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日本、国連の気候変動報告書に修正要求という報道 その裏にある欧州の思惑を解説

2021年10月26日

今回の報道は政治的背景を持ったものである

BBCはイギリスの、もっというと欧州のメディアだ。

さて、彼らは果たして本当に「流出した文書を」入手したのだろうか。それとも、意図的なリークを受け取ったのだろうか。

ここは憶測の域を当然出ないが、筆者個人は後者だと思っている。

そもそも、本来流出してはならない大量の文書が流出したこと自体、おかしい。

おかしいことには裏がある。その裏には必ず意図がある。

なぜなら、外交官時代、どう考えてもクローズドな会議で参加国以外知りえない情報が、メディアにリークされ、議論の誘導に使われた、というのを何回も目の当たりにしているからだ。

そして、それは得てして、勝負所で情報が出てくる。

さらにいえば、それは、自分たちの都合のいい方に議論を誘導したいと思っているであろう国のメディアからリークされる。

例えば、とある原子力の論点で、米国と欧州の議論が対立していたときに、米国のブルームバーグと、欧州のロイターが同時に相手にとって困る情報を双方リークし合うということがあった。守秘義務があるので、詳しくはいえないが、日本もその論点に巻き込まれていたため、「なんだこれは」、と思ったのが鮮明に記憶に残っている。とともに、メディアというのもまた、こうした政治の道具に使われている、というのもまざまざと実感した。

世界に発信力をもつメディアを自国、ないし自地域に持つということの意味を痛感したところでもある。

その経験は、筆者がG20大阪サミットで、当時貿易と並んで激しい議論が行われていると報じられていた気候変動の首脳宣言の文言を起草し、そして各国と調整をしている当事者であったときに活きた。到底、調整が無理だといわれた気候変動部分の調整ができたのは、メディアへの流出も含めて計算し、逆に誘導をかけることができたからだと個人的には考えている。

そして、結果は、読み通り、各国に途中で送っているドラフト段階のものであって、秘匿しなければならないものが、メディアから随時報道をされ、そして彼らにとって持っていきたい方向に議論が誘導をされるということが起きた。その「流出」を所与にしていなければ、大阪での文言調整の成功はあり得なかっただろう。

筆者が、欧州はやり方が汚いと実感を込めて主張する理由・・・次ページ

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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