宮崎県延岡市にみる「完全」自治体新電力の在り方 | EnergyShift

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宮崎県延岡市にみる「完全」自治体新電力の在り方

宮崎県延岡市にみる「完全」自治体新電力の在り方

2021/06/02

現在、50社を超える自治体新電力が設立され、事業を展開しており、今後も新たに事業を考えている自治体もある。前回は、これらの事業が抱える課題について検討した。課題解決の1つのあり方として、今回は宮崎県延岡市における自治体新電力の事業計画について、エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏が検討する。

これからの地域エネルギー事業のヒント13

延岡市の地域新電力事業構想

今回は宮崎県延岡市で構想されている地域新電力事業を取り上げる。これは「自治体(延岡市)の出資比率100%、資本金6,000万円」という、全国でも稀な「完全自治体新電力」構想である。

この構想は、新電力の設立を九州電力が妨害したと延岡市が国に訴え、本年3月下旬に電力・ガス取引監視等委員会が九州電力に対し、「法令違反には該当しないものの、慎重さに欠ける行為があった」として業務改善指導を行ったことで世に知れた。

当事業構想は、2018年2月に就任した読谷山洋司(よみやまようじ)延岡市長肝いりの案件であり、電気料金を地域に留めて還流させて電気料金を引き下げることにより市民や地元事業者の「実質的な可処分所得」を増やすことや、事業収益により市の新たな財源を確保することを主目的としている。市は3年間検討し、本年2月には「延岡市地域新電力会社創業事業計画」という詳細な計画書を公表し、議会や市民等にも説明を重ねてきた。

この事業計画が監視等委員会からの指導問題にまで発展したきっかけは、2020年秋に発覚した「容量拠出金負担問題」にある。

報道によると、この負担に関して延岡市は、「容量拠出金の負担の影響を受けることはわかっているが、将来的な容量価格の動向や卸価格への影響が現段階では具体的に想定できないため、敢えて影響を計画に織り込まない」としていたが、これに対して九州電力は容量市場創設による小売事業者の負担増を根拠に「新会社は赤字になる」などと市の有力者に説明して回っていたとのこと。

これに対し、延岡市は「電力システム改革に真っ向から反する妨害行為で、地方自治を侵害する行為」として抗議するとともに、経済産業省に調査を依頼していた。その結末が九州電力への業務改善指導だった。

一方、肝心の設立計画は、容量拠出金や電源確保策等を「現時点で具体的に想定することはできない」として収支見込みに織り込まない市の姿勢に市議会での反発が相次ぎ、新電力会社設立関連予算が新年度の補正予算案から削除されたことで、事実上「否決」に追い込まれた


九州電力本社

延岡市地域新電力会社創業事業計画の特徴

設立を巡る経緯の中にも、容量市場問題が象徴するような「自由化時代における地域新電力のリスク」が垣間見られるが、今回、筆者が注目するのはここではなく、延岡市が「100%自治体新電力」として目指した事業内容の特異性である。それを「延岡市地域新電力会社創業事業計画」から読み取る。

1.事業利益は全て市に寄付する

特異性の第1は「事業目的と事業の非営利性」である。延岡市は県内でも高齢化率が高く、社会保障費が増えることが予想される。そのような中で、市自らが電力小売事業を行って市独自の財源を確保し、それを市民サービスや行政施策の充実に充てるとともに、家庭や中小事業者等の電気代を引き下げて「実質的な可処分所得向上」につなげるという「2つ」を、事業の主目的としている。

ゆえに同計画では、前者と後者のバランスを図った上で、「会社の資金繰り上必要な額等を除いた額を、全て市に寄附する」としている。

2.エネルギーの地産地消を優先しない

特異性の第2は「エネルギーの地産地消を優先しない」ことである。同計画では「市の清掃工場の電源や家庭の卒FIT電源をはじめとする再生可能エネルギーによる電源調達は、新会社の事業経営が安定した段階で行う」としている。つまり、自治体新電力の王道たる「エネルギーの地産地消」に向かわないわけではないが、そこから入らないのである。

その理由として、同計画では「再生可能エネルギー等による環境負荷の少ない電源の調達については、バランシンググループを通じて調達する電源と比べて量が少ないうえに、調達や需給管理に係るコストが割高となるため、一定の事業規模と収益を確保した後、市民からの環境価値を求める声に応じて調達率を高め、段階を経ながら市域から排出される温室効果ガスの排出量の削減を目指す」としている。

3.低圧小口需要家を主ターゲットとし、公的施設を優先しない

特異性の第3は「事業目的に適った事業ターゲットの設定」である。一般に自治体新電力の供給先は公的施設から始まり、民間高圧、民間低圧の順に広がるが、同計画では事業エリアを延岡市内、主たる顧客を家庭や中小事業者等の低圧小口需要家とし、公共施設への電力供給を行うとしても必ずしもそれを中心とはしない事業構造を目指すとしている。

その理由として、同計画では「公共施設向けの供給については、延岡市が設立する地域新電力会社の設立目的が、電気代を引き下げることによる市民や地元中小事業者の「実質的な可処分所得」の向上にあり、また会社の事業運営体制についても経営管理者、営業担当者、事務担当者とパート社員の4名体制であることから、まずは家庭と中小事業者を中心に顧客獲得を行い、その基本的な形を確立させながら、公共施設への供給についても順次取り組んでいく」としている。前回の本稿で示した「地域(自治体)新電力事業の発展形態」の全く真逆からの取り組みだが、事業目的との整合はとれている。

4. 「草の根的広がり」を意識した料金プランと営業体制

特異性の第4は「料金プランの工夫」である。同計画では下表のようなプランが検討されている。

表1.想定する料金プラン

プラン想定想定条件(旧一般電気事業者料金比)
①市内一般家庭向けプラン従量電灯B▲5.5%
②未就学児世帯応援プラン従量電灯B(① のプランの基本料金▲20%により)▲7.0%
③公民館応援プラン従量電灯B(① のプランの基本料金▲20%により)▲6.0%
④市内事業者向けプラン1従量電灯C▲10.0%
⑤市内事業者向けプラン2従量電灯C
低圧電力
基本料金▲10%とした上で、▲5.0%

このうち②と③は自治体ならではのプランであり、とりわけ③は公民館の冷暖房費を軽減することで間接的に利用者メリットを創出するユニークなものである。

また同計画では、市内に384ある自治会に毎年3,000円の寄附をすることと、整備する営業パートナー制度の中で、営業を行う意思のある市内の自治会も営業パートナー(代理店)とすることを目論んでいる。

「自治会が代理店業務を行う場合、税の申告が必要かどうか」といった具体的な論点まで視野に入れているようであり、自治会パートナー構想の真剣度がうかがい知れる。さらに機が熟して、下図のとおり既に一定の顧客を持つ事業所などから営業パートナーが加われば、文字どおり「草の根営業体制」の実現となる。

事業コンセプトイメージ

「延岡市地域新電力会社創業事業計画書」は一見の価値あり

上記のような計画内容もさることながら、それを示した創業事業計画書は、地域新電力関係者にとって一見の価値があると考える。なぜなら、地域新電力事業を計画するにあたって必要な検討項目が網羅され、しかも「オールオープン」にされているため、さながら「地域新電力事業設立手引き書」のようだからである。

同計画は、6,000万円という高額な市の予算を使う事業であるため、市議会や住民など全てのステークホルダーに対して徹底した理解を促す必要がある。ゆえに計画書では、事業の背景にある電力事業制度や自由化動向、新電力動向についても解説し、直接的な事業内容についても、民間であれば競争上の秘密にすべきことも含めて、各検討過程をできるだけ詳細に開示している。

そして、この計画書を見た地域新電力関係者は、恐らく、事業者たる市の確固たる意志や事業の手堅さ、市民誘導の可能性等を感じて、「結構、いけるのでは」と思うのではないだろうか。実際、説明を受けた住民の意見(※)を見ると、「これは市民と市のためになる事業である」という認識に至る人も多く、「地域ぐるみ」、すなわち「うまくいけば、延岡市の新電力への顧客のドミノ倒しが起こる」可能性も感じられる。

※「延岡市地域新電力会社創業事業計画」(案)に関する意見募集一覧及び回答

であるのになぜ、まだ成功していないのだろうか

真偽は不明だが、推測するに、いくら事業計画が透明であっても、たとえば容量拠出金のような事業リスクは読み切れない。民間であればリスクの存在を確認するだけで済むことも市の公的事業となれば「許容されにくい」ので、「ここが不透明である」と注文はいくらでも付けられるし、付けられた側もそれに対する明確な回答ができるとは限らない。

残念ながら、注文を付ける側のパワーが勝ったということだろう(ちなみに「電源調達」、「容量市場制度の影響」、「顧客獲得の見込み」、「人材の確保」、「事業の推進体制」、「将来的な事業の検証の必要性」などが課題とされた)。自治体出資がわずかであり、民間主体で進められる自治体新電力事業では起こらないことである。

最後に、もう一つ、指摘しておくべきことがある。それはいくら自治体が運営するといえども、新電力事業は「自由競争下で、競争相手から顧客をスイッチする事業」であるということである。

延岡市の主たる競争者は九州電力であり、市の事業が「地域ぐるみの成功」を収めるほど九州電力は小売顧客を喪失する。だから一般論で考えれば、公益的な事業であっても九州電力にとってはライバル案件である。

冒頭のトラブルはそのような関係にある九州電力の「勇み足」だったわけだが、この利害関係は、地域脱炭素の“錦の御旗”の下で、地域ぐるみで新電力事業を行う場合にも当てはまる。「地域脱炭素」だけをピュアに考えられないのである。

角田憲司
角田憲司

エネルギー事業コンサルタント・中小企業診断士 1978年東京ガスに入社し、家庭用営業・マーケティング部門、熱量変更部門、卸営業部門等に従事。2011年千葉ガス社長、2016年日本ガス協会地方支援担当理事を経て、2020年4月よりフリーとなり、都市ガス・LPガス業界に向けた各種情報の発信やセミナー講師、個社コンサルティング等を行っている。愛知県出身。

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