中国 EVサバイバー 第2回 | EnergyShift

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EnergyShift(エナジーシフト)

中国 EVサバイバー 第2回

中国 EVサバイバー 第2回

2021/07/09

前回は、テスラ一強に各社が挑戦するアメリカ市場と、ディーゼル不正事件でロードマップが白紙になった欧州の自動車メーカーが、政府の環境政策の一部になることで政府の支援を強力に得ながらリスタートした欧州EV(電気自動車)市場について考えを述べさせていただきました。

今回のテーマは中国です。

「韜光養晦」「有所作為」
韜光養晦 力を隠し蓄えよ
有所作為 やるときはやれ

中国ではBEV(Battery EV)とPHEV(Plug-in Hybrid EV)のことをNEV(New Energy Vehicle=新エネルギー車)というカテゴリーでくくり、強力な優遇政策で普及を後押ししています。2020年は約136万台と新車販売の5.4%。それに対し2021年の販売台数は200万台以上と言われるほど成長が予測され、2035年には新車販売の50%をNEVにするとの目標を掲げています。

EVにおける中国を語るときにとくに重要なのは、中国は自動車販売において、世界最大の市場であるということです。

アメリカの約1,700万台とEUの約1,600万台の市場を圧倒する、中国市場約2,500万台というジャイアントパワーが世界中の自動車メーカーの戦略に大きな影響を与えています。

中国政府は自国産業保護のためという理由で、輸入車に対しては高い関税をかけ続け、現地生産も中国企業との合弁でなければ、海外自動車メーカー単独での進出をずっと認めてきませんでした。よって、現在でも日本・アメリカ・ヨーロッパとの合弁自動車メーカーが中国市場の6割を占め、純粋な中国メーカーのシェアは4割にとどまっています。

例えば、スマートフォンマーケットでは、ハーウェイやシャオミ、オッポなど中国ブランドが価格面でも性能面でも優位に立つことにより、サムスンやアップルなど強力な海外ブランドを押しのけて中国国内でシェア上位を占めており、その量産競争力を活かして、世界でも中国製端末が浸透し大きく売れています。しかし、自動車の分野では海外で戦えないどころか、国内ですらも海外メーカーの技術力で作られた合弁メーカーのクルマが大きなシェアを占め、価格帯が高く利益も大きい高付加価値商品が中国国内マーケットを独占しています。

エンジン開発技術でのハンディキャップ

中国車が戦えていない最大の理由はエンジンの開発力です。前回、自動車メーカーのサバイバルの歴史は、各国の環境規制との戦いの歴史であると申し上げました。そのエンジンの環境性能においては、日本勢が抜き出ており、欧州勢、アメリカ勢と続きます。

環境規制が日欧米よりも緩い中国国内においてはとりあえず中国メーカーでも戦えているものの、技術力の差は、燃費の差、パワーの差、運転のし易さの差となり不利な戦いを強いられています。

そのうえ輸出では日欧米の排ガス規制をクリアできず断念、アジアやアフリカの規制が緩い地域を選んで価格をウリに少しずつ輸出を開始しているのが現状です。

このような現状に満足できない中国政府は日本勢が独走する内燃機関エンジンでの競争を諦めました。それが新エネルギー車(NEV)政策に繋がっていくのです。

中国が抱えるエネルギーセキュリティ問題

NEV政策の背景にあるもの。ひとつはやがてくるEV時代においては中国EVメーカーが世界で先手を打つことで競争力をつけ、輸出商材になるのだという狙い。もうひとつは、深刻な都市部での大気汚染と健康問題の解決、そして中国が悩むエネルギーセキュリティの要素が絡んでいると私は考えます。

中国の電力における石炭火力の割合は2017年で7割近くと突出しています。また水力、太陽光、風力などの再生可能エネルギー分野も強力に推進しています。一方で、天然ガスや石油などの発電量が極めて少ないことに気がつくと思われます。

これら石炭以外の化石燃料由来エネルギーに頼った国づくりができないことは、中国の地政的な理由によるものです。地政学的な理由とは、中国国民14億人は豊かな暮らしを求めて年々エネルギー消費が増えてゆく中で、とくに北京、上海、広州、深センなど大きな人口を抱える大都市近郊の発電所に、石油をどうやって運ぶのか、という問題です。

これら大都市は東シナ海、南シナ海に面しておりますが、その2つの海の出入り口は、日本、台湾、フィリピン、インドネシアによって蓋をされた状態です。

中東ペルシャ湾を出た中国行きのタンカーは、アメリカ第7艦隊が制するインド洋からマラッカ海峡を経てようやく中国領海である南シナ海にたどり着かねばならないという宿命を背負っています。

日本のように広い太平洋に面して、同盟国の艦隊に手を振りながらタンカーで往来できる環境とは大きな差があるのです。

脱石油資源依存、NEV車両の普及は、アメリカや周辺諸国との不要な軍事的緊張を避けるためにも中国政府にとって重要でかつ必要な政策でもあるわけです。

日中の新たな関係

ところが、その中国と日本が手を握りあっていることをご存知でしょうか。2018年8月に900kWの超高速充電をカバーするCHAdeMO規格(EVの急速充電方法。62.5kW以内の直流(DC)を用いる急速充電方法で、コネクター規格や充電、通信方式をCHAdeMO協議会が取りまとめている)の新世代を、中国の中国電力企業連合会が検討していたGB/T規格の次世代として採用し、新たに日中でChaoJi規格として世界への普及を目指すという発表がありました。世界一の市場と、世界で独走するNEV販売の実績を持つ中国が、日本の方式に相乗りしますと合流してきたわけです。

2020年6月19日。コロナ禍につきオンラインで両国の会場を結んで行われた「次世代超高出力充電規格に関する日中合同イベント」で、日本側代表である姉川尚史 CHAdeMO協議会会長は 、「小異を捨てて大同に就くという決断を行った中国関係者に敬意を表します」と挨拶しました。

私が日本側の関係者やEV開発者に取材したところでは、CHAdeMO方式が認められたと喜び、EV開発者は日本向けと中国向けに開発を分ける必要がないことを歓迎していました。世界への普及を目標に活動してきたCHAdeMO関係者にとっては晴れがましいことであったと察します。しかし、私としては、この話は、まったく逆の視点で見るのが正解だと今も思っています。


日本側代表である姉川尚史 CHAdeMO協議会会長

中国側のコメントをとったわけではありませんので、ここからはあくまでも私の推測です。日本車は世界でもっとも多く輸出されています。とくに北米とASEAN、インド、中東では輸出だけでなく現地生産の規模も大きくその国への浸透度もとても大きい。

その日本車が採用するEV充電規格であるCHAdeMO方式に、中国が乗っかることにより、近未来の中国車は日本車が開拓した北米とASEAN、インド、中東に対してクルマを輸出するチャンスが生まれる。

と、中国側は戦略的な判断を行ったのではないでしょうか。

現に2019年2月に日本政府とインド政府は急速充電器普及の協力関係についての覚書を取り交わしています。日本がお金を払ってインドへのCHAdeMO方式、もしくは次世代CHAdeMO方式(ChaoJi)の普及を手伝うわけです。インドへEV輸出を狙う中国側としてはニンマリのはずです。

自動車輸出大国中国の誕生

現在、中国は急速に自動車に関する市場開放を進めています。海外資本単独での中国市場進出を段階的に進め、2018年からはNEV生産および販売は合弁の必要はありません。すばやく対応したテスラが上海郊外に工場をつくり中国でEVを売りまくっていますが、これも、将来アメリカで中国EVを売るための布石と見ることもできるでしょう。

中国は悲願である、EV時代の自動車輸出大国への道を賢く歩んでいるように思えます。このままでは、日本車とあらゆる市場で競争し、日本車のシェアを奪うことになると想像できるわけです。当然、日本市場にも中国EVは違和感なく上陸してくるでしょう。

しかし、日本勢も悲観することはないと思います。マーケットは中国約14億人、インド約14億人、ASEAN6億人、中東約3億人。日本の1億人を足すと38億人を擁する、世界でもっとも経済成長が見込まれる地域なのですから。シェアは分け合ったとしてもお互いにビジネスは伸びてゆく。良きライバルの存在は自分を高めることにもつながるはずです。もし、近い将来、運転席やハンドルがないレベル4や5の自動運転EVが市場投入されてゆくと右側通行・左側通行向けにそれぞれ左右ハンドルを付け替えた車両を用意する必要もなくなるわけです。中古車も巨大市場で流通するでしょう。

日中合作次世代急速充電器「ChaoJi」はエネルギーとデータを結ぶEVインフラの中枢です。中国と日本が手を結んだという事実は、時がたつにつれ重たいものになってゆく予感がいたします。

 

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次回掲載2021年7月23日予定(隔週連載)

資料提供:一般社団法人チャデモ協議会/ChaoJi日中合同イベント(6月19日開催レポート)より

三浦和也
三浦和也

⽇本最⼤級のクルマ情報サイト「レスポンス」編集⼈、社⻑室⻑ アスキーにてWEBメディア編集を経て、1999年に⾃動⾞ニュースサイト「オートアスキー」(現レスポンス)を⽴ち上げ。2000年にはiモードでユーザー同⼠の実燃費を計測する「e燃費」を⽴ち上げる。IRIコマースアンドテクノロジー(現イード)に事業移管後は「レスポンス」の編集⻑と兼任でメディア事業本部⻑として、メディアプラットフォームの構築に尽⼒。2媒体から40媒体以上に増やす(現在は68媒体)。2015年にイードマザーズ上場。2017年からはレスポンス編集⼈、社⻑室⻑として次世代モビリティアクセラレーター「iid 5G Mobility」を開始。既存⾃動⾞産業へのコンサルティングと新規モビリティベンチャーへの投資や協業を両⾯で⾏い、CASE/MaaS時代のモビリティを加速させる⽴場。最後のマイカーはプリウスPHV。現在はカーシェアやレンタカーを利⽤するカーライフ。

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