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これがEV充電の未来 日産提携も囁かれる交換式充電ステーションのAmpleとは?

これがEV充電の未来 日産提携も囁かれる交換式充電ステーションのAmpleとは?

2021年09月30日

2021年8月、ENEOSホールディングスが交換式充電ステーションのスタートアップであるAmpleへ出資、今年度中に日本国内で配送サービスを展開することを明らかにした。Ampleは、車メーカーとも共同開発を進めているが、日産が含まれるだろうことはほぼ確実視されている。交換式充電ステーションとは何か、EVの将来像について考察する。

ENEOSと年度内に配送サービスを展開

8月19日、EVバッテリーの交換式充電ステーションのスタートアップである米国のAmpleが、1億6,000万ドルのシリーズCの資金調達に成功した。投資家の中には、日本のENEOSホールディングスも含まれることから、国内でも大きく報じられた。

ENEOSグループは2040年長期ビジョンにおいて、次世代型エネルギー供給・地域サービスの展開を事業戦略として掲げている。EVや水素といった次世代自動車の普及を念頭に置いた事業の準備を着々と進めている。この7月からは、EV関連の事業戦略を検討する「EV事業推進部」を新しく設置した。

今回の出資に先立ち、ENEOSホールディングスは6月16日にAmpleと交換式充電ステーションについて提携した。2021年度中に複数の配送サービスを対象に実証事業を実施すると発表している。また、充電ステーションの充放電機能を活用し、系統における再生可能エネルギーの増大に貢献するとした。

Ampleの投資家には他にもロイヤル・ダッチ・シェルも含まれている。ENEOSグループでエネルギー事業を担当するENEOSが国内展開を急ぐのは、シェルに先を越されないようにという焦りがあるのかもしれない。

交換式バッテリーの苦い記憶

交換式のEVバッテリーといえば、10年ほど前にBetter Placeというスタートアップがいた。ガソリンの給油と同じくらいの時間でEVのバッテリーを丸ごと交換できるという画期的なアイディアで、同社は10億ドルという資金を集めた。充電時間の長さがネックであったEVにとっては活気的なソリューションとされた。しかし、巨額の資金を集めながらも商用化に失敗し、2013年に破産。当時、多くの投資家が相当な影響をこうむったといわれている。

テスラも同時期にバッテリーの交換が可能なモデルSを発表し、90秒で満充電できることをPRする「バッテリー・スワップ・イベント」というものまで開催した。しかし、その後は交換式バッテリーについての進捗は聞かれない。

モジュール式のバッテリーを自動で交換

さて、カリフォルニアを拠点とするAmpleについて紹介する。同社の交換式の充電ステーションは、モジュール式のバッテリーを全自動で交換する点が特徴だ。

EVがステーションに入庫すると、車のサイズに合わせて自動でジャッキアップされる。ステーションの壁部分には満充電されたバッテリーが保管されていて、ここからロボットが取り出してEVに装着するという仕組みだ。

交換式の充電ステーションは、どれだけ多くの車種に対応できるかが普及の肝だ。もちろん、すべてのEVが同じバッテリーを搭載していれば、ステーションに配備しておくバッテリーは1種類で済む。しかし、現実はそうではない。

同社はこの課題に対し、小型のモジュール式のバッテリーという解を編み出した。モジュールの組み合わせを変えることによって複数の車種に応用できるようにしていると思われる。

また、自動車メーカー5社と提携し、開発を進めている。この5社は明らかにされていないが、紹介動画にリーフがたびたび登場することから、日産が含まれるだろうことはほぼ確実だ。

ちなみに、2010年の日産リーフの「リチウムイオンバッテリー取り外しマニュアル」によると、バッテリーの取り外しには当然いくつかのプロセスが必要だ。Ampleと日産の共同開発によって、こうしたプロセスを簡素化した新車種が登場するのではないかと考えられる。

このように、Ampleの交換式充電ステーションは、まだ一般のユーザーも使えるような仕様にはなっていない。そのため、現在は主にB2Bに向けたサービスを展開しており、ウーバーやライドシェアサービス「Sally」などと提携している。


Ampleの紹介ビデオより 日産リーフが登場している

定置型蓄電池としてVPP利用も視野に

Ampleの交換式充電ステーションは全自動だけでなく、コンパクトである点も強みだ。駐車場2台分のスペースがあれば設置可能で、大規模な工事も必要ない。3~5分で満充電のバッテリーに交換できるため、単純に計算して1時間で10台以上のEV充電が可能だ。

冒頭の出資の話に戻ると、ENEOSも今年度中にAmpleと提携した配送サービスを始めるという。AmpleとウーバーのタッグにENEOSが加わるのか、あるいはEVタクシーや別のライドシェア事業者など、別の取り組みになるのか、期待が膨らむ。

Ampleは、充電ステーションを定置型蓄電池として活用することも視野に入れている。蓄電池の充放電により、系統への再生可能エネルギーの導入を促進する意図だ。VPPにも力を入れているENEOSのことだから、こうした将来像を描いているかもしれない。

 


ENEOSとAmpleの共同リリース

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山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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