大型倒産が目立つ太陽光関連業界の今後の動きは!? 第2回 事業環境変化、ビジネスモデルの転換点【帝国データバンク寄稿】 | EnergyShift

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大型倒産が目立つ太陽光関連業界の今後の動きは!? 第2回 事業環境変化、ビジネスモデルの転換点【帝国データバンク寄稿】

大型倒産が目立つ太陽光関連業界の今後の動きは!? 第2回 事業環境変化、ビジネスモデルの転換点【帝国データバンク寄稿】

2021年08月18日

言いにくいことだが、一般の企業や銀行からみて「太陽光関連業者」というのは倒産による焦げつきが発生しやすい、やや危険な業種と見做されている。2050年カーボンニュートラルの実現に向けた再生可能エネルギーの大本命に位置付けられながらもなお、融資や信用取引にあたって「与信を与えても大丈夫か・・・?」と周囲に一抹の不安を与えているのが太陽光関連業者だ。

過去の倒産実績がそうさせているわけだが、今年に入ってからもJCサービス社とグリーンインフラレンディング社の倒産、更にテクノシステム社の事実上の営業活動停止など大型倒産が相次ぎ、周囲の心証を悪化させている。第2回は業界の現状と未来への課題を斬る。

第1回はこちら

日本国内の太陽光関連業者は、2019年8月末時点で1万7,841社存在する。太陽光発電システム販売や設置工事、太陽光パネル製造やコンサルティングなどを「主業」として手がけているのが3,265社(構成比18.3%)、電気工事業や建築工事業、卸売業など本業は別にあり、「従業」としてなんらかの関連事業を手がけているのが1万4,576社(同81.7%)だ。(表①参照)

業態としてもっとも多いのが「太陽光発電システム販売、施工」の1万843社(構成比60.8%)、次いで「メガソーラー運営・売電事業」の5,180社(同29.0%)。(表②参照)

売上規模では年商1億円以上10億円未満が7,836社(同43.9%)でボリューム・ゾーンを形成しているほか、年商50億円までが全体の77.3%を占めている。(表③参照)

そして重要なのが売上動向。少々データが古いので恐縮だが、2016~2018年度にかけて「増収」企業はおよそ4割を占め、「横ばい」の2~3割、「減収」の3~4割を常に上回っている。(帝国データバンク調べ)

当時は太陽光モジュールの国内総出荷量が減り続け、倒産が急増していた時期だ。損益動向をみても2016~2018年度にかけて、「黒字」企業はコンスタントに8割以上を維持し、「赤字」は2割以下に過ぎない。そしてこういった傾向は「主業」よりも「従業」においてより顕著に出ている。

つまり、太陽光関連業者の多くはそれが主業であっても従業であっても、特に後者は本業で培ったノウハウや営業資産を活用しつつ、また余資運用として安定的に収益をあげている。

安易に参入し退場を余儀なくされる企業がある一方で、様々なノウハウ――例えば最適な立地の選定、高効率の太陽光発電システムの設計と施工、効果的なファイナンスの手法、実際のオぺレーションやメンテナンスをローコストに行う運営手法など――を習得、地道な経営努力が実を結び、残存者メリットを得ている企業群が存在する。

では、彼らのいまの課題は何だろうか。

太陽光発電の10年

太陽光発電のこれまでの経緯を改めて振り返ると、2009年11月~2012年7月までは余剰電力買取制度、すなわち家庭や事業所が太陽光発電などで得た余剰電力を一定の価格で買い取ることが電力会社に義務付けられていた。しかしこの頃は買取価格の高い家庭用の普及が進んだものの、産業用は低く、メガソーラーなどを建設しても採算を確保することは難しかったという。

2012年7月施行の固定価格買取制度(FIT)で状況は大きく変わった。出力10kW以上の産業用太陽光発電の買取価格が一気に引き上げられたことが出力1MW以上のメガソーラー普及のきっかけとなった。買取価格は経産省に最終決定権がある。

2012年度の買取価格は40円。13年度は36円、14年度は32円・・・と年々引き下げられたものの、新規参入を促進するため「当初3年間はプレミア単価」とされた。10%を超える利回りの高さは多くの新規参入者、投資家を呼び込んだ。「2015年度の29円までは十分過ぎるほどの利回りを確保できる水準。当時、ドイツやスペインの投資家の姿も多く見られた。彼らは何が起きるかを知っていた」(コンサルタント)。

いま、産業用の買取価格は12円。家庭用は19円。買取価格は大幅に低下し、バブルは終焉した。その分、海外からの安価な太陽光パネルやパワコンの流入、設置工事の技術向上や工程短縮で導入コストも半減しており、利回りは変わらず10%前後を確保出来ている。

しかし普及に伴う問題も生じている。サーチャージ(割増金)として国民から徴収される再エネ賦課金の増加、未稼働案件(買取価格が高いうちに認定を受け、設備コストが下がるまで稼働させない)の増加、森林伐採(農地の転用は規制が厳しいが森林は緩い)などの自然破壊や景観問題などだ。

“金融商品”としてのFIT制度

これまで出力10kW以上50kW未満の小規模メガソーラーには発電した電気をすべて買い取ってもらえる全量買取制度が適用され、最大のボリューム・ゾーンを形成してきた。しかし2020年度からは10kW未満の家庭用と同様、自家消費率30%以上を義務付ける余剰電力買取制度に移行した。これの意味するところは空き地に太陽光発電システムを設置する、いわゆる“野立て”への支援打ち切りということだ。

大規模メガソーラー事業者に対しては2017年の改正FIT法で入札制度が導入されている。当初は2,000kW以上が対象だったが、募集容量をはるかに下回る入札が続き、現在は入札対象を250kW以上まで引き下げて当初非開示だった入札価格もオープンにするなど改革に努めている。しかしFITに替わるものとして十分機能しているとは言い難い状況だ。

そして2022年4月より新たに導入されるFIPの存在がある(初年度は1,000kW以上のメガソーラー事業者が対象)。これはメガソーラーなど発電事業者自ら日本卸電力取引所(JEPX)で電気を売り、それに加えて補助金を受け取るもの(※)。そして、市場価格に連動するこの新制度、事業者間の評判は必ずしも良くない。

投資家にとって、FIT制度下のメガソーラーは“金融商品”であった。固定価格での買い取りが20年間保証されていることは原価計算や将来の収益見通しを立てやすくし、投資金額に対して10%前後の利回りが確定していることを意味する。金融機関にとっても、プロジェクト・ファイナンスで融資するのは容易だ。この点、「価格変動リスクのあるFIPは実際に始めたら機能しない。学者の机上の空論」(メガソーラー事業者)と手厳しい声がある。

入札制度もFIP制度も発電コストを減少させて再エネ賦課金の国民負担を減らし、競争原理を働かせることが目的だ。しかし「例えば不動産取引や株式市場なら、多数の市場参加者が共通の相場観をもち、過去の無数の取引事例からこなれた価格が形成されている。歴史が浅く、そういうものがないところにいきなり市場原理と複雑な制度を持ち込んでも上手くいくはずがない」(設備工事業者)。

実際、JEPXに電力調達を依存していた新電力は昨年末から今年1月にかけての電力価格高騰で経営難に陥っている。「今後、JEPXへの依存度を引き下げるとの経営判断が出てきてもおかしくない」(新電力)。わかりやすい制度設計が必要だろう。

シンプルな解・・・自家消費とPPA

“金融商品”としての役割は終えつつある太陽光だが、実は実需ベースのシンプルな解として自家消費やPPAと呼ばれる特定事業者間の相対取引が今後、大きな波になるとみられている。大手企業が環境対応を進め、仕入先や下請先にも同様の基準を求めるようになっていることも追い風になる。太陽光関連業者が対応していかなければならないのは、まさにここだ。

自家消費は、例えば買取期間の10年を終了し“卒FIT”となった家庭なら蓄電池を備えて自家発電に発電能力の3割以上を充当し、残り7割程度を新電力などに売電する。

企業ならオフィスビルや工場、倉庫などの屋根に発電設備と蓄電池を設置、自家消費し余剰電力は新電力などに売電する。

PPAなら、メガソーラーなど発電事業者が新電力、もしくは最終需要家である企業と直接、長期・固定価格の売買契約を結ぶ。シンプルでわかりやすい。 

もうひとつ、太陽光発電業者の課題はコストだろう。FITの買取価格は半減し、導入コストも半減したが、「しかし欧州は更に安い。あと30%のコストダウンが必要であり、可能だ」(メガソーラー事業者)。時代の要請として潜在的なニーズは大きい。市場の再活性化には関連事業者のもう一段の経営努力が求められるところだ。

第1回はこちら

※注
JEPXでの一定期間の平均市場価格を上回る基準価格(FIP価格)が設けられ、平均市場価格との差額が特別割増金(プレミアム価格)という名の補助金として支給される。市場価格連動でプレミアムが増減、価格変動リスクを吸収する「完全変動型プレミアムFIP」か、市場価格に一定のプレミアムを上乗せするだけで、価格変動リスクにさらされる「全期間固定型プレミアムFIP」かで結果に大きな違いが出るが、事業者のインセンティブと市場原理の狭間で市場価格とプレミアムの合計額に上限、下限を設ける折衷型になるとみられている。

①主業/従業の内訳

構成比:%

主業/従業社数構成比
主業3,26518.3
従業14,57681.7
17,841100.0

②業態別

構成比:%

業態社数構成比 
主業構成比従業構成比
太陽光発電システム販売、施工10,84360.82,55878.38,28556.8
メガソーラー運営・売電事業5,18029.03119.54,86933.4
太陽光発電システム・モジュール・部品製造8314.7792.47525.2
設計・監理・コンサルタント4852.72236.82621.8
管理・保守サービス2261.3652.01611.1
製造装置、分析装置等機器類製造1400.870.21330.9
先端技術開発150.100.0150.1
その他1210.7220.7990.7
17,841100.03,265100.014,576100.0

③売上規模別

構成比:%

売上規模別社数構成比 
主業構成比従業構成比
1億円未満2,96516.683025.42,13514.6
1億円以上10億円未満7,83643.91,54947.46,28743.1
10億円以上50億円未満3,00616.836211.12,64418.1
50億円以上100億円未満6073.4431.35643.9
100億円以上500億円未満5413.0310.95103.5
500億円以上1590.930.11561.1
未詳2,72715.344713.72,28015.6
17,841100.03,265100.014,576100.0
太宰俊郎
太宰俊郎

証券・金融系専門紙記者を経て、2006年に信用調査会社の株式会社帝国データバンクに入社。情報部記者として、主に倒産企業の取材、TDB企業データに基づくレポート等の作成を行っている。

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