CO2排出係数の高い日本でも流行るか オフセットによる太陽光設備を導入で化石燃料依存率の高い地域を脱炭素化するアメリカのスタートアップ企業 | EnergyShift

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CO2排出係数の高い日本でも流行るか オフセットによる太陽光設備を導入で化石燃料依存率の高い地域を脱炭素化するアメリカのスタートアップ企業

CO2排出係数の高い日本でも流行るか オフセットによる太陽光設備を導入で化石燃料依存率の高い地域を脱炭素化するアメリカのスタートアップ企業

2021/10/11

日本は脱炭素が課題で、CO2排出係数の高さは、いずれ日本の産業界全体にコストとしてのしかかるだろう。こうした排出係数の高さを、ビジネスに活用する、「逆転の発想」で脱炭素を進める話題のスタートアップが米国にいる。舞台は米国の中でも化石燃料に恵まれ、再異性可能エネルギー導入が課題となっている南東部。テネシー州のスタートアップClearloopは、カーボンオフセットで太陽光発電所の資金調達を行い、系統の脱炭素化を図っている。火力発電所が多いからこそ、再エネ導入によるCO2削減量が大きくなる。いずれ、日本でもこの手のビジネスが出てくるであろう。

米国の再エネ導入は『パッチワーク状態』

「米国は再生可能エネルギーの導入が進んでいる」と考えるのは少し性急だ。というのも、再生可能エネルギーの導入具合は州によって違うからだ。2018年に自然エネルギー財団が発行した「自然エネルギー最前線 in U.S.」は、この状況を『パッチワーク状態』と表現した。

カリフォルニアを始めとする太平洋沿岸ではかなり進んでいるが、フロリダを含む南東部などでは必ずしもそうではない。米国南東部は石炭や天然ガスなどの化石燃料が豊富であり、石炭産業などの従事者も多いことから、化石燃料依存度が高い。その結果、太陽光発電に適している土地があるにも関わらず、再生可能エネルギーの導入などエネルギーシフトがなかなか進んでいないのが現状だ。最近でこそ、石炭火力は減少しているが、それもより安価な天然ガス火力にとってかわっているというレベルである。

カーボンオフセットで設備投資する逆転の発想

このように再生可能エネルギーの導入拡大が急がれる米国南東部で、画期的に太陽光発電の普及を進めているスタートアップがある。テネシー州ナッシュビルを拠点とするClearloopだ。

同社のビジネスモデルは、排出削減に取り組む企業に太陽光発電所の建設費を募り、環境価値でリターンするというもの。カーボンオフセットと引き換えに再生可能エネルギー設備の投資を行うという、いわば逆張りの発想だ。

企業からの資金調達は、具体的には、Measure(測定)・Reclaim(回収)・Track(追跡)という3つのプロセスからなる。

まず、企業がオフセットしたいCO2排出量を測定・算出するのだが、このときClearloopがグリッド(電力系統)のカーボンフットプリントをもとに計算しているということがミソだ。というのも、後述するように、地域ごとに運転されている発電所が異なるため、同じ1kWhの電気であっても、CO2排出量は異なっているからだ。

次に、その削減量をオフセットできる発電所の立地や容量を選定する。同社は化石燃料による電源が多いグリッドの方がより多くのCO2を削減できるとアピールし、企業の脱炭素投資を南東部に導く。

発電所が運用を開始すると、発電された電気の環境価値は、カーボンオフセットやREC(Renewable Energy Certificate)という証書として投資企業が受け取る。そして、受け取った企業は、製品を環境に配慮したものとして消費者に提供することができる。

一方、発電された電気は、WattTimeというカリフォルニア大学発の非営利組織のテクノロジーによってリアルタイムで追跡され、属性が証明できるようになっている。

WattTimeは系統の排出原単位をエリアごとに開示していて、ウェブサイトでは、郵便番号を入力するとその地域の系統の排出原単位が表示される。筆者が確認したところでは、カリフォルニア州オークランドが50に対し、テネシー州ナッシュビルは74だった(2021年10月1日現在)。

再生可能エネルギーの「追加性」と気候正義

同社は南東部の系統全体のカーボンフットプリントを減らすことをミッションとしている。そこで重視しているのは再生可能エネルギーの「追加性」だ。太陽光発電設備を新設することで再生可能エネルギーを系統に追加し、トラッキングによって透明性も担保する。

同時に、南東部の人々が再生可能エネルギーにアクセスする機会を増やしている。南東部のエリアに再生可能エネルギーが増えていけば、価格も下がっていく。クリーンなエネルギーを誰もが平等に手の届くものにするという意味で、気候正義にも貢献すると評価されている。

中小企業や個人も参加した1MWの初案件

Clearloopのビジネスモデルは中小企業も参加しやすいようにアレンジされていて、企業の出資金には最低額などの縛りが設けられていない。そのため、大小さまざまな企業だけでなく、歌手や小説家も出資している。テネシー州ジャクソンで計画されている1MWの太陽光発電所については、2021年8月末に資金の調達を終了させており、9月に着工、2022年7月1日までには、運転を開始する計画だ。1MWの太陽光発電所は、米国では大きいとはいえない。200世帯が使う電気の量に相当する規模だ。それでも、最初の1歩を踏み出したことになる。

社名にはloopという言葉が含まれている。それは、太陽光発電に出資した企業が、顧客にさらなる出資をよびかけ、太陽光発電をさらに増やしていく、そのような形でプロジェクトを循環させていこうという想いが込められている。最初の小さな発電所は、出資者はもちろん、立地エリアにとっても雇用を含めたプラスの影響をもたらすインパクトは大きいのではないかと思う。

日本では、カーボンニュートラルが標榜されるようになってきたが、依然として脱炭素転換の動きは鈍い。そうこうしているうちに国境炭素調整措置などや、ESG投資の波の中での日本企業への投融資の回避などの影響が出てくるだろう。そのときに、米国南東部で操業する企業と同じように、オフセットを求める企業は増えてくる。そのような状況が、Clearloop型モデルの活躍の場となるだろう。

しかも、Clearloopのビジネスモデルは、多くの人を事業の当事者にする。脱炭素意識の向上、行動変容。いずれも日本に足りない視点であるが、そうした視点からも、注目される事業だといえるのではないだろうか。

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780