英国王室の不動産を管理する“The Crown Estate”が、英国の洋上風力に関するレポートをまとめている。英国は北海やアイリッシュ海で洋上風力の開発を進めており、カーボンゼロに向けた切り札となっている。一方、英国においては遠浅の海の一部は王国領となっており、“The Crown Eatate”主導で開発事業者を公募している。レポートは2019年末までの状況をまとめたものだが、そこからは成長が持続する英国洋上風力の姿が浮かび上がる。
島国である英国は、2050年のカーボンゼロ達成を目指し、2030年までに洋上風力発電を40GWとする目標を掲げている。
英国の洋上風力発電に関する政策は、2000年代初頭からその基盤整備が行われてきた。今から20年前になる2001年4月に「Round 1」と呼ばれる開発事業がスタートし、今年(2021年)2月8日には「Round 4」が実施された。
この「Round」を説明する前に、英国ならではの背景を知っておきたい。
英国の洋上風力発電事業には、実は英国王室も関係している。というのも、洋上風力発電の舞台である海洋の大陸棚を英国王室が一部所有しているからだ。
発電所を建設するには、王室の資産を管理する公営企業The Crown Estateから海域をリースしなければならない。イングランド、ウェールズおよび北部諸島周辺の海域はThe Crown Estateが、スコットランド周辺は別組織のCrown Estate Scotlandが管理している。
「Round」とは、発電事業者がこの海域リース権を獲得するためのオークションを指す。スコットランドも含め、2001年から2010年までに5回のRoundが実施された。各回のオークションの概要は下表のとおり。さらに、「Round 4」では、8GWをわずかに下回る規模で6区域が落札された。
Award Date | Capacity | |
Round 1 | April 2001 | 15 projects 1.6GW in total |
Round 2 | December 2003 | 15 projects 7.3GW in total |
Round 1 / 2 Extensions | May 2010 | 4 projects 1.6GW in total |
Scotish Terrotorial Waters | January 2009 | 5 projects 4.8GW in total |
Round 3 | January 2010 | 9 Zones >32GW in total |
出典:Nationalgrid ESO『Round 3 offshore wind farms』
最大規模となった2010年1月のRound 3は、9つの沿岸地域のリース権オークションだった。
32GWは英国のほぼすべての家庭の電力をまかなえる規模で、風力タービン6,400基に相当する。世界最大級の洋上風力発電プロジェクトとされ、当時のゴードン・ブラウン英首相も大いに歓迎した。
Round 3の9つの沿岸地域のうち発電規模がもっとも大きいのが、北東部で水深が浅いDogger Bankエリアだ。
Round 3でこのエリアを落札したのは、Forewindコンソーシアムだった。メンバーは英国大手電力グループのSSE Renewables、ドイツの大手電力RWEグループ(当時はRWE Npower Renewables)、ノルウェーのEquinor(当時はStatoil)と公営水力発電会社のStatkraftで、9GWを獲得した。
Dogger Bank、Round 3の開発状況
出典:Nationalgrid ESO『Round 3 offshore wind farms』
また、Round 4の結果についてはこちらの記事『ドイツの大手電力2社が、イギリスの洋上風力発電に積極的な理由』をご参照いただきたい。
英国の資産管理を行うThe Crown Estateは、洋上風力発電の状況について「Offshore Wind Operational Report」を発行している。
最新のレポート(2019)によると、2019年中に洋上風力で発電された電力量は32TWh、これによって削減されたCO2排出量は13メガトンにのぼる。英国全土の家庭の電力需要の約30%に相当する量だ。
2019年時点で、欧州の洋上風力発電における発電容量は、ドイツやデンマークをおさえ、英国が9,983MWでトップだ。
欧州の洋上風力発電における発電容量
出典:Offshore wind operational report 2019
下の円グラフは、発電所のオーナー別の所有率を示している。これは発電プロジェクトごとの出資比率を集計したものだ。
デンマークの風力発電世界大手のオーステッドが26%と存在感が際立っている。2019年時点では8%で第2位のRWEだが、今年2月のRound 4では猛攻をみせ、6プロジェクト中2件を競り落とした。今後は勢力図にも変化がみられるかもしれない。
発電所のオーナー別の所有率
出典:Offshore wind operational report 2019
一方、日本企業では日本政策投資銀行とJERAが英国南東部のガンフリート・サンズ発電所Ⅰ・Ⅱにそれぞれ24.95%を出資している。
JERAは丸紅から事業権益を引き継ぐ形で参画した。レポートでは「日本は英国の発電プロジェクトでの経験を自国の洋上風力発電事業に活かそうとしている」とされた。
英国においては、2019年の時点で洋上風力が電力の10%を担っており、これは陸上風力やバイオマス発電と同じ規模だ。今後も洋上風力の開発は順調に進むことが見込まれる。
また、直近では、現状で世界最大のウインドファームになるDogger Bankのプロジェクト(3プロジェクト、合計3.6GW)が注目されるだろう。
その一方で、開発事業者はデンマークのオーステッドをはじめ、ドイツのRWEなど国際色豊かだ。海外投資を呼び込みつつ、国内のCO2排出を削減していく英国の洋上風力開発は、この国のしたたかさを示しているともいえるだろう。
参照
The Crown Estate:Offshore Wind Leasing Round 4 signals major vote of confidence in the UK’s green economy 2021.2.8
The Crown Entate:Offshore wind operational report 2019
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