資源エネルギー庁の「再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」では、2030年エネルギーミックスの具体化に向けた検討の一助とするため、電源種別ごとに研究機関や事業者等から連続的にヒアリングをおこなっている。2021年3月22日に開催された第30回会合では、バイオマス発電、地熱発電、中小水力発電について業界団体からヒアリングをおこなったので、本稿ではその内容を抜粋しご報告したい。
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国内の森林資源は毎年7,000万m3増加しているにも関わらず、森林の「高齢化」により森林によるCO2吸収量はここ20年で30%以上減少している。
伐採と再造林を循環させることが森林および林業の活性化に有効であり、木質バイオマス発電はこれに貢献するものと、バイオマス発電事業者協会(BPA)では考えている。
BPAからはバイオマス発電のうち、一般木質・農作物残渣に関する2030年の導入見通しが報告された。
表1.2030年バイオマス(一般木質等)導入見通し
一般木質・農作物残渣 | |
導入容量 | 484万kW 1万kW未満:20万kW 1万kW以上:464万kW |
発電電力量 | 331億kWh |
設備利用率 | 78.1% |
目標単価 | 15円/kWh |
出所:バイオマス発電事業者協会
導入ペースとしては1万kW未満では国産材供給増加トレンドに基づき2.5万kW/年の増加を見込んでいる。1万kW以上においては運転開始までのリードタイムが4年程度であるため、2021~2025年はFIT既認定未稼働案件のうちBPAによる運転開始時期調査結果に基づき、2026~2030年は足元の入札容量に相当する12万kW/年の増加が続くものと想定している。
木質バイオマス発電ではそのコストの約7割を燃料費が占めているが、これを10円/kWh以下とすることや発電効率の向上等の設備全体のコスト削減を進めることにより、2030年時点の目標売電単価を15円/kWhとしている。
BPAではこれにより、CCS(CO2回収・貯留装置)付LNG火力がターゲットとする発電コスト15円/kWhと並ぶ価格競争力を持つものと考えている。
燃料調達先に関してFIT認定済み設備容量ベースでは、国内燃料のみを調達する発電所は24%、残りの76%は国内調達と輸入材を組み合わせている。BPA聞き取り調査では使用量ベースで国産材比率は1割~2割程度であり、今後の増加が見込まれるとのことである。
木質バイオマス発電のライフサイクル温室効果ガス(GHG)排出量に関しては、資源エネルギー庁の「バイオマス持続可能性ワーキンググループ」において検証が進められつつあるが、BPAからは現状値として木質バイオマスは、火力発電平均と比べ60%以上、石炭火力と比べ70%以上のライフサイクルGHG削減が見込まれることが報告された。
なお現在、再エネ大量導入小委では「2030年時点」の導入見込みをヒアリングしているが、BPAからは2030年以降の大量導入に向けた取り組みも報告された。
木質バイオマス発電と石炭火力は設備構造が類似しているため、諸外国でも石炭からバイオマス専焼に燃料転換する事例が存在する。BPAでは非効率石炭火力のフェードアウトに伴い、非効率石炭火力(2,460万kW)の半数がバイオマスに転換することにより(出力20%低下を織り込み)、984万kWのバイオマス発電容量の上積みが可能と試算している。
図1.非効率石炭火力からの燃料転換によるバイオマス発電導入量
出所:バイオマス発電事業者協会
木質バイオマスエネルギー協会(JWBA)からはバイオマス発電のうち、木質系バイオマス(間伐材、建設資材廃棄物、一般廃棄物等発電、一般木質、農作物残渣等)に関する2030年の導入見通しが報告された。
上記のBPA試算(一般木質、農作物残渣)はこの内数となっているため、重複を避けるため表2の数値からは除いた。
表2.2030年バイオマス(間伐材、建築廃材等)導入見通し
間伐材、建築廃材等 | |
導入容量 | 計143万kW 未利用木質2,000kW未満:12万kW 未利用木質2,000kW以上:52万kW 建設資材廃棄物:9万kW 一般廃棄物・その他:70万kW |
発電電力量 | 78億kWh |
設備利用率 | 未利用材・建廃材 :76.5%~80.9% 一般廃棄物・その他バイオマス等 :46.0% |
目標単価 | 15円/kWh |
出所:木質バイオマスエネルギー協会資料を基に筆者作成
木質系の総設備容量を把握しやすいよう、BPA試算(一般木質、農作物残渣)も含めたグラフが図2である。
図2.2030年 木質バイオマス発電導入見通し
出所:木質バイオマスエネルギー協会資料を基に筆者作成
JWBAでは発電原価15円/kWhを実現するために、発電プラント設備投資額低減のほか発電所管理の効率化(所内率の低減や発電効率の上昇等)が重要としながらも、最も重要な費目は燃料費削減であるとしている。
山元における丸太の購入単価は維持(FIT開始以前を下回らない)しながらも、梢端部の利用や造材作業の効率化、水分率を30%程度に低減することなどにより、燃料費の大幅コストダウンを想定している。
「林業・木質バイオマス発電の成長産業化に向けた研究会」では、燃料材の品質規格の普及のほか、早生樹林の造成や広葉樹林(従来、薪炭として用いられた林)の有効活用が提言された。JWBAではこれらに取り組むことにより、現在発電用燃料として利用されている木質バイオマス量(約900万絶乾トン)の2倍以上の燃料材供給は可能であると推計している。
日本有機資源協会(JORA)からはバイオマス発電のうち、メタン発酵ガス系に関する2030年の導入見通しが報告された。
表3.2030年メタン発酵ガス系バイオマス導入見通し
メタン発酵ガス系 | |
導入容量 | 21~24万kW |
発電電力量 | 13.6~15.6億kWh |
設備利用率 | 家畜排せつ物:80% 下水汚泥:80% 食品廃棄物:70% 混合利用等:70% |
目標単価 | 原料種により差が大きく、算出困難 |
出所:日本有機資源協会資料を基に筆者作成
表3のとおりメタン発酵バイオマスの原料は、家畜排せつ物、下水汚泥、食品廃棄物もしくはこれらの混合であり、地域の廃棄物処理の役割を担う事業が多い。
JORAではその平均設備容量を400kW程度であると認識しており、建設リードタイムを2年~4年と想定したうえで、現在の年間FIT認定設備容量約1.2万kWのペースが継続すると想定している。
また専門的知見をもとにバイオガス発生量を増加させることにより、設備利用率を大幅に向上させることを想定している。
表4.設備利用率(%)の向上の想定
出所:日本有機資源協会
日本地熱協会からは地熱発電に関する2030年の導入見通しが報告された。規模別の合計としては、約144万kW・102億kWhが見込まれている。
表5.2030年 地熱発電導入見通し
10MW以上 | 10MW未満~1MW以上 | 1MW未満 | |
導入容量 | 113万kW | 29万kW | 1.6万kW |
発電電力量 | 82億kWh | 19億kWh | 0.6億kWh |
設備利用率 | 83% | 74.8% | 40% |
想定単価 | 26~40円/kWh | 40円/kWh | 40円/kWh |
出所:日本地熱協会資料を基に筆者作成
表5の想定単価は現在のFIT調達単価のままであり、今後の具体的なコストダウンの可能性が示されていないことに対して委員から指摘が相次いだが、地熱協会からは、FIT買取期間(地熱では15年)終了後には市場価格で他の電源と競争可能との回答がなされた。
ただし市場価格は近年大幅に下落しており、地熱協会が想定している市場価格が幾らであるかは不明である。
地熱発電ではFIT開始後に導入された設備の大半が中小規模の案件である。これはいわゆる温泉発電等の小規模案件では掘削等の資源調査が不要であり開発リードタイムが短いためである。
協会では大規模案件のリードタイム短縮のため、規制緩和や国による追加的支援策を要望している。例えば保安林解除に際しては担当者の裁量・解釈に委ねられる部分が多く、協議・手続きに15ヶ月以上を要しているため、審査期間の短縮を求めている。
また地下資源探査・開発リスクの低減に向けて、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による先導的調査の効果が期待される。
しかしながら地下資源探査以前の最初の段階として、案件開発プロセスにおいては調査開始のための「地域合意形成」が不可欠であり、この段階で数年間という時間を要することに苦慮しているとの報告がなされた。
中小水力発電4団体(公営電気事業経営者会議、大口自家発電施設者懇話会水力発電委員会、全国小水力利用推進協議会、水力発電事業懇話会)からは中小水力発電(3万kW未満)に関する2030年の導入見通しが報告された。
表6.2030年 中小水力発電導入見通し
新設(FIT開始以降) | 既設(リプレース) | |
導入容量 | 35万kW 現時点での導入量 :10万kW 既認定未稼働分の稼働 :20万kW 今後の新規認定分の稼働 :5万kW | 971万kW 現時点での導入量 :963万kW 既認定未稼働分の稼働 :7万kW 今後の新規認定分の稼働 :1万kW |
発電電力量 | 19億kWh | 802億kWh |
設備利用率 | 45~60% | |
想定単価 | 個別性が高く算出困難 | 調達価格等員会平均価格の範囲+αと想定 4.7+α~29.9+α円/kWh |
出所:中小水力発電4団体資料を基に筆者作成
導入ペースの根拠としては、各団体会員への聞き取り調査等により未認定計画地点を加算することや、既設インフラ(ダム、農業用水、水道設備)への設置が進むことを想定している。リードタイムは新設・既設(リプレース)のいずれも、現状と同等の7年以下を想定している。
中小水力発電においてもFIT開始以降、認定件数686件のうち、比較的小型な1,000kW未満が564件と大半を占めている。今後の新規案件開発においても、未開発包蔵水力の約80%を5,000kW以下の地点が占めていることから、1,000~5,000kWを中心に開発に取り組むことが中小水力4団体から表明された。
地熱発電の項でも少し触れたが、今回の再エネ大量導入小委第30回会合では、ヒアリング対象電源の将来的なコスト低減の困難さが指摘され、一部委員からはFIT制度で今後も支援を継続することの妥当性についても疑問が示された。
しかしながら、特に中小水力や地熱はその運転期間は数十年以上と非常に長いものであり、コスト評価においてはこのことを考慮する必要があると筆者は考える。
すでに太陽光発電では一部の事業者から、均等化発電原価(LCOE)を30年で評価した際にコスト競争力が一層高まることが強調されたが、同様のことは中小水力等でも試算可能と考えられる。
将来的なコスト低減の期待値こそが、それら電源に対する各種支援策を講じることの正当化につながると考えられることから、再エネ間のコスト評価のみならず他電源とのコスト評価に際しては、なるべく共通の基準に基づいた比較をおこなうことが期待される。
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