系統全域が停電したらどうやって発電を回復させる? ブラックスタート電源の追加確保へ:第56回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」 | EnergyShift

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系統全域が停電したらどうやって発電を回復させる? ブラックスタート電源の追加確保へ:第56回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」

系統全域が停電したらどうやって発電を回復させる? ブラックスタート電源の追加確保へ:第56回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」

2021年01月13日

発電設備は起動させるために、外部電源が必要だ。電源がすべて脱落してしまう(系統全域が停電してしまう)と、"電源不要で起動できる" 電源がなければ、停電を解消できない。電力系統内には、外部電源がなくても発電できる電源=ブラックスタート電源が欠かせないのはこのためだ。電力広域的運営推進機関の第56回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」では、このブラックスタート電源について議論された。

ブラックスタート電源とは何か

電力業界の読者であれば、2018年北海道胆振東部地震により日本初のブラックアウト(系統全域停電)が発生したことは記憶に新しいだろう。このとき、ブラックアウト状態から電気の復旧に用いられたのが、ブラックスタート電源である。

「ブラックスタート」とは、ブラックアウトの状態から、外部電源より発電された電気を受電することなく、停電解消のための発電を開始することをいう。このブラックスタート機能を提供する電源をブラックスタート電源という。

通常の火力発電等の発電機を停止状態から起動させるには、まず所内機器(通風機、ポンプ、微粉炭機等)といった補機へ電力を供給することが必要である。このため発電所周囲の電力系統が停電しているときには、当該発電機自体が起動できない。

よって万一のブラックアウトに備えて、各エリアの一般送配電事業者は一定量のブラックスタート機能を確保しておく必要がある。

現在、電力広域的運営推進機関の「電力レジリエンス等に関する小委員会」においてブラックスタート機能の適正な確保量について検討が進められているが、当面は現状と同様の必要量で実施すると整理されていた。ところが今回、第56回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」において、一部の送配電事業者からブラックスタート機能を増設したいとの申し出があった。

まずは、現状のブラックスタート機能の調達状況から確認しておこう。

ブラックスタート機能(ブラックスタート電源)調達の現状

現在ブラックスタート電源は一般送配電事業者により、電源Ⅰや電源Ⅱ等の調整力公募を通じて翌年度に向けて調達されている。2024年度以降は、ブラックスタート電源を含めた電源のkW価値は容量市場で取引されることになるため、容量市場における容量調達時期(実需給の4年前)と同年度に、年間公募により調達される(2020年調達・2024年度運用)。

2020年度に実施された2024年度向けのブラックスタート機能公募結果は表1のとおりである。「特定地域の停電対応の機能(ローカル対応)」とは、1回線送電線により供給する地域等を対象に、流通設備の事故による停電の長期化を回避すること等に活用される電源である。

括弧内の数値は応札数であるが、落札した電源はすべて旧一般電気事業者の電源であったことが報告されている。現状、ブラックスタート機能を有する電源は限られており、今後も競争は限定的であることが想定されるため、一定の市場監視が必要と考えられている。

表1.2024年度向けのブラックスタート機能公募結果 落札数(括弧内は応札数)

2024年度向けのBS機能公募結果 落札数
出所:第52回制度設計専門会合

落札したブラックスタート電源の発電種別は表2のとおりであり、ほぼすべてが水力発電である。落札平均価格は32億円/件であり、電源の大きさは非公開であるが最高価格は177億円/件であった。

表2.ブラックスタート電源の発電種別

ブラックスタート電源の発電種別
出所:第52回制度設計専門会合

ブラックスタート公募への入札価格は図1のように、固定費相当額から需給調整市場や卸電力市場等の他の市場から得られる期待利潤を控除した額とすることが求められている。

さらにブラックスタート機能公募と容量市場でのkW価値の二重取り(二重支払い)を防止するため、容量市場から当該電源に支払われる対価に相当する金額をブラックスタート機能公募の支払額から控除する仕組みとされている。

この算定の仕組みに基づけば、ブラックスタート電源の年間費用<期待利潤となる場合は0円で入札することが適切であり、実際にそのように入札されたことが電力・ガス取引監視等委員会により確認されている。ブラックスタート電源から見れば必要費用の回収不足となることもなく、過剰な利益となることもない、フェアな仕組みであると言える。

図1.ブラックスタート機能公募 入札価格の考え方

ブラックスタート機能公募 入札価格の考え方
出所:第42回制度設計専門会合

なおブラックスタート機能の公募時期の考え方としては、もしブラックスタート機能の公募を容量市場の契約後におこなうと、容量市場オークションで落札できなかった電源であってもブラックスタート電源として調達せざるを得なくなり、kW価値を過大に調達する可能性がある。他方、公募時期が早すぎると電源の活用に制約が発生する可能性もあることから、同時期(2020年は4~5月)とされている。

ブラックアウト(系統全域停電)からの系統復旧

万一、ブラックアウトが発生した場合、ブラックアウトからの復旧は以下のような手順でおこなわれる。

  1. ブラックスタート機能を有する電源を起動する。
  2. 他の火力や原子力の所内負荷へ送電し、火力・原子力の早期の運転再開を図る。
  3. 火力や原子力の運転再開に応じて、一般負荷に送電する。

2018年にブラックアウトが発生した北海道は他エリアと(直流連系であるため)同期していないが、沖縄を除く8エリアは複数の隣接エリアと交流連系により同期している。このため広域機関と一般送配電事業者の間で、同期エリア全域がブラックアウトした場合等について、隣接エリアとの系統並列タイミングや系統並列時の具体的運用・連絡体制について明確化している。

各一般送配電事業者において、ブラックアウトからの停電復旧に必要な供給力を確保できる見込みの時間を試算した結果、設備被害やトラブルがなく、復旧操作等が想定通り実施されることを前提とした理想的な復旧がおこなわれた場合、概ね2日間以内に完了する見込みとされた。

図2では北海道は約24時間と想定されているが、北海道胆振東部地震の際には設備被害等も発生したこと等もあり、約50時間後に99%の停電を解消することが出来た。

図2.停電復旧に必要な供給力が確保できるまでの見込み時間

停電復旧に必要な供給力が確保できるまでの見込み時間
出所:第56回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会

また図2では東京エリアの理想的復旧時間は2日(48時間)と見込まれているが、首都中枢の停電が48時間も継続してよいのか、という指摘がある。よって以下のとおり東京電力パワーグリッド(東電PG)は、ブラックアウトからの復旧時間短縮策について検討をおこない、第56回調整力委員会において、ブラックスタート電源の増設を提案してきた。

東電PGによるブラックスタート電源増設の提案

現時点、東電PGが調達しているブラックスタート電源(表1の4件)はすべて揚水発電であることが報告されている。これら4電源はすべて関東外縁の山側に立地していることが、距離の離れた首都中枢負荷の停電復旧に長時間を要する理由とされている。

山側のブラックスタート電源から送電開始して、山側から徐々に系統復旧の拡大を進め、火力発電所を少しずつ立ち上げながら首都中枢負荷に電力供給する手順となるが、早期に立ち上げるべき火力発電所の多くが、山から遠く離れた東京湾岸に立地していることが一因である。

この課題に対する復旧時間短縮策が、首都中枢に近い火力発電所密集地帯(図3の赤丸エリア)における、火力ブラックスタート機の新たな確保である。図3の青い矢印が現在確保されている揚水発電によるブラックスタート電源4件であり、これに加え、臨海部(東京湾東岸、西岸、太平洋沿岸)に3件の火力ブラックスタート機を確保する提案である。

図3.関東地方の既存ブラックスタート電源と、新規確保計画

関東地方の既存ブラックスタート電源と、新規確保計画
出所:東電PG

この対策により、2つの効果が期待される。

効果1. 火力ブラックスタート機から直接、首都中枢負荷へ送電することにより、首都中枢の復旧時間が大きく短縮できる。

効果2.臨海部に確保した火力ブラックスタート機から他の火力発電所へ早期送電することが可能となり、火力全体の立ち上げが短縮できる。

新たに火力ブラックスタート機を3台確保した場合の停電復旧時間の試算結果は図4のとおりである。これも、送電線や他の火力発電所等の設備被害が無いという想定に基づいた試算である。なお、火力ブラックスタート機を3台確保した場合でも、現状の揚水4台を維持確保することが復旧時間短縮上、不可欠であると試算されている。

図4.火力ブラックスタート機を3台確保した場合の停電復旧時間試算

火力ブラックスタート機3台確保した場合の停電復旧時間試算
出所:東電PG

ブラックスタート電源は負荷追従機能を持つことが必須であるため、新たに確保する火力ブラックスタート電源として東電PGでは、シンプルサイクルガスタービン(SCGT)を想定している。SCGTは燃焼ガスで直接タービンを回すため、立ち上がりが早いという特徴がある。

既設の発電所を改造対応する可能性も残されているが、発電規模35万kW程度(×3ヶ所)の電源を新設もしくはリプレースすることが想定されている。

もちろん、送配電事業者である東電PG自身が新設するのではなく、発電事業者に新設してもらい、それを公募調達する形態が原則となる。

ただし、現行の単年公募形式では年度によって公募落選により投資回収漏れのリスクがあることや、環境アセスに通常4年程度かかりブラックスタート機能提供開始時期(公募落札の4年後)までにブラックスタート機設置が間に合わない、という懸念が発電事業者から示されている。

このため、複数年公募や送配電事業者による保有の可否、環境アセスへの柔軟な対応などについて、検討がおこなわれる予定である。

四国送配電によるブラックスタート電源増設の提案

四国電力送配電の現在のブラックスタート電源確保は揚水発電が1件のみであるため、これが作業停止等する場合にはブラックスタート機能を喪失することとなる。このため、ブラックスタート電源をもう1件追加することを第56回調整力委員会で提案し、認められた。

既設電源(おそらく水力)を追加する予定であることから、2021年度から確保可能となる見込みである。

ブラックスタート電源追加による別方面への影響

仮に東電PGの提案どおり、35万kW・3基の火力電源が新設されるならば、これらは卸電力市場や需給調整市場でも活用されることとなる。また、供給力としても評価されることから、容量市場への応札量が100万kW程度増加すると期待される(他の電源の追加的廃止が無いという前提)。

容量市場に関する別記事「需要曲線の形状が容量単価や支払総額に与える影響の試算」でも述べたとおり、需要曲線の目標調達量と上限価格調達量の差はわずか94万kWであることから、100万kWを加えることで約定価格は指標価格9,425円に落ち着く可能性もある。

非同期・変動型再エネ電源の大量導入が進む中、ブラックアウトからの復旧の在り方、それぞれの電源や需要リソースが果たすべき役割・具備すべき機能など、根本から見直すべき時期に来ているのではないだろうか。

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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