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市場規模6兆円の都市ガスは脱炭素時代にどう戦うのか

エコキュートに負けるエネファーム

既存のインフラがつかえるメタネーションは、都市ガス会社にとって魅力的に見えるかもしれません。しかし、世界的に見るとメタネーションはマイナーな方針だといえます。

欧米は電化に向かっています。例えば英国では、ガスによる給湯と暖房をヒートポンプに置き換えようとしています。また、そのためのモニター世帯を募集してきました。英国では再エネ賦課金(再エネ買取制度の原資)は、ガスの方が割高に設定されています。これも、ガスから再エネ電力へ移行していくための措置です。

米国でも、給湯にはガス温水器や電気温水器が使われていますが、これをヒートポンプ式給湯器に置き換えるような動きとなっています。

もちろん欧米でこうした対応がしやすい背景には、欧米では電気とガスの両方を扱う事業者が一般的だということがあります。英国最大の電力会社はBritish Gasですし、カリフォルニアの大手電力会社の1つはPacific Gas & Electricです。したがって、1つの会社の中で電気へのシフトを進めることは比較的容易です。その点、電気とガスが縦割りだった日本では、簡単ではないということになります。

ただ、カーボンニュートラルを目指す上で、ガスが不利だということははっきりしてきました。かつて、エコキュート(ヒートポンプ給湯器)とエコジョーズ(潜熱回収型ガス給湯器)ではCO2排出量は同じくらいだとされていました。しかし、エコキュートの効率は向上しましたが、エコジョーズではガスの持つ熱量以上のお湯はつくれません。エネファーム(家庭用燃料電池)の場合は火力発電所より高効率でエネルギーを利用できるということですが、現時点ではCO2が排出されることは変わりません。また、エネファームそのものが十分な経済性があるのかどうか、議論の余地があります。最近ではむしろ、湯切れ防止のためにエコキュートにエコジョーズを取り付けたハイブリッド給湯器の方が注目されています。

今後、エネファームは水素専用型でニッチな市場を開拓するか、合成メタンで運転するか、そのどちらかになっていくでしょう。

そのように考えていくと、都市ガス会社にとって、ガスへのこだわりを捨てきれないのは、かえってマイナスかもしれません。

ガス&パワーへの転換

現状ではガスにこだわる都市ガス会社ですが、これはどこかで大きな転換をするのではないか、私はそのように考えています。

すでに、電気もガスも小売りが自由化されているのですから、都市ガスにこだわる必要はありません。

そうした先駆的な事例が、静岡ガスです。子会社に静岡ガス&パワーがあります。名前からすると、静岡ガスの方が子会社のような気がします。

実は、静岡ガス&パワーは他社よりも早い時期から電気事業に力を入れてきました。顧客の比率として産業用が多いこともあり、全面自由化を待たずに電気事業を開始する条件がそろっていたともいえます。また、静岡県にはバイオマス発電など再エネの資源にも恵まれており、静岡県内でエネルギーの地産地消を進めやすいという環境もありました。

まあ、かつて静岡ガス&パワーの社長に「いつこっちが親会社になるんですか?」ときいたことがありましたが、そのときはただ笑っていました。

都市ガス会社がガス&パワーへと転換していくことは、他社についても現実的だと思います。それにはいくつか理由があります。

もちろん、都市ガス会社がこれまでのように都市ガスを売れないのであれば、再エネを主力とした電気事業を目指すというのは、合理的な面があります。

しかしそれだけではありません。電気事業において、実は旧一電は営業力が弱いため、小売電気事業では都市ガス会社が優位になる可能性は十分にあります。東京電力エナジーパートナーの売上げが下がっていることはその一端です。

一方、東京ガスは英国のOctopus Energyとともに合弁会社TG Octopus Energyを設立し、電気事業で全国展開をねらっています。

Octopus Energyは現在では英国6位の小売電気事業者ですが、ここまでくるのに10年以上かかっています。10年後にTG Octopus Energyが9電力をしのぐ会社になっていてもおかしくありません。

都市ガスと電力会社の業界再編も

東京ガスや大阪ガスに次ぐ東邦ガスや西部ガスを地方都市ガスと言ってしまうのははばかられますが、それぞれ中部電力、九州電力との体力の差は大きなものがあります。したがって、それぞれの都市ガス会社が旧一電と正面から競争しているということはありません。そこでの帰結というのは、都市ガス会社と旧一電との合併でしょうか。それによって、ガス&パワーとなっていくことになります。

ただし、これは中部電力と東邦ガスが合併する、という意味ではありません。東邦ガスと関西電力が合併して中部電力と競争する、という可能性もあるからです。中部電力はすでに大阪ガスとともにCDエナジーダイレクトという会社を設立し、首都圏を中心にガス&パワーの事業を展開しています。

準大手以下の都市ガス会社も、旧一電ないしは大手都市ガスと協調した事業展開ということになるでしょう。例えば広島ガスは中国電力と協調してセット割を行なっています。それ以上に注目されるのは、仙台市ガス局です。民営化が決まっているのですが、買収先が決まらない状態です。ただ、買収に名乗りをあげているのは、東京ガスと東北電力を含む4社の共同体です。元々、東京ガスは東北電力とともにシナジアという会社を設立し、北関東の工業団地にガス&パワーの事業を展開しています。

このように考えていくと、2050年のカーボンニュートラルの姿は、現在の東京ガスや大阪ガスが水素やメタネーションを中心とした事業の展開を構想しているようにはならず、業界再編によっていくつかの総合エネルギー会社による競争環境になっているのかもしれません。

都市ガス業界の脱炭素の帰結

このように、都市ガス会社とLPガス会社とでは、脱炭素戦略は大きく異なっていくと思われます。また、業界再編によって、基本的にガス&パワーの会社となっていけば、無理にメタネーションをする必要はなく、再エネの電気を基本に、どうしてもガスが必要なところにだけ、水素や合成メタンを供給することになるでしょう。

もちろん、現段階では、業界再編の動きはみられません。したがって、将来再編があるということは断言できません。それでも、どこかで合理的な判断はあると思っています。

もう1点、指摘しておきたいのは、おそらく2030年ごろまではLNGの価格が高止まりするのではないかということです。新規ガス田の開発への投資が止まれば、天然ガスの需給はどこかでタイトになります。それを上回る再エネ開発が行われるまでには、少し時間がかかります。LNGが高い時期を、都市ガス会社はどのように乗り切るのか。ただし、これは電力会社も同様で、LNG火力の燃料代が重くなります。

しかし、それは必ずしも悪いことではなく、化石燃料の価格上昇が脱炭素化を推進することにもなります。あとは、低所得者層への手当てがあればいいのではないでしょうか。

いずれにせよ、現在はエネルギー業界の大きな転換期ですから、現在の延長に未来がないということだけは確かです。

 

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もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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