電力大手とLPガス大手の合弁に見る、エネルギー小売事業の変化とその将来像 | EnergyShift

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電力大手とLPガス大手の合弁に見る、エネルギー小売事業の変化とその将来像

電力大手とLPガス大手の合弁に見る、エネルギー小売事業の変化とその将来像

2022年3月8日、埼玉県さいたま市に本社を置くLPガス卸大手で新電力としても20万件を超す顧客を持つサイサンと、中部電力の小売り会社である中部電力ミライズが、合弁会社エネワンでんきを設立する。中部電力ミライズはエネワンでんきを通じて電気を供給する一方、愛知県、岐阜県、三重県においてはLPガスを販売することになる。両社にとって、不足したリソースを補い合うことになる。総合エネルギーサービスというエネルギー事業の将来像を示したものかもしれない。

新電力の生き残りに必要だった安定した電力卸供給

サイサンとその子会社で北海道で事業を展開するいちたかガスワン、および中部電力ミライズの3社は、全国で小売電気事業を展開、愛知県・岐阜県・三重県でLPガス事業を展開する合弁会社を8月に設立する。サイサンと中部電力ミライズの連携により、全国で電気とLPガスを販売する事業体ができることになる。

合弁企業は2段階で設立される。まず、6月1日にサイサンが自社の小売電気事業を分割し、エネワンでんきを設立する。同時に、サイサンの子会社の坊ちゃん電力と格安電力はエネワンでんきの子会社となる。

その後、8月1日にいちたかガスワンが小売電気事業をエネワンでんきに承継。あわせて、中部電力ミライズといちたかガスワンがエネワンでんきの株式をサイサンから取得する。株主構成はサイサンが61%、中部電力ミライズが34%、いちたかガスワンが5%となっている。

サイサンはコーポレートスローガンとして「お客さまにとって最も身近なホーム・エネルギーパートナー」を目指すとしてきたが、事業体としては、サイサンを中心とするGas Oneグループと中部電力ミライズグループの強みを合わせたものとなる。

「エネワンでんき」事業概要


出典:中部電力ミライズ「「エネワンでんき」の概要等について」をもとに編集部再編集

しかし、この合弁会社には、両社にとって切実なものがあったと見られる。

サイサンはLPガスの販売量では業界のトップ10に入る事業者で、低圧の新電力でも販売電力量では直近で13位(2022年2月)となっている。しかし、小売電気事業を拡大したがゆえに、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場における価格の高騰は、経営を左右しかねないものだったのではないだろうか。そのため、旧一般電気事業者、いわゆる大手電力から安定した卸電力供給を受けることは有力な選択肢であったといえよう。さらに言えば、全国展開しているサイサンにとって、中部地方において、東邦ガスの子会社である東邦液化ガスの牙城は何としても崩したかったはずだ。

一方、中部電力ミライズ側にもニーズはある。中部電力ミライズに限らず、大手電力会社の一般需要家への営業力は脆弱だ。都市ガス会社やLPガス会社と比べても、十分な営業拠点がなく、顧客接点が少ない。中部エリアはともかく、他エリアでの展開には足掛かりがほしいところだ。その点では、大阪ガスと合弁でCDエナジーダイレクトを設立し、首都圏で電力・ガスのセット販売を展開したが、現状では成功したとはいえず、低圧に限ればサイサンより少ない。また、中部地域においては、LPガスとのセット販売で顧客をつなぎとめておく必要があったといえるだろう。

同じ中部電力から出資を受けているLooopをはじめ、生き残るために大手電力の資本を受け入れている新電力は少なくない。そうした中にあって、今回の合弁は、Ene Oneブランドを残したことにも示されるように、LPガス会社側の強みも生かしたものだといえよう。電力会社や都市ガス会社に加え、LPガス会社を含めた業界再編の端緒になるといったら、言い過ぎだろうか。

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もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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