2050年カーボンニュートラル(脱炭素)に向けた再エネ大量導入の課題は? 第33回総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 | EnergyShift

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2050年カーボンニュートラルに向けた再エネ大量導入の課題は? 第33回総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会

2050年カーボンニュートラル(脱炭素)に向けた再エネ大量導入の課題は? 第33回総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会

2020年11月27日

2020年11月17日、第6次エネルギー基本計画を検討する総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第33回)が開催された。2050年カーボンニュートラルの挑戦は、日本の新たな成長戦略でもある。気候危機を乗り越え、グリーン成長に欠かせない再生可能エネルギーの大量導入に向けた課題とは何か、そしてどう対応すべきなのか。当日の議論の模様をレポートする。

カーボンニュートラルは日本の成長戦略

2020年10月26日、菅首相が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。この宣言を踏まえ、11月17日、次期エネルギー基本計画をどのように見直すべきか議論する、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会が開催された。

今回の分科会では、2050年カーボンニュートラル実現に向け、再生可能エネルギーを最大限導入するうえでどのような課題があるのか。そしてどう対応すべきかが論点となった。

分科会の冒頭、梶山弘志経済産業大臣は次のように発言した。

「今や、気候変動問題は人類共通の危機と言っても過言ではありません。世界でも先進国を中心にカーボンニュートラルの旗を掲げ、動き始めております。この危機をビジネスチャンスの拡大により乗り越える、それがカーボンニュートラルへの挑戦です。

カーボンニュートラルの挑戦とはすなわち、日本の新たな成長戦略でもあります。あらゆるリソースを投入し、経済界とともに経済活動の好循環を生み出していくことで、グリーン成長を目指していきます。

カーボンニュートラルに向けては、温室効果ガス排出量の8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが特に重要です。再エネを最大限導入していくうえでの課題と対応策についてご議論いただきたい」。


発言する梶山弘志経済産業大臣

英国はカーボンニュートラルをどのように実現するのか?

次期エネルギー基本計画を策定するうえで、エネルギー分野を中心とした2050年のカーボンニュートラルに向けた道筋を示すことが重要である。そして、その道筋をもとにした具体的な政策立案も必須だ。これら議論に際し、事務局から日本より先行する英国とEUの事例が紹介された。

英国は2019年5月、2050年カーボンニュートラルを宣言し、実現に向けた3つのシナリオを公表している。

ひとつ目が、2050年約80%削減に向けたCoreシナリオだ。このCoreシナリオでは、具体的な対策として、以下が挙げられている

電力部門:再エネ、原子力・水力などの低炭素電源化
民生部門:エネルギー効率の改善と低炭素暖房の普及等による住宅の脱炭素化
産業部門:ヒートポンプ・水素利用などの資源効率化による省エネ、CCS利用
運輸部門:自動車・トラックの電動化、船舶のアンモニア燃料化、航空のバイオ燃料の導入
炭素除去:BECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage:CO2回収貯留付きバイオマス発電)等の脱炭素技術の導入

これらを実施し、2050年のCO2排出量は1990年比約80%減となる1.93億tCO2を想定している。ただし、産業、農業、航空、重量貨物輸送、民生熱需要など脱炭素化が難しいセクターでは残余排出が発生するという。

ふたつ目が、約96%削減に向けたFurther Ambitionシナリオである。

電力・建築物・産業部門では、電源の更なる低炭素化や電化率の向上、CCSを進める。運輸部門ではさらなる自動車の電動化や、航空部門のバイオ燃料・ハイブリッド電動航空機の導入を実施する。また、CO2を除去するためのBECCSやDACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage:大気からのCO2回収+CCS)といったオプションを深堀するというもの。Coreシナリオよりも技術的に難しく、コストの高い対策を実施することで、2050年排出量は1990年比約96%減となる0.35億tCO2を想定している。ただし、この野心的シナリオでも産業、農業、航空分野では残余排出が残る。

3つ目が、Speculativeシナリオだ。

先のFurther Ambitionシナリオの残余排出を削減するため、技術導入には発展途上であり、コストの高いFurther Ambitionシナリオの複数オプションの深掘り、BECCSやDACCSなどの炭素除去技術の深掘り、藻や再エネから生産されるカーボンニュートラル合成燃料、これら3つのいずれかの対策によって、2050年カーボンニュートラルを実現する。

英国では2050年に、Further Ambitionシナリオにおける電源構成について、再エネ(水力含む)59%、BECCS6%、原子力11%、残り23%がCCS付きガス火力発電というイメージを示している。

EUが示す脱炭素シナリオ

EUは2018年11月、2050年カーボンニュートラル経済の実現を目指すビジョン「A clean planet for all」を公表した。同プランにおいて、EUでは、カーボンニュートラルを実現するため、3つの削減目標のもと、8つのシナリオを描いている。

まず、2050年80%削減目標(2℃相当)となるシナリオとして、次の5つを挙げる。

脱炭素エネルギーキャリアによるGHG排出削減シナリオ

① 電化:すべてのセクターで電化を重点化
② 水素:産業、運輸、建築分野での水素利用
③ Power-to-X:産業、運輸、建築分野でCO2を原料とする合成燃料の利用

需要によるGHG排出削減シナリオ

④ 省エネルギー:全セクターでのエネルギー効率向上
⑤ 資源循環:リサイクル、リユース、シェアリング、材料効率向上等の資源循環政策により実現

2050年90%削減目標は、下記の通りである。

⑥ 組み合わせ:①〜⑤の手法により90%削減となるよう、費用対効果の高い方法で組み合わせ

2050年ネットゼロ(1.5℃相当)目標には、2つのシナリオを描く。

⑦ 技術:⑥の組み合わせを深掘り、脱炭素化が困難な部門の排出をネガティブエミッション技術(BECCS、DACCSなど)で補完
⑧ 行動変容:⑥の組み合わせを深掘り、脱炭素化が困難な部門の排出を生活の行動変容(徒歩、自転車、公共交通、シェアリング自動車の増加や食の変化)で補完

英国と同じくEUもまた、農業や運輸、産業などの部門では、現在の技術では排出ゼロを実現できないとする。したがって、カーボンニュートラルの実現にはBECCSやDACCSなどのネガティブエミッション技術が不可欠だという。

さらには電化の推進により、電力需要・電力消費の増加、そして電力料金の上昇を想定しており、EUETS価格(EU排出量取引制度の炭素排出枠価格)は、現在の約25ユーロ/t-CO2から、2050年には80%削減シナリオで250ユーロ/t-CO2、100%削減シナリオ下では350ユーロ/t-CO2の上昇を見込んでいる。ただし、研究開発の進展によって、こうしたコストは低減していくことにも言及している。

2050年の電源構成として、EUは再エネ81〜85%(うち太陽光発電+風力発電が67〜72%)、原子力12〜15%、化石燃料2〜6%という絵姿を提示している。

再エネ最大限導入に向けた5つの課題

英国やEUでは複数のシナリオを描き、2050年カーボンニュートラルを目指す。では、日本はどのように実現していくのか。

カーボンニュートラルの社会を簡単に模式化すると、電力部門では非化石電源の拡大。一方、非電力部門である産業・民生・運輸部門においては、脱炭素化された電力による電化、水素化、メタネーション、合成燃料などで対応する。また、完全なゼロ化が難しい非電力部門に関しては、植林やBECCS、DACCSなどのネガティブエミッション技術で処理をするという絵姿になる。

これら一連の技術を進展させ、2050年までに社会実装するためのシナリオづくりが、カーボンニュートラル社会の実現につながっていく。

とりわけ電力部門の脱炭素化を目指すうえで、重要になるのが再エネだ。
菅首相は、再エネの最大限導入と謳ったが、長期的に大規模導入を実現するには5つの課題がある。

課題1:出力変動への対応
課題2:系統容量の確保/対応
課題3:系統の安定性維持/対応
課題4:電源別の導入拡大に向けた課題/対応
課題5:国民負担

各委員からの発言は

5つの論点を踏まえ、委員からどのような提言があったのか。主要な発言を紹介していく。

工藤 禎子 三井住友銀行専務執行役員
「再エネ主力電源化に加えて、水素・メタネーションといったガス体エネルギーの脱炭素化など、幅広い視点で優先すべき技術を見極めたうえで、実証から商用化に至るまでを一貫して支援する体制を整えてほしい。特に実証においては国として、先進的な取り組みをアピールし、消費者、社会から理解をえる。企業のチャレンジングな活力を喚起することが重要です。

国内事業者の競争力が高まり、国産機器や日本の低炭素技術の海外輸出ができるようになれば、産業振興にもつながります。
日本の技術で、日本のみならず、世界のカーボンニュートラルに貢献していくべきであり、これが日本のグリーン成長だと考えます。
2050年カーボンニュートラルへの道筋において、再エネの最大限導入がメインシナリオだと思います。しかし、政府による明確な導入目標、導入計画が必要です。たとえば、洋上風力では現状、同一海域において複数事業者が争う構図となっており、事業者間の適切な競争により価格低下が進むのであれば良いが、今後、促進区域がどのように追加されていくのか分からず、目の前の促進区域に事業者が殺到するような構造にはならないようにする必要があります。

政府は中長期的なロードマップを描き、事業者が中長期的な目線で開発ができるような環境整備をお願いしたい。短期的な利益の拡大ではなく、日本に根ざして、中長期的に事業を行う発電事業者、メーカー、EPC、船舶の製造・運用事業者など、多様なプレーヤーが参入しやすくなり、国内にサプライチェーンが構築される。そうすれば、賦課金による国民負担も国内で循環していくようなマーケットが形成されると思います。

大量導入がどれほどのコストになるのか。追加の国民負担がいくらになるのか。負担を下げるためにどのようなイノベーションが必要になるのか。可能な限り明示して、国民の理解と国民の知恵の導入を促進するような計画を立てていきたい」

寺島 実郎 日本総合研究所会長

「第6次エネルギー基本計画の肝は、原子力と再エネだと思います。日本は原子力について、ある程度の基盤を維持すると、腹を括るのなら、専門的で高度な原子力人材をどうやって維持するのか。しっかりと具体策を示すべきではないか。すでに日本の原子力人材はものすごい勢いで劣化しています。中国やロシアでは、第4世代、小型炉、トリウムなど新しい次元での議論が見え隠れしている。われわれは再エネ対原子力という議論を超えて、新しいパラダイムを提示するべきではないか」

豊田 正和 日本エネルギー経済研究所理事長

「ゼロカーボンの再エネを最大限活用することは重要ですが、デメリットもある。太陽光・風力はバックアップが不可欠ですし、コストの課題、土地の制約などもある。地熱は安定電源だが、地元理解が困難といった問題があります。まさに限界も共有すべきだと思います。
日本政府には必要な予算を惜しまず、強力な支援をしていただきたい。フランスやドイツなどは水素、車載用電池の研究開発、クリーン自動車の導入などに1兆円、2兆円を費やしています。中国や韓国、おそらくバイデン政権も巨額の予算を費やすでしょう。日本も一桁増やした補助政策をお願いしたい」

橋本 英二 日本製鉄代表取締役社長

「鉄鋼生産におけるゼロカーボンスチールは、抜本的なプロセス変更が実現しない限り達成できない。中国を中心とする海外競合メーカーに対する競争力回復の観点も含めて、経営の最重点テーマとして取り組んでいく覚悟でいます。そのためには研究開発、設備の転換に莫大な費用がかかることは明白です。生産コストも大幅な上昇が不可避であるため、財政的支援はもちろん、社会全体で負担する具体的な体系の構築を政府に主導していただきたい。洋上風力発電に関しては、純国産洋上風力を促進する制度の検討をお願いしたい」

松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授

「電力は需要と供給が等価だということを常に忘れないようにしていただきたい。たとえば再エネの適地から大需要地に運ぶには送電線が必要だ。この発想は正しいが、需要を再エネ適地に持っていくことと、送電線の投資とどちらのコストが安いのか、考えなければいけない。
次に出力抑制率が32%になるという衝撃的な数字が出てきました。しかし、設備稼働率が低下し、再エネ投資ができなくなって大変だ、と捉えるのではなく、32%も出力抑制がされるということは、電力卸価格がゼロになるということです。

電力をインプットとして使う産業には、巨大なビジネスチャンスがあるということを意味しています。水素への転換、合成燃料に転換するといった巨大なビジネスチャンスがあると捉えるべきです。しかし、今の制度を漫然と続けたら、残念ながら価格ゼロにはならない。制度改革はまだまだ必要だということも示しています」

橘川 武郎 国際大学大学院国際経営学研究科教授

「再エネの大量導入にはΔkW、調整能力が極めて大事だ。蓄電池はコスト的に不明確な点があるため、火力が必要になります。その火力をどうやってゼロエミッション化するかが一番の問題になります。日本最大の火力会社であるJERAは、2050年ゼロエミへの挑戦を発表しました。水素とアンモニアで火力をゼロエミ化することこそコアではないか」

伊藤 麻美 日本電鍍工業代表取締役

「今から30年後の2050年において、今日参画されているみなさんの何名が現役なのか。やはり、次にバトンを渡す世代にしっかりと伝えていくことを念頭に置いて、物事を決めていかないといけないと思います。
そのうえで、国民負担を抑えるという事務局からの説明がありました。非常に聞こえはいいですが、果たしてそれが未来にとってプラスなのか。今、コストを抑えることで、将来の子供たち、将来の大人たちが苦しむような結果になってはいけないと思います。

これは決して苦難な道ではなく、より明るい、住みやすい日本にするため、世界にするためのプロセスなんだと伝わるような、前向きな議論を進めていきたいと思います」

次回は原子力の価値などを検討

2050年カーボンニュートラルに向けた挑戦について、すべての委員から賛同する旨の発言があった。しかし、原子力の扱いについては、委員間でも意見が分かれている。次回はその原子力などの議論が行われる予定だ。

(Text:藤村 朋弘)

参照
EnergyShift「第32回総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会レポート」(2020年)10月26日
経済産業省資源エネルギー庁 "総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第33回会合)(令和2年11月17日(火))" 
経済産業省資源エネルギー庁 "2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討" 2020年11月17日

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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