日本、国連の気候変動報告書に修正要求という報道 その裏にある欧州の思惑を解説 | EnergyShift

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日本、国連の気候変動報告書に修正要求という報道 その裏にある欧州の思惑を解説

2021年10月26日

筆者が、欧州はやり方が汚いと実感を込めて主張するには理由がある。

当時、こうした流出を所与にしたときに、特に欧州サイドから情報が漏れるであろうと踏んで論理を構成したのだが、まさに当時その読み通りになったからである。読み通りのところから読み通りの情報がリークされ、誘導が図られた。

読みが当たるということは背景にある、やり口についても分析が的を得ているということになる。

今回、欧州としては何が何でも石炭のところにメスを入れて、再エネ誘導をかけたい、ということなのだと思っている。CCUSが仮に可能性を持ってしまったら、彼らが覇権を取りたい世界観が崩れることになる、だから、今回BBCを使って、あたかも、化石燃料を擁護したい国たちが気候変動対策に後ろ向きである、という見せ方を出来ないか模索し、議論の誘導をはかった、そのように筆者は分析している。

もちろん、気候変動はまったなしで進展しており、脱炭素は国際的な潮流で、経済面を考えても押さえないといけない論点だ。筆者も繰り返し、脱炭素を制することの重要性を述べてきているが、それは世界の情勢を踏まえた上での提言であり、日本の過去を振り返ってしまう姿勢だと、置いて行かれるだけだというところにポイントがある。欧州などが主張することが正義だとは全く思わない。デジタルと同じように、これから一気に世界が脱炭素に舵を切る中で、日本が競争性を持つべきだと考えているだけであり、基本的に世界と戦うために提言をしている。

だからこそ、今回のような欧州などによる自国利益誘導の流れには、真っ向から反対であり、対抗すべきと思っている。

脱炭素はあくまで大気中のCO2を減らすというところが目的であり、その手段は多様であるべきだ。そこにつながる可能性は排除されるべきではない。

そして、IPCCもそこを排除しているわけではない、そこは先述したとおりだ。IPCCを使って、味付けを欧州サイドが行ってきた、ということである。ちなみに、IPCCは、各国政府からのコメントは科学的評価プロセスの要で、報告書の作成者がこれらを報告書に組み込む義務はないとしている。これは当然だ。彼らは科学者集団であり、根拠は科学に基づくもの、政治色が入ればすぐに違和感が出てしまう。

だからこそ、そこにもうまく漬け込んで、今回、欧州は味付けを試みたというところだろう。中立的なIPCCに対して、化石燃料擁護派がロビー活動を行ったとすることでの味付けだ。

この手の話が出てきたときは、そういう背景を理解して、報道を見る必要がある。国内報道も、追随してキャリーするが、事の本質はしっかりみるべきだ。

ここまで述べた上で、最後にその上で見えてくる日本の立ち位置と日本が進むべき方向について、解説したい。

日本の立ち位置と進むべき方向とは

とはいえ、化石燃料擁護サイドの主張が、バランスが取れているかというとそんなわけはない。

例えば、産油国であるサウジや石炭産出国の豪州にとっては、CCUSのくだり以上に取りたいことがある。今回BBCが報じた中でいえば、サウジアラビア石油省のある顧問が、「『あらゆる規模での緊急かつ加速的な緩和行動の必要性』といった表現を報告書から削除すべき」だと要求したり、オーストラリア政府のある高官が、石炭火力発電所の閉鎖が必要だという結論を拒否していたりもしている。

さきほどのCCUSの主張は気候変動対策に整合するものだが、こうした明らかに自国の化石燃料を守りにいき、気候変動の文脈からは厳しい主張を行ってしまうと、リークをされたときに「サウジや豪州は気候変動対策に消極的だ」というレッテルを貼られることになる。まんまと欧州の味付けがはまるわけだ。

国益がかかっているので、仕方ない部分はあると思うが、ただ、この辺りのバランスはやはり重要である。さらに、こうした国々は脱炭素転換が相対的に遅れていて、このまま脱炭素転換が進むと不利を被る状況にある、ということを示してしまっているともいえる。

この理屈は残念ながら、そのまま日本にも適用されてしまっているのではないだろうか。CCUS以上に化石燃料の部分は守りにいったところは、多少あったのだろう。

ただ、BBCが日本の具体的な内容に触れなかった、ここは一つ示唆を与えてくれている。

一つには、日本の書きぶりがマイルドで、取り上げてもインパクトがないものだったということ。日本は往々にして、控えめで、特に文言についてはかなり気を使う。また、IPCCが中立的科学集団であるということも重々分かっている。そのあたりの図々しさのなさは、日本の素敵なところである。そのため、取り上げる価値があまりなかった。

ないしは、これから第二弾のリークが用意されていて、本丸はそっちに残してある、という見方もできる。

仮にそうであれば、むしろ、欧州はここから議論の場での誘導をかけて、日本を窮地に追い込み、そこから何か出てきた材料を、プレスにリークする、つまりCOP期間中に仕掛けてくる可能性が高い。

その罠にぜひ日本勢は、気を付けてもらいたいと思う。実態以上に、アンチ脱炭素ブランディングをされる可能性があるためだ。

そして、もう一つ、可能性があるのは、意外に日本が切り替えていて、守りにいったのはCCUSと原発の論点だけだった、この可能性もあると思う。国内の議論を見ていると、まだそこまでの切り替えが出来ていないようには見えるが、もしそうだとすれば、それは素晴らしいことだろう。

いずれにしても、この報道が出てくるほどにCOP26は大きな位置づけになる。ぜひ日本としてもしっかり脱炭素のフィールドで将来的に勝ち残ることを意識して、かじ取りをしてもらいたいと思う。

今回はこの一言でまとめたい。
『BBCが報じたロビー活動は当たり前のこと むしろ誘導をされないようご注意を』

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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