三次調整力② 調達不足解消に向けた市場ルールの見直し 第25回「需給調整市場検討小委員会」 | EnergyShift

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三次調整力② 調達不足解消に向けた市場ルールの見直し 第25回「需給調整市場検討小委員会」

三次調整力② 調達不足解消に向けた市場ルールの見直し 第25回「需給調整市場検討小委員会」

2021年10月08日

電力需要の予想外の変動、あるいは再エネの出力変動に対応するため、かつては送配電事業者による調整力公募がおこなわれ、これは順次、需給調整市場にとってかわられていくことになっている。需給調整市場でもっとも応答時間が長い三次調整力②はすでに取引が始まっているが、調達不足が続いているという。2021年9月6日に開催された、電力広域的運営期間の第25回「需給調整市場検討小委員会」は、こうした課題への対応が議題となった。

審議会ウィークリートピック

FIT再エネ電源の発電予測の誤差に対応する三次調整力②

2021年4月から、需給調整市場の三次調整力②(以下三次②)の取引が開始されている。

三次②は需給調整市場では最も低速な調整力であり、主にFIT再エネ予測誤差に対応する商品である。三次②の商品要件概要は表1のとおりである。

表1.三次②の商品要件概要

対応する事象FIT特例制度①③を利用しているFIT再エネの、前日からGC(ゲートクローズ)までの発電予測誤差に対応。
指令・制御オンライン
応動時間45分以内
継続時間商品ブロック時間(3時間)
供出可能量45分以内に出力変化可能な量
最低入札量専用線:5MW
簡易指令システム:1MW

出所:需給調整市場検討小委員会

2021年度は従来の調整力公募と、新たな需給調整市場の三次②が併存しており、電源Ⅱの余力を原資として応札されることを想定したうえで、一般送配電事業者は三次②を毎日調達している。

注)  電源Ⅰ:一般送配電事業者があらかじめ確保する調整力、電源Ⅱ:一般送配電事業者がオンラインで調整できる電源、電源Ⅲ:一般送配電事業者がオンラインで調整できない電源

図1.調整力公募と三次②の調達イメージ

出所:需給調整市場検討小委員会

 

しかしながら、拙稿【需給調整市場 三次調整力②の取引開始 第50回「制度検討作業部会」】でご紹介したとおり、4月の取引開始以来、市場では継続的に三次②の調達不足が発生している。

調達不足、すなわち一般送配電事業者が必要とする量に対して取引会員(発電事業者)からの応札量が少ない理由としては、4月時点では主に以下の2つの理由が挙げられていた。

理由1.発電事業者がΔkW応札を踏まえた計画ではなく、従来同様にスポット市場後の発電機余力の範囲で応札している。

理由2.軽負荷期はもともと発電機並列台数が少なく、発電計画値も最低出力付近となるため、応札できる電源が少ない。

しかしながら高負荷季である夏季に入ってからも調達不足は継続しており、応札量が少ない理由は他にも存在すると考えられる。広域機関では市場ルールに関わる課題として、「商品ブロック時間」、「下げ代不足対応」、「応動時間」の3つに着目し、「需給調整市場検討小委員会」の第25回会合において検討をおこなった。

三次② 商品ブロック時間の見直し

表1のとおり、現在の三次②商品ブロック時間は3時間である。(1日8ブロック)

これは欧州の事例も参考にしながら、ブロック時間の長短のメリット/デメリットを比較検討したうえで決定されたものである。

ブロックが細切れになり過ぎると、ブロック間区切りで調整対象リソースが入れ替わり、調整力の引継ぎが上手くいかない場合は周波数調整に悪影響が生じる懸念があると考えられた。

他方、需要側リソースとしてのデマンドレスポンス(DR)を想定すると、ブロック時間は短いほうが多様な新規事業者の参入が期待できる。

図2の場合、応札者は3時間ブロック内のコマのうち、最小供出可能量で応札することが合理的である(そうしないと、コマによっては供出不足が生じてしまう)。つまり常に「応札量<供出可能量合計」となり、過少応札状態となる。調整力の一部が無駄に退蔵された状態と言える。

これに対して一般送配電事業者は3時間ブロック内のコマのうち、最大必要量で募集することが合理的である(そうしないと、コマによっては調整力不足が生じてしまう)。つまり常に「募集量>必要量合計」となり、過剰調達状態となる。これは調達コストが過大となるおそれがある。

図2.ブロック長さによる応札量・募集量の違い

出所:需給調整市場検討小委員会

需給調整市場検討小委員会の第25回会合では、三次②は調整力の中でも「供給力型商品」と位置付けられることから、周波数調整に与える影響は限定的であるとして、ブロック時間(=継続時間)の入札単位を30分に短縮することが提案された。

現在でも発電計画は30分コマ単位で作成されており、実需給においても三次②の発動指令やアセスメントⅡは30分コマ単位で実施されているため、これと整合的である。

入札単位を30分に短縮することは、三次②の応札量の増加および募集量の抑制の双方で効果が期待される。

ただし入札単位を30分に短縮することにより、30分コマごとに落札する/しないが入れ替わること、いわゆる「歯抜け約定」の頻度が高まるおそれがある。

卸電力市場(kWhのエネルギー市場)でも歯抜け約定の問題は存在するが、1事業者が複数の発電機を束ねて応札できる卸電力市場とは異なり、需給調整市場の応札はユニット単位となっているため、歯抜け約定が生じた際には、リソースが極端な出力変動を繰り返すおそれがある。発電機への負担を避けたい事業者は結局、応札を手控えることが予想される。

この歯抜け約定を予防するためには、卸電力市場と同様に、応札事業者が複数時間を指定してまとめて1つの商品として入札する仕組み(スポット市場におけるブロック商品)を需給調整市場にも導入することが考えられる。

ただし卸電力市場でも問題となっているとおり、ブロック入札では複数時間の1コマでも約定しない場合は当該入札全量が不落となる。これは約定量の減少や約定価格の上昇を招くおそれがある。

また入札単位を30分に短縮するためには、需給調整市場システム(MMS)の改修が必要になると考えられる。送配電事業者では中給システムや精算システム、広域機関や発電事業者等(バランシンググループ:BG)の業務システムの改修が必要となる。

MMSでは複数のシステム開発案件が輻輳しているため、運用開始は2024年度となる可能性が示されている。

下げ代不足への対応

太陽光出力が大きく、残余需要が少ない時間帯において、一部の発電BGでは下げ代不足を理由として、バランス停止機を三次②に応札することを見送るケースが発生している。

需給調整市場検討小委員会では、このような下げ代不足に対して2つの市場ルール変更案を示している。

方法1:
送配電事業者によるユニット並解列
発電BGバランスでは停止予定のユニットが落札した場合、BGバランスに組み込まず、電源Ⅱ契約を活用し運転をおこない、最低出力分は実需給の当日に送配電事業者が有する調整力の出力を抑制することで対応。
方法2:
需給当日のユニット解列
発電BGバランスでは停止予定のユニットが落札した場合、BGバランスに組み込んだうえで、実需給当日において、BGバランスで余剰インバランスが見込まれ、かつエリアの上げ代は十分に存在していることを条件に、落札ユニットの解列を許容。

方法2については応札量の増加期待値は少ないものの、送配電事業者と発電BG間の協議により対応可能な方法と考えられるため、恒久的対策として取り入れることが提案されている。

応動時間(45分)の見直し

応動時間とは、一般送配電事業者(以下、一送)が指令を発信してからリソースが指令値に到達するまでの時間である。現在、指令の発信はGC(ゲートクローズ=実需給の1時間前)以降におこなわれている。

三次②では簡易指令システム等を考慮して、一送による発動判断およびシステム操作時間として15分程度要することを踏まえ、表1のとおり応動時間は45分以内と決定された。

図3.三次② 応動時間の見直し

出所:需給調整市場検討小委員会

しかしながら現状では、需給調整市場取引の大半を占めている既存電源は専用線で接続されており、かつ電源Ⅱ契約を締結していることからGC直後の指令発信が可能となっている。

このため三次②の応動時間を60分に変更する(延ばす)ことが提案された。この変更により、三次②応札量の増加が見込まれる。

なお応動時間の変更は、簡易指令システムで接続しているリソースも対象である。これらリソースに対しては、GC前のメリットオーダー情報に基づき発動判断をおこなう必要があり、システム改修も伴うことから、これらの対応については継続検討という位置付けである。

複合約定ロジックの評価

需給調整市場では、「不等時性」を考慮した調整力の複合約定が検討されてきた。

不等時性とは最大値は同時に発生しないという考え方であり、これを前提とする場合は調達量合計を低減することができる。

図4.不等時性を考慮した調達量低減のイメージ

出所:需給調整市場検討小委員会

週間商品である一次調整力から三次調整力①(以下、3次①)については、商品ごとの必要量の最大値となる時点は同時に発生するものではないと考えられるため、単一のリソースで複数商品への入札が可能な場合はそれを許容することとしている。

需給調整市場検討小委員会の第25回会合では、複合約定による調整力必要量の低減効果について試算している(2020年度実績を基に試算)。

複合約定をおこなわない場合、一次~三次①の必要量を単純に合計すると11~16%程度、9エリア平均では13%に上るのに対して、複合約定をおこなう場合には調達量を4割程度低減できる試算結果となった。

調整力の調達量を低減することは、調達コストの低減につながるものと考えられる。

表2.一次~三次①の必要量(年間平均) 各エリアH3(*)需要比率

 北海道東北東京中部北陸関西中国四国九州9エリア平均
三次① (A)7.97.05.25.15.55.46.05.97.06.1
二次② (B)3.42.92.52.32.31.52.93.32.72.6
二次① (C)2.42.21.72.02.01.82.41.92.22.1
一次 (D)2.22.31.82.02.42.02.91.92.22.2
合計 (E)
(=A+B+C+D)
15.914.411.211.412.010.714.113.014.113.0
複合約定 (F)9.38.66.36.46.26.38.38.18.67.6
定減量 (G)
(=E-F)
6.55.84.85.05.94.45.85.05.55.4

出所:需給調整市場検討小委員会 *3日間平均需要の最大値

なお本稿では詳細は割愛するが、残余需要の高い時間帯における複合約定の必要量は、現行の電源Ⅰと同等レベルであることが確認されている。

2022年度からは三次①の取引が開始され、2024年度からは需給調整市場の全商品の取引が開始される予定である。

広域機関では実運用における状況を確認しながら、必要に応じて各調整力の必要量を見直す等の検討をおこなう予定である。

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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