時間前市場 シングルプライスオークション導入へ 第65回「制度設計専門会合」 | EnergyShift

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時間前市場 シングルプライスオークション導入へ 第65回「制度設計専門会合」

時間前市場 シングルプライスオークション導入へ 第65回「制度設計専門会合」

2021/10/13

2021年10月1日に開催された、電力・ガス取引監視等委員会の第65回「制度設計専門会合」の議論の1つは、時間前市場に関するものであった。変動する再エネが拡大するにしたがって、需給予測の誤差が大きくなるが、これをカバーする市場の1つが時間前市場だ。現在、取引量は少なく、十分に機能しているとは言い難い。再エネ拡大やFIP制度導入にあたって、この市場をどのように見直していくのかは、重要な課題となっている。

審議会ウィークリートピック

現状ではまだ取引量が少ない時間前市場

現在、時間前市場(当日市場)はスポット市場(一日前市場)後における実需給1時間前までの需給変動等への対応に活用されているが、スポット市場の約定量が3,128億kWhであるのに対して、時間前市場では40.2億kWhとわずかな約定量に留まっている(いずれも2020年度)。

2022年度からのFIP制度の導入やインバランス料金制度の見直しといった市場環境・制度の変化を踏まえると、時間前市場のさらなる活性化が必要とされており、制度設計専門会合ではその検討が進められてきた。

その施策の1つが時間前市場におけるシングルプライスオークション方式(板寄せ)の導入であり、第65回会合ではこの具体的な方向性が示されたので、本稿ではその概要をお伝えしたい。

現在の時間前市場の概要

現在の計画値同時同量制度ではバランシンググループ(BG:小売電気事業者や発電事業者等)が実需給前日の12時までに翌日計画を提出する。このため、卸電力市場のうちスポット市場において、その時点の想定需要に基づいて実需給に必要な供給力(発電機の起動量)のベースが決定される。

時間前市場は、スポット市場後に、BGが需給を極力一致させるために最終的な需給調整をおこなう場として位置づけられている。

図1.ゲートクローズまでの電力取引の流れ

出所:制度設計専門会合

表1.JEPX時間前市場 取引概要

取引商品0:00~24:00を30分単位のコマで分割した48商品
取引単位100kW(30分の電力量としては50kWh)
入札方法ザラバ取引
入札受付時間前日17:00に翌日0:00~24:00の48コマの取引を開始し、各コマ受渡時間の1時間前まで取引可能

出所:JEPX

現在の時間前市場の特徴の1つがザラバ仕法による取引であり、短時間でタイムリーに必要量の売買を容易にする目的で設定されたものである。ザラバ方式においては、各参加者が場に出した札がマッチングされ、随時約定がおこなわれることとなる。

表2.ザラバ取引の入札イメージ

時間帯:X月Y日Zコマ
売量価格買量
20.0013.00 
20.0012.60 
 11.5610.00
 10.0020.00
 6.7350.00
 4.715.00

出所:制度設計専門会合

従来、FIT電源(その買取義務者)の多くはFIT特例制度①を適用しており、その発電出力の予測や計画値は一般送配電事業者によって作成されるため、小売電気事業者が再エネ予測誤差を時間前市場において調整する必要性が無く、時間前市場での調整ニーズが顕在化していなかった。

2022年度からFIP制度が開始されることにより、今後は時間前市場での調整ニーズが増大することが見込まれる。

このような大量の取引に適した取引方法が、スポット市場でも導入されているシングルプライスオークション(SPA)である。諸外国においても、時間前市場でザラバとSPAを併設している事例がある。

ただし時間前市場にSPAを導入するにあたっては、火力発電機の起動特性や再エネ予測のタイミング、三次調整力②との関係性を踏まえる必要がある。

例えばSPAの具体的内容を検討するにあたり、その閉場時間≒約定結果の公表時間を何時とするかは重要な論点である。

火力発電機の起動特性

時間前市場SPAの導入後は、その約定結果に応じて火力発電機に対して起動・出力指令が発せられる。

停止している火力発電機を起動させるには、その発電方式の違いや燃料種別に応じて、一定の起動時間が必要である。このため、実需給までの時間が長いほど多くの発電機の起動が可能となる。

なお欧米で主流のオープンサイクルガスタービンでは、その起動時間は30分~2時間程度と短時間であるのに対して、日本で主流のコンバインド発電機では4~5時間、汽力発電機では8~10時間を起動に要することに留意が必要である。

電力・ガス取引監視等委員会は、旧⼀電・JERA・電源開発を対象として、⽕⼒・⽔⼒発電所の全ユニットについて、ユニットごとの発電機の停⽌モードに応じた起動特性データを調査した。

表3.電源種、停⽌モード別の発電機の起動特性

出所:制度設計専門会合

この結果、起動指令の12時間後であれば、⽇次停⽌・週末停⽌状態の⽯油⽕⼒とコンバインド式ガス⽕⼒を中⼼として、全⽯油・ガス⽕⼒の70%以上が起動可能であることが確認された。

再エネ(太陽光)の出力予測

起動指令タイミング(≒SPAの約定タイミング)が少しでも早いほうがよい火力と異なり、変動再エネは実需給に近いほど、その出力予測精度が高いと考えられる。

よってこの両者はトレードオフ関係にあるため、その最適なバランスを探る必要がある。

このため監視等委員会では、太陽光発電の予測誤差を調査している。

予測タイミングによる1⽇の最⼤予測誤差の改善度は、前⽇6時時点の予測誤差と比較すると、前⽇15時時点では54%、前⽇21時では66%、当⽇3時では67%の改善率となった。

火力と再エネの双方を考慮し、①前⽇17時(時間前市場開場時)、②前⽇21時、③当⽇朝3時のタイミングで起動指令が発令された場合のうち、当⽇12時の需給に対する分析結果は図2のとおりである。

図2.起動可能電源・太陽光の予測誤差改善度の推移

出所:制度設計専門会合

三次調整⼒②の調達との関係

現在、時間前市場(ザラバ)の取引に先立ち、需給調整市場(三次調整⼒②)の調達がおこなわれ、FITインバランス特例①③の予測外れに備えた⽕⼒電源等が起動される仕組みとなっている。

図3.三次調整⼒②とその他市場取引のタイムライン

出所:制度設計専門会合

これを前提として時間前市場にSPAを導⼊した場合、需給調整市場で調整⼒を確保することにより時間前市場に⼗分な売り⽟が出てこない可能性や、需給調整市場と時間前市場の両⽅で調達がおこなわれることで、⽕⼒の起動台数が過⼤になる可能性が懸念されている。

このため監視等委員会では、三次調整⼒②の単純な実施時間の変更案にとどまらず、市場全体のタイムラインの見直しも含めた、市場取引の最適な組み合わせとして以下のような5つの案を検討している。

表4.時間前市場SPA導入に向けた選択肢

条件概要
FIT特例①通知スポット市場三次調整⼒②時間前SPA三次調整⼒②で確保した電源⼊札
1スポットに合わせて後ろ倒し前⽇午後時間前の後に移動前⽇⼣⽅頃+当⽇朝なしスポット市場も含めて市場全体を後ろ倒し。
2スポット後再通知そのまま時間前の後に移動前⽇⼣⽅なし三次調整⼒②を時間前の後に実施し、かつFIT特例①再通知も⾏う。
3そのままそのまま時間前の後に移動前⽇⼣⽅なし三次調整⼒②を時間前の後ろに設定。FIT特例①再通知は⾏わない。
4スポット後再通知そのままそのまま前⽇⼣⽅あり市場のタイムラインは変更せず、FIT特例①再通知によって余剰となった分を時間前に⼊札。
5そのままそのままそのまま前⽇⼣⽅あり市場のタイムライン、FIT特例①通知は変更せず、三次調整⼒②の余剰を時間前に⼊札。

出所:制度設計専門会合

視点①としては、卸取引のメイン市場であるスポット市場の実施時間を後ろ倒しする案である。先述のとおり、再エネ予測は実需給に近いタイミングになるほど精度が改善することから、現在前日10時に実施しているスポット市場の⼊札(開札)を後ろ倒しにすることで、前⽇断⾯における電源の起動を最適化することができると考えられる。

視点②としては、三次調整⼒②の調達タイミングを時間前市場の後とする案が考えられる。

視点③としては、FIT特例制度①の通知時間の見直しが考えられる。

現在、FIT特例①では前々日16時の初回通知の後、前日6時に再通知がおこなわれ、BGはこれを基に、スポット市場への入札量を決めている。

仮にスポット市場後に再々通知がおこなわれるならば、BG自身が時間前市場で調整取引をおこなうほか、送配電事業者による三次調整力②の必要量も抑制されると考えられる。

視点④としては、一旦、三次調整⼒②として確保された電源の余剰分を、時間前市場へ売り入札する案である。

現在は前⽇6時時点の予測に基づき、必要な調整力が三次②として調達されているが、時間の経過に伴い、確保された電源が不要になる場合もある。これらの電源を有効に活用し、社会全体としてのメリットオーダーを実現するために、時間前市場へ売り入札することは有益と考えられる。

なお表4のとおり、時間前市場SPAの実施時間は、前日夕方という案もしくは前日夕方+当日朝の計2回、という案が示されている。

いずれにしても、市場取引の時間変更等は実務に与える影響も大きいため、システム改修や人員の勤務時間等も充分に考慮したうえで検討を深める必要があると考えられる。

スポット市場との関係

JEPXのスポット市場および時間前市場はいずれも現物取引であるため、時間前市場にSPAを導⼊した場合、買い⼊札量がスポット市場と時間前市場で分散し、スポット市場の流動性が損なわれてしまうという懸念が一部で生じている。

この懸念に対して監視等委員会事務局からは、時間前市場にSPAが導⼊された場合であっても、以下の⼊札は引き続きスポット市場を通じて取引されることとなるとの回答が示されている。

– TSOによるFIT特例③の売り⼊札、⼩売によるFIT特例①余剰分の売り⼊札、FIT特例③の⼩売による買い⼊札

– 間接オークションを⽬的とした⼊札

– 先渡・BL市場約定分の⾃動⼊札

– 先物取引を現物価格のヘッジに利⽤している事業者の⼊札

– 間接送電権を保有している事業者の取引

これに対してオブザーバー参加しているJEPXからは、これらの入札は価格を持たない、成り行き売買であるため、事業者の懸念を払拭するものではないとの趣旨の発言がなされている。

時間前市場SPAのブロック入札等

時間前市場SPAの詳細設計を進めるにあたり、ブロック入札の在り方等も論点となる。

現時点事務局からは、

– 案① スポット市場と同様に、ブロック⼊札も可能な形でSPAを導⼊する案

– 案② SPAをザラバ取引のオープニングセッションとして導⼊し、売れ残り札をザラバに残す案

の2案を比較検討していくことが示されている。

案②のオープニングセッション方式は、証券取引等においても一般的におこなわれている方式である。

なおブロック入札については現行のスポット市場においてもその非効率性などについて問題点が指摘されている。

事務局では、米国PJMやERCOTにおいて導入されている “Three-Part Offer”方式(発電事業者が⼊札時に、ユニット起動費、最低出⼒コスト、限界費⽤カーブの3つを登録し、最適なコストで運用される仕組み)等を参考に、ブロック入札方式の変更を念頭に検討を進める予定である。

時間前市場へのSPA導入は時間前市場に閉じた話ではなく、スポット市場や調整力市場の変革も含めた、大きな市場改革の呼び水となるものである。

FIP等は、流動性の高い時間前市場の存在を前提としている面もあり、互いに車の両輪として、適切な制度が整備されることを期待したい。

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda