再エネ目標を前倒しで達成するHawaiian Electricのしなやかな戦略 脱炭素実現に向けて | EnergyShift

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再エネ目標を前倒しで達成するHawaiian Electricのしなやかな戦略 脱炭素実現に向けて

再エネ目標を前倒しで達成するHawaiian Electricのしなやかな戦略 脱炭素実現に向けて

2021年05月20日

海に囲まれ、石油への依存度が高いという点では日本以上にエネルギー安定供給への脆弱性を抱える米国ハワイ州。太陽光発電の普及率は米国平均の5倍だ。さらに2045年までには電気を再エネ100%にするという。そんなハワイ州の人口95%に電気を販売するHawaiian Electric Companyは、どのような戦略でエネルギーシフトに対応しているのか?

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2045年に再エネ電気100%を州法で義務付け

ハワイ州は、全米でいち早く2045年までに販売する電気を100%再エネ由来とすることを義務付けた。州法では2030年に40%、2040年に70%という中間目標も定めている。

島々からなるハワイ州はエネルギー源の多くを石油の輸入に頼っている。Hawaii State Energy Officeが2020年11月に公表した「Hawaii Energy Facts & Figures 2020」によると、2018年のエネルギー需要の84%が石油によってまかなわれている。この依存度を下げることが大きな課題のひとつとされている。

ハワイのエネルギー源 供給別 2018年

Hawaii Energy Facts & Figures 2020
出典:Hawaii State Energy Office『Hawaii Energy Facts & Figures 2020」』

一方、2019年の太陽光発電の普及率は、米国全土で2.5%であるのに対し、ハワイ州では12.7%。さらに州は、再エネの拡大と同時に節電や輸送セクターの脱炭素化にも力を入れている。

そこには、ハワイの自然環境を気候変動から守りたいという人々の想いもあるだろう。だが同時に、在ハワイ米軍の石油依存度を下げ、政情が不安定な中東の影響を受けにくくするという別の側面もある。

州の再エネ目標を前倒しで達成する勢い

ハワイ州では、Hawaiian Electric Industries傘下のHawaiian Electric Company(以下、Hawaiian Electric)が、ハワイ島、マウイ島、オアフ島などで電力小売事業を展開している。顧客数は州の人口140万人の約95%にのぼる。本社はオアフ島のホノルルにあり、1891年の創立だ。

Hawaiian Electricは、ハワイ州が掲げる再エネ導入目標を前倒しで達成する勢いをみせている。2021年2月に発表された、2020年の再エネ調達比率は34.5%。前年の28.4%から6ポイント近く増加し、2020年に30%という中間目標を難なくクリアした。

島別にみると、人口の多いオアフ島の再エネ調達率は30.5%だった。CEOのScott Seu氏は「グリッド規模の再エネプロジェクトに利用できる土地が少なく、需要が多いことを考えると、オアフ島で30%に達したことは重要な意味をもちます。だからこそ、戸建て住宅の36%が屋根にソーラーパネルを設置していることが、再エネポートフォリオに大きく貢献しているのです」と述べた。


出典:『Sustainability Report 2020-2021

相互に補完しあう3つの戦略

再エネ電力100%を実現するため、Hawaiian Electricは「グリッドの近代化(Grid Modernization)」「電気自動車」「100%グリーンエネルギー」の3つに取り組んでいる。

「グリッドの近代化」とは、ハワイ州の公益委員会が再エネをより多く受け入れるためにHawaiian Electricに指示したものだ。同社は、2017年に「グリッドの近代化戦略:Modernizing Hawai‘i’s Grid For Our Customers」を策定した。この戦略では、屋根上型の太陽光発電の効率的な利用に加えて、それを支える蓄電池やデマンドレスポンスなどを駆使してレジリエントなグリッドを構築するとしている。

ハワイならでは、島別の料金設定とは?

Hawaiian Electricの家庭向け電気料金は主に、毎月の固定料金「Customer Charge」とサービスに対する3段階の従量料金、そして発電事業者からの電気の調達価格に連動した電気そのものの従量料金の3つによって構成される。料金はオアフ島、ハワイ島、マウイ島と島ごとに異なる。

オアフ島を例にとると 、Customer Chargeはひと月あたり11.50ドルだ。一方、サービスに対する従量料金単価は、ひと月の使用電力量350kWhまでが1kWhあたり10.6812セント、それを超える850kWhまでが11.8347セント、1,200kWhを超えると13.7121セントとなる。そして、電気そのものの従量料金単価は、2021年5月1日の時点で1kWhあたり13.135セントとなっている。

サービスと燃料のそれぞれの従量料金を合算すると、他の州よりも電気料金が高くなっていることがわかる。その理由は、島嶼であるハワイ州では石油の輸入コストなどがかさむことだ。島別の家庭向け電気料金の平均単価(電気料金全体を1kWhあたりに換算)は下記の通り。

Hawaiian Electric 住宅向け電気料金の2020年平均単価

 平均単価(セント/kWh)
オアフ島28.74
マウイ島33.32
モロカイ島35.43
ラナイ島36.41
ハワイ島35.17

Hawaiian Electric『Rates & Regulations』より筆者作成

 

顧客が省エネしても利益を確保できるデカップリング

ところで、電気の従量料金について、なぜサービス料金と調達に関わる電気料金に分けているのか。

そこには、「デカップリング」というしくみがある。ハワイ州に限ったことではなく、カリフォルニア州など他の州でも取り入れられている制度だ。

これは、電力会社が顧客に省エネをうながす一方で、その結果減少した販売電力量に対する利益を確保するというもの。
顧客が省エネすれば、電気料金は上がってしまうことになる。しかし、サービス料に相当する部分のみの値上げであることを明示し、顧客の電気代そのものが下がっていることが示されれば、顧客にとっても損しないことになる。

つまり、販売電力量と電力会社の利益を分離するしくみが「デカップリング」なのだ。

こうしたしくみが存在することで、電力会社は安心して顧客に省エネ・節電を推奨することができる。さらに上手に電気を使うインセンティブを顧客に与えることで、石油依存を減らし、再生可能エネルギーの拡大にもつながっていく。

地域独占の電力会社だから可能な制度のようにも思えるが、脱炭素化を進めるにあたっては、日本においても検討する価値のある政策かもしれない。

デマンドレスポンスよりも効果的な“高度な料金戦略”

米国の電力会社の多くは、節電によって顧客に利益を還元するデマンドレスポンスを提供している。Hawaiian Electricでも、オアフ島の住宅向けに給湯器やエアコンを使ったデマンドレスポンスを実施している。厳密にいえば、現在でも実施しているものの、積極的には新規加入を受け付けていない。

なぜなら、同社はデマンドレスポンスよりも効果的な「高度な料金設計戦略(Advanced Rate Design Strategy)」に取り組んでいるからだ。「高度な料金設計戦略」とは、効率的な電気使用によって顧客へインセンティブを支払う新しいプログラムだ。エネルギー利用を高効率化するだけでなく、節約や分散型電源への投資を促すことも期待されている。

その1つが、太陽光発電の余剰電力が発生する時間帯の電気使用を促す「Time-of Use」メニューだ。午前9時から午後5時までが昼間の単価、午後5時から午後10時がピーク単価、それ以外がオフピーク単価とされている。単価は島によって異なるが、2021年4月のオアフ島のモデル単価(電気料金全体を1kWhあたりに換算)は下図の通りだ。


出典:Hawaiian Electric『Time-of-Use Program

輸送セクターの電化は柱のひとつ

Hawaiian Electricは、2018年に「輸送の電化戦略ロードマップ(Electrification of Transportation Strategic Roadmap)」を策定した。このロードマップでは、デマンドレスポンスを活用したスマートな充電サービスを提供し、EVユーザーへインセンティブを与えることなどが示されている。前述の時間帯別(Time-of Use)電力メニューはEVをもたない家庭も利用できるが、EVユーザー向けのインセンティブとしても位置付けられている。

また、Hawaiian Electricの顧客には、Enel XのEV充電器「Juice Box」を割引価格で購入できる特典も用意されている。一例として、40アンペアのJuice Boxなら通常649~659ドルのところ、551~560ドルで購入できる。

再エネ導入を牽引する蓄電池プロポーザルの奏功

このように、さまざまな戦略を通じて進むハワイ州のエネルギーシフトだが、これを大きく後押ししたのは、Hawaiian Electricが2019年に開始した合計900MWの再エネプロジェクトのプロポーザルだといわれている。太陽光発電と蓄電池の組み合わせなどを条件に、オアフ島で594MW、マウイ島で135MW、ハワイ島で203MWの再エネ発電設備のプロジェクトを公募した。

これには、2022年9月までに閉鎖予定のオアフ島・キャンベル工業団地のAES石炭火力発電所の補完という意味合いも含まれていた。この火力発電所の出力は180MWで、ハワイ州の単体の発電所としては最大規模だ。ピーク需要の約16%をまかなうという。

2020年5月に公表された公募結果によると、オアフ、マウイ、ハワイの3島で16のプロジェクトが落札。このうち3プロジェクトは蓄電設備単体によるものだ。これによって、460MWの太陽光発電設備と3GWhの蓄電設備が導入されることになった。

太陽光と組み合わせた蓄電池プロジェクトの公募や高度な料金戦略など、Hawaiian Electricは再エネの導入量を最大化するためにあらゆる手段を講じている。一貫したその姿勢からは、変化に柔軟に対応するしなやかさがみてとれる。

実は、日本の沖縄県とハワイ州の間で「沖縄ハワイクリーンエネルギー協定」が締結されている。沖縄県もまた、石炭火力発電への依存度が高いが、ハワイ州の取り組みを参考にすれば、脱炭素への大きな可能性も開けるのではないだろうか。

Hawaiian Electric

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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