地域のエネルギー企業が目指す、「中央集権」に頼らない地方創生とは 小田原ガス/湘南電力 原正樹 代表取締役社長インタビュー | EnergyShift編集部

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地域のエネルギー企業が目指す、「中央集権」に頼らない地方創生とは 小田原ガス/湘南電力 原正樹 代表取締役社長インタビュー

地域のエネルギー企業が目指す、「中央集権」に頼らない地方創生とは 小田原ガス/湘南電力 原正樹 代表取締役社長インタビュー

EnergyShift編集部
2020/10/21
ブックマーク
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神奈川県小田原市にある、1913年創業の都市ガス事業者である小田原ガスは、電力・ガス自由化による大きな事業転換にあたって、地域の電力会社である湘南電力の経営にも参画し、地域に根差したエネルギーの地産地消にも取り組んでいる。“オール小田原”として取り組みを進めるにあたっての想いを、小田原ガス代表取締役社長であり湘南電力代表取締役社長も兼ねる原正樹氏におうかがいした。

東日本大震災が投げかけた、中央集権型社会への疑問

―最初に、小田原ガスにおいて、電力・ガス自由化にどのように取り組まれたのか、その点からお話しください。

原正樹氏:電力・ガス自由化を迎えるにあたって、最初に行ったのは「Vision2020『温故創新』」という理念を策定することと、社内体制の見直しでした。市場競争に打ち勝つため、指揮系統を迅速化し、営業部門は地域担当制に、また、くらしサポートチームもあらたにつくりました。

また、電気事業については、最初に東京ガスの取次店として参入しましたし、NTTの回線による小田原ガス光という通信サービスや、家電販売、見守りサービスなど、ガス事業にとどまらない展開をしてきました。それまでのFace to Faceという都市ガス事業の優位性を高め、お客様からは“ガス屋さん”ではなく“小田原ガスさん”と呼んでもらえるような会社を目指しました。

結果として、顧客を他社に奪われるということは、今のところほとんどありません。

小田原ガス代表取締役社長/湘南電力代表取締役社長 原正樹氏

―地域の事業者として、地元の人々に強く認識されているのではないかと思います。そういった事業展開をする中で、湘南電力の社長にも就任され、地域新電力の経営にも取り組まれています。きっかけは何だったのでしょうか?

原氏:先に、小田原が再エネに先進的に取り組んだ地域であるということからお話しします。

きっかけは東日本大震災の東京電力福島第一原子力発電所の事故でした。因果関係はわかりませんが、地元名産の足柄茶から微量のセシウムが検出されたことや風評被害などもあって、箱根の観光客が激減してしまいました。小田原は観光と食で支えられているので、飲食業や旅館業など多くの産業が大きな打撃を受けてしまったのです。

このとき、私だけではなく、多くの小田原の方々が、遠く250kmも離れた場所の事故が自分たちに与える影響の大きさを肌で感じましたね。これまで我々が頼ってきた中央集権的なエネルギーのあり方に疑問を持ちました。この危機感を“オール小田原”として共有したことが、その後の原動力になったと思います。

また、小田原市が環境省の「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」に採択されたのが、ちょうど2011年でした。小田原市が事務局となって民間企業を集めて検討会を開いたのです。中心となったのが、かまぼこで有名な鈴廣の鈴木博晶社長でした。また、そこに私も参加し、一緒に検討してきました。この検討の結果、自立分散型のエネルギーシステムを目指すには、まず地域からお金を募って発電会社を作ろうということになりました。地元のインフラ企業、タクシー会社、不動産、金融など垣根を超えてさまざまなメンバーに賛同いただき、当時24社から3,400万円がガツンと集まりました(その後増資し、2020年現在37社、5,800万円)。

こうして誕生したのが、地域の発電会社「ほうとくエネルギー株式会社」です。東日本大震災から1年半後の、2012年12月に設立されました。第一期で1MW、第二期で0.7MWと合計で1.7MWのメガソーラーを建設し、地産地消の“地産”の部分を担っています。これらの電気は現在、湘南電力を通じて地元に供給しています。

小田原メガソーラー市民発電所(第1期) ほうとくエネルギー株式会社ウェブサイトより

地域を応援する電力会社

―地産電源からの立ち上げだったのですね。これに対し、小売りを担う湘南電力はどのような経緯で設立されたのでしょうか。

原氏:実は、湘南電力はもともとエナリスが設立した地域新電力です。地域で発電した電気を中心に供給し、利益の一部を還元することを通じて地元平塚にあるプロサッカーチーム・湘南ベルマーレの活動を支援するという、地域に根差した会社でした。

湘南電力の事業は、我々が思い描いていた地産地消のコンセプトと親和性が高いと思いました。こうした経緯もあり、2017年5月、エナリスから地元企業に株式を譲渡いただきました。それが古川、ほうとくエネルギー、ニッショー、オーワンカンパニー、小田原ガスの5社です。このとき、私が湘南電力の社長に就任させていただき、これを機に湘南電力の事業領域を神奈川県全域としました。

―湘南電力の現在の状況について教えてください。

原氏:現在、低圧を中心に約3,400件のお客様へ電力を供給しています。おかげさまで軒数、販売量ともに堅調です。急激にお客様が増えたことで販売量が伸び、地産電源の割合が低下してしまいましたが、今は、神奈川県企業庁のFIT電源を相対契約するなど調達側を強化しています。2018年度は、電源構成のうち19%が神奈川県内で発電された再生可能エネルギーです。

また「湘南電力の選べる地域応援メニュー」として、電気料金の一部を地域応援の取り組みに還元するプランを拡充しています。湘南電力が供給する「湘南のでんき」の電気料金の1%を、地域の課題解決を目指すさまざまな活動資金に還元します。先ほどの湘南ベルマーレの応援メニューに加え、お祭りやイベントを応援することで地域振興に貢献できるメニューなどを展開しています。9つの使途から応援したい支援先を選べるメニューです。

中でも、子ども食堂を応援する「小田原市応援プラン」は、小田原市の協力をいただいて実現したものです。小田原市内の子ども食堂「お結びころりん」の運営資金として、電気代の1%を寄付させていただきます。各所でPRいただき、現在約500件のお申込みを頂いています。

小田原市応援プラン(お結びころりんコース)概要 湘南電力ウェブサイトより

自立分散型のエネルギーで、地方創生の実現へ

―地方のガス会社が地産地消を目指す意義についてお聞かせください。

原氏:私たちは小田原という地に根差し、1913年から100年以上にわたり地域に支えられてきました。小田原あってこその会社だと思っています。小田原が活力を取り戻さないことには地方を舞台とする我々の成長もない。まさに小田原と一心同体だと考えています。

我々が発展し続けていくためには、やはり持続可能な小田原のまちづくりが欠かせません。持続可能を語る上で、エネルギーという要素は不可欠です。すべての事業活動の基礎となるものですから。そこで、冒頭に述べた東京電力福島第一原子力発電所の事故のような出来事があると、我々の活動が根本から揺らいでしまう訳です。

その意味で、地方のガス会社が地産地消の電力事業を通して、地域経済を循環させることには、地方創生という意義があると考えています。これまでのような中央集権的ではない、自立分散型のエネルギーのあり方は、地方創生を支える土台です。大局的に見れば国が目指す方向性とも合致していると思っています。

―湘南電力と地域経済とのつながりをどのように実現するかについてお伺いします。

原氏:持続可能なまちづくりのためには、分散型のリソースがまだまだ足りないと思っています。そのため、湘南電力は2020年4月から「0円ソーラー」という神奈川県の補助事業に事業者として参加しています。これは神奈川県内の住宅向けに、初期費用ゼロで太陽光発電設備を設置するもので、10年後には無償譲渡されます。湘南電力のユーザーを増やすと同時に、発電リソースを拡充することにも貢献していきます。

太陽光発電は気象条件に左右される変動電源ですから、蓄電リソースも同時に増やしていかなければなりません。2019年9月からは環境省の「脱炭素型地域交通モデル構築の支援事業」に小田原市、REXEVと取り組み、電気自動車(EV)のシェアリングによる地域交通モデルの構築を目指しているところです。EVのような蓄電リソースが増えれば、防災対策など地域のレジリエンスを獲得することにもつながります。

我々の新しい目標である地域の経済循環のためには、地域経済の効率化も重要な要素です。地元企業や行政など、多方面からのステークホルダーが関わりながらまちづくりを行うことで、地域の経済循環を効率化し循環型の社会に近づいていくと考えています。湘南電力もほうとくエネルギーも行政からの出資はありません。自治体とはビジネスパートナーとしてつながりをつくっていきたいと思います。

湘南電力の充電スタンド

ゆくゆくはシュタットベルケのような存在へ

―エネルギーの地産地消に率先して取り組む、小田原の強さとは何でしょうか?

原氏:直面した課題に対して、小田原のみなさんが“自分ごと”として本気で考え、取り組んだことが今につながっていると思います。東日本大震災によってもたらされた危機感を“オール小田原”で共有した結果が、発電会社を立ち上げ、エネルギーの地産地消を成し遂げる一歩となりました。

自分たちで発電した電気を自分たちで使おうという、いわゆる“きれいごと”だけではここまで人は集まらないし、実際に動くことはなかったでしょう。厳しい状況によって、逆に小田原の人々の結び付きが強まり、手を携えて新しいスタートを切ることができました。今は、あのときに立ち上がって本当によかったと思います。

その後、大規模な台風被害も大涌谷の噴火も、みんなで乗り越えてきましたから。こうして困難な問題に立ち向かってきた小田原ですから、今般の新型コロナウイルスの影響も乗り越えていけると信じています。

―最後に、今後の展望についてお聞かせください。

原氏:今後は、小田原ガスと湘南電力のセットメニューもつくりましたし、グループでのシナジー効果を高めていく考えです。ガスと電気という両面から、ご家庭のエネルギーコストを削減できるよりよいプランをご用意しているところです。

小田原ガスは、持続可能なまちづくりに向けて総合エネルギー企業としての新たな一歩を踏み出しました。湘南電力の株主には、社会インフラを担う会社が集まっているので、今後は総合インフラ会社として発展し、ゆくゆくはシュタットベルケのような都市公社的な存在になっていければいいと考えています。

そのひとつとして、今年度は経済産業省「地域の系統線を活用したエネルギー面的利用事業(地域マイクログリッド構築事業)」に参画します。京セラ、A.L.I. Technologies、REXEVが採択を受け、これに小田原市と湘南電力がコンソーシアムとして加わる形ですが、将来的には配電ライセンスの取得も視野に入れ、自立した系統運用を実証していくというものになります。非常時には系統電力と切り離し、地域の太陽光発電や蓄電池などを運用して、レジリエンスを高めていくというものです。

これはインフラ会社として、人の生活と命を預かる会社として取り組む、次の一手です。

(Interview:本橋恵一、前田雄大、Text:山下幸恵、Photo:関野竜吉)

参照

プロフィール


原 正樹 (はら まさき)

小田原ガス代表取締役社長/湘南電力代表取締役社長
1971年生まれ。2014年小田原ガス株式会社代表取締役に就任。2017年湘南電力代表取締役に就任。


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