く議論をしていかなければならないと(委員、オブザーバーの)みなさんから指摘を受けた」としたうえで、「それを行うに当たっては、一体何が起こったかということを信頼にたる証拠をもとにしっかり分析していくということ」という稲垣氏の5日の委員会の、締めくくりである。

筆者は、これに全面的に賛成する。「責任論ではなく、どう想定していたかをまず冷静に確認し、それを元に広範囲に議論すべきであること」、また、「信頼できる証拠で分析すること」である。

言い換えると、想定外であったかどうかを含めて、原因の徹底的な分析が重要である。もし、その原因にシステムに潜んでいた不具合や、なにか人為的な要素(ミス、故意など)があった場合は、それに合わせた支援や対策を行うことが合理的と考える。現時点で、あれはダメ、これまでしか認められない、というのは一種性急であるし、間違った対策を招く可能性さえあると考える。

もちろん、財務的に危機に瀕している新電力などが、対策を待っているうちに倒れる可能性もあり、とりあえずは膨れ上がった各種の支払いの猶予(現状の分割に加えて)は必須である。

通常のスパイクとは全く違う、長期間にわたる高騰

起きたことの異常さと想定外について、もう少し事実に基づいて書いておく。

卸売市場で取引価格が急激に上昇することは世界でも珍しくない。需要が突然大幅に増えることなどでいわゆる「スパイク」と呼ばれる電力価格のグラフが上向に“急にとがる”ことが起きる。

2016年から17年の冬のフランスで、異常寒波をしのぐため暖房器具が一斉に使われ、フランス国内の電気が不足しスパイクが発生した。電力の需要増加は、原発大国のフランスで暖房の電化が進んでいたことが背景にあった。

一方、隣のドイツは冬の嵐で風力発電が大きく伸びていて、フランスは通常の10倍もの値段ほどで市場から緊急調達している。また、この1月初旬に、LNG不足や寒さに見舞われた欧州市場でも価格が上昇している。しかし、一日の平均で見れば、せいぜい2倍程度である。

ヨーロッパの例は、いずれも短い時間などで起きるスパイクである。今回、日本ではそれが1ヶ月以上にわたって続き、世界の常識とは大きくかけ離れたものになった。

問題をはき違えてはならない

資源エネルギー庁の2月5日開催の委員会の委員も務めている東京大学の松村敏弘教授は、2月1日に次のような緊急の提言を行っている。

「今回の問題は、卸価格が高いコマがあったことではなく、社会的費用に見合わない高騰が異常に長く継続していることにある」と書いて、どこが異常だったかを指摘した。

この後、提言の最後を、「問題をはき違えてはならない」と強い調子で締めくくっていることが印象的であり、今回の高騰を巡る様々な議論の中に的外れの主張が混じっていることへの教授の怒りも表した。

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北村和也
北村和也

日本再生可能エネルギー総合研究所 代表、株式会社日本再生エネリンク 代表取締役。 1979年、民間放送テレビキー局勤務。ニュース、報道でエネルギー、環境関連番組など多数制作。番組「環境パノラマ図鑑」で科学技術映像祭科学技術長官賞など受賞。1999年にドイツへ留学。環境工学を学ぶ。2001年建設会社入社。環境・再生可能エネルギー事業、海外事業、PFI事業などを行う。2009年、 再生エネ技術保有ベンチャー会社にて木質バイオマスエネルギー事業に携わる。 2011年より日本再生可能エネルギー総合研究所代表。2013年より株式会社日本再生エネリンク代表取締役。2019年4月より地域活性エネルギーリンク協議会、代表理事。 現在の主な活動は、再生エネの普及のための情報の収集と発信(特にドイツを中心とした欧州情報)。再生エネ、地域の活性化の講演、執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作。再生エネ関係の民間企業へのコンサルティング、自治体のアドバイザー。地域エネルギー会社(地域新電力、自治体新電力含む)の立ち上げ、事業支援。

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