続いて非常に面白い論点として、脱炭素へ移行した場合に、火力発電などに従事する者の雇用が失されるという移行リスクについての問題を提起しつつ、エネルギー基本計画に各候補が何を盛り込む考えかを問う質問が投げかけられた。
この移行リスクについて、明示的に回答をしたのは、再エネも地産地消であり、その観点で雇用を生むと答えた河野氏のみ。他の候補は、岸田氏が安定供給、コストといった論点を再度提起しながら、現実的なところを政治は見なくてはならないとして行き過ぎる脱炭素への警戒感を示した他、高市氏も総論再エネは重要であると建前を述べつつ、米テキサス州に大寒波が襲来した際、再エネの供給量が下がったことを引き合いに出し、電力の安定供給の重要性を再強調、さらに太陽光パネルの処分・廃棄問題にも言及するなど、その実、脱炭素推進派ではないことが、こちらもうかがえる格好となった。
また高市氏がここでも次世代原子炉や核融合について言及し、エネルギー基本計画にもそれらの論点をより盛り込む考えを示したのは、首相就任後に現行の同計画素案に手を入れる意向を示したという点で、注目すべき言動でもあった。
なお、野田氏は高市氏に続けて安定供給の重要性に言及しつつ、エネルギー基本計画に入りうるメニューを列挙したにとどまり、若干、主体性を欠いた格好となった。
また、ビジネスセクターに関する論点も提起された。
各企業の自助努力だけではカーボンニュートラルの達成は難しいと考えられる中、どのような政策支援がありうるかという内容のもので、目下、国際的に脱炭素が進展し、ESG投資も潮流となる一方で、取組み推進が難しいビジネスセクターの悩みを代弁する非常に良い質問であったが、結論から言えば、各候補とも、大枠企業支援は大事であると繰り返す一方で、今一つ、この論点については具体性を欠いた。
岸田氏が具体論として挙げたのは、技術革新などの後押しとグリーンボンドなどの市場を整備することで資金的後押しを行うという2点と特段真新しさはなく、また高市氏もカーボンプライシングは経済が厳しい中で現実的ではないとしつつ、税体系の見直しでインセンティブ作りが考えられないかという構想の紹介にとどまり、野田氏は世界がカーボンニュートラルでビジネスを起こしていこうという空気がある中、日本企業が市場で有利になるようやっていくべきという説明のみであった。
質問者の論点がこれからの経済対策を考える上で重要な論点であっただけに、これら3候補の回答からは、ビジネスセクターが置かれている、ないしはこれから直面するであろう脱炭素を巡る厳しい状況について、そこまで理解が至っていないようにも映る回答ぶりであった。
また、ESG文脈やグローバルサプライチェーンでのプレッシャーにさらされているグローバル企業からしてみれば、非常に関心のあった話題であっただけに、それら企業からすると、肩透かしを食らう回答内容だったのではないだろうか。
一方、この分野に造詣が深い河野氏は、Apple社を例に出し、グローバルサプライチェーンにおける企業の脱炭素・再エネ調達の取組み推進の重要性が増していることなどに言及。他の候補との認識の違いこそ垣間見せたものの、具体策の提示については、持ち時間が少なかったこともあってか、設備投資減税やコストの高い初期投資への支援などの言及にとどまった。
結果、この論点については、質問の質の高さに比して、各候補ともに回答の具体性を欠くという先ほど述べた展開になったわけである。
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