EVシフトで自動車産業の淘汰がはじまった 倒産を避ける「事業再生ADR」とは!?(上)【帝国データバンク寄稿】 | EnergyShift

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EVシフトで自動車産業の淘汰がはじまった 倒産を避ける「事業再生ADR」とは!?(上)【帝国データバンク寄稿】

EVシフトで自動車産業の淘汰がはじまった 倒産を避ける「事業再生ADR」とは!?(上)【帝国データバンク寄稿】

2021/09/24

EVでなければもはやクルマとは言えない。

そういう時代が来ようとしている。2030~35年にかけて、先進国を中心に多くの国々でガソリン車、ディーゼル車の新車販売が禁止になる。

あとわずか10~15年で、本当に内燃機関の歴史は終わるのか。正直言って、筆者などは半信半疑だが、この短期間で産業構造を大転換するなら、ひとつだけ確かなことがある。自動車関連企業の倒産急増だ。今後、多くの自動車メーカー、自動車部品メーカーが淘汰され、雇用にも大きな影響が出るのは確実だろう。

そして自動車産業の未来を占う上で、絶対に知っておくべきキーワードがある。「事業再生ADR」だ。

曙ブレーキ、事業再生ADRの衝撃

2019年7月、東証1部上場の曙ブレーキ工業(埼玉県羽生市)が事業再生ADRを申請した。多くの取引先がまったくの寝耳に水であり、「まさか曙ブレーキのような大手自動車部品メーカーが・・・」と衝撃が走った。

事業再生ADRとは、「裁判外の紛争解決手続き」の一種。第三者機関の事業再生実務家協会の仲介のもと、債権者と協議して事業の継続、会社再建を前提として過剰債務の整理を行う。平たく言うなら債務カットということだ。

事業再生ADRは倒産ではないということになっている。裁判所で倒産法に則り手続きを進める破産、民事再生法、会社更生法、特別清算のいわゆる倒産4法が法的整理と呼ばれるのに対し、事業再生ADRはあくまで“裁判外”の手続きだからだ。しかし、同じく法的整理手続きに拠らない私的整理/任意整理というのもあり、こちらはなぜか倒産扱いになってしまう。広義では「支払うべきものを支払わない」のが倒産なのでADRだけ特別扱いなのはどうにも不公平だが、一応そういうことになっている。

ただ、事業再生ADRにはほかにない特徴がひとつだけある。債務カットの対象になるのが、金融機関のみということだ。

法的整理、たとえば民事再生法や会社更生法なら、金融機関だけでなく仕入先や下請けなど広く一般債権者も巻き込む。そして事業の継続、会社再建を前提とした過剰債務の整理、債務カットの対象にする(ただし手続きが煩雑になるのを避けるため、ごく少額の債権者は対象外とし、全額支払うことが多い)。焦げ付きを出した債権者は債権の届け出や債権者集会への出席、再建計画への賛否、決算での損失計上など不良債権の処理を迫られることになる。

これが事業再生ADRなら、一般債権者の持つ債権は100%保護され、全額支払われる。曙ブレーキ工業のときも、商社の審査担当者などからは「あっ、ADRか・・・。正直、助かった」と安堵の声が洩れた。反面、運転資金、設備投資資金として相当な額を貸し込んでいた地銀などには巨額の損失を計上し、銀行経営の屋台骨を揺るがす事態となったところもある。

既に淘汰は始まっている・・・!?

曙ブレーキを皮切りに、ここ数年、自動車業界では事業再生ADRを申請する事例が増えている。  

2020年4月には東証2部上場の機能性樹脂部品メーカー、児玉化学工業(東京都千代田区)がADRを申請した。1970年代に三菱ケミカルグループ傘下に入った“外様”企業だったが、近年は慢性的な業績不振、財務悪化に苦しめられていた。

同年6月にはカーエアコン用コンプレッサー大手のサンデンホールディングス(東京都千代田区)もADRを申請した。欧州市場の需要急減で資金繰りが悪化したためだが、それまでの評価は東証1部上場の優良企業。相次ぐADR申請は、自動車業界に対する見方を大きく変えた。EVシフトによる自動車メーカー、自動車部品メーカーの淘汰は5~10年後に始まるだろうというのが与信管理の世界で緩やかに形成されていたコンセンサスだったが、「これはもう・・・既に始まっているのでは」(鉄鋼メーカー)と認識が改められることになった。そして11月には粉飾決算の影響が尾を引き、バランスシートの傷んでいた車載用電子部品メーカーのユー・エム・シー・エレクトロニクス(埼玉県上尾市)もADRを申請している。

サプライチェーンを守る意思

実は、本当に興味深いのはここからだ。

2020年7月、民事再生法の適用を申請した金属プレス加工メーカーのイワヰ(愛知県名古屋市)は法的整理でありながら、三井住友銀行とタチエス(東京都昭島市)のバックアップのもと、一般債権者に対して100%の支払いを行った。民事再生法では過去まったく例がない訳ではないものの、非常に稀なケースだ。

同年9月には米NY市場に上場しているターボチャージャーメーカー、Garrett Motion Incがチャプター11(日本の民事再生法に相当)を申請、日本現地法人のギャレットモーションジャパン(東京都港区)への影響が懸念されたが、この米親会社も一般取引先への支払いを通常通りに行い、日本現法もこれに倣った。

極めつけが12月に民事再生法を申請したダイヤメット(新潟県新潟市)。三菱マテリアル系列で焼結部品の開発、製造を行っていたが慢性的な赤字経営が続き、周囲からも不安視されていたものの、三菱グループ企業を救済する御用ファンドとして知られるフェニックス・キャピタル系の投資ファンドへ経営の支配権が移り、まずはひと安心・・・と思った矢先にいきなり倒産した。負債総額は578億円に達し、2020年最大の倒産であった。しかし同社もまた、一般商事債権は100%保護したため、金融機関を除いた多くの債権者は師走に駆けずり回らずに済んでいる。

こうしてみると、自動車産業には明らかに法的整理をなるべく避けようという不文律、暗黙の了解がある。その目的は言うまでもなく、債権者の焦げ付きリスクを回避し、連鎖倒産のリスクを低減、サプライチェーンを維持するところにある。さすがに日本の基幹産業と言うべきか、このような力が働いている業界は他にない。

自動車産業の主な法的整理/事業再生ADR

年月商号所在地態様
2019年7月曙ブレーキ工業株式会社埼玉県羽生市事業再生ADR
2020年4月児玉化学工業株式会社東京都千代田区事業再生ADR
2020年6月サンデンホールディングス株式会社東京都千代田区事業再生ADR
2020年7月株式会社イワヰ三重県津市民事再生法
2020年9月ギャレットモーションジャパン株式会社東京都港区米親会社がチャプター11
2020年12月ユー・エム・シー・エレクトロニクス株式会社埼玉県上尾市事業再生ADR
2020年12月株式会社ダイヤメット新潟県新潟市民事再生法
太宰俊郎
太宰俊郎

証券・金融系専門紙記者を経て、2006年に信用調査会社の株式会社帝国データバンクに入社。情報部記者として、主に倒産企業の取材、TDB企業データに基づくレポート等の作成を行っている。