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異例の高騰を続けた電力卸価格が、新電力の経営体力を奪う中、経済産業省は何らかの救済措置を講じるのか。2021年1月27日に開催された総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第36回)において、「新電力への救済措置は実施せず、市場連動型プラン契約者への救済対応は検討する」との方向性が示された。
3週間にもわたるJEPX(日本卸電力取引所)のスポット価格の高騰が、新電力の経営体力を奪っている。すでに秋田や北陸などでは、新電力が事実上の経営破綻や事業売却に追い込まれている。
新電力に淘汰の波が押し寄せる中、経済産業省は何らかの救済措置を講じるのか、注目が集まっていた。2021年1月27日に開催された総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第36回)において、委員から「新電力に対し、何らかの対策を検討しているのか」といった質問が出た。
対応策について、松山泰浩 資源エネルギー庁電力・ガス事業部長は、「卸市場に対するエクスポージャー、依存度によって、影響は相当違う。市場調達の比率が1〜2割の企業もあれば、8割、9割、10割市場から買って、転売している企業もいる。後者は非常に厳しい状況になっているだろう」と述べた。
さらに「これらは事業戦略の裏表でもあり、そこに対し我々が対策を打つことは難しい」と語った。その一方で、「電気料金を市場価格に連動させて、安いときは非常に安く、高いときは高くするという市場連動型商品を売っている企業もいる。今回の市場高騰を受けて、消費者もしくは個人事業主などの事業者に対し、非常に高額の電気料金を請求することは、消費者保護、あるいは取引適正化の観点から、適正ではない。何かしらの柔軟な対応ができないか。対応に向けて必要な措置が検討できないか。今、検討中だ」とした。
委員のひとり、澤田 純NTT代表取締役社長 社長執行役員は、子会社であるエネットについて、「今回のスポット市場の乱高下で大きな影響を受け、会社存続が危ぶまれるほどの事態になった」と語り、次のように述べた。
「当然、顧客に市場価格を転嫁していないという問題もあるが、インバランス料金など電力調整にもスポット市場の価格は用いられている。200円/kWhを上限とする緊急的な措置を設けたが、市場は200円/kWhで高止まりした」。
「株式市場にはサーキットブレーカー制度があり、±10%変動した場合、強制的に取引を停止させている。今回のように何十倍も価格が高騰すると、損を被る事業者がいる一方で、誰かが儲けている。ぜひ制限措置についてご検討いただきたい。毎日数億円のロスが出た。これが今回の実例だ」と述べた。
資源エネルギー庁の保坂伸長官は、「(需給が最もひっ迫した)1月8日は庁内にも緊張感が走った。担当者は働き方改革など関係なく、24時間、電源確保に走り回った。LNGサプライチェーンに支障が生じたところに、隣の国と中国との間でLNGを取り合うことになった」と述べた。
さらに2020年に新型コロナウイルスの感染拡大で、医療現場で使うマスクやガウンなどの不足が深刻した事例を引用し、「まるでマスクやガウンと同じようなことが起こり、LNGを調達できなかった」と述べ、今回の電力需給ひっ迫の一因を解説した。
東京ガスや大阪ガスが持つ大型天然ガス発電所を中心に、全国300ヶ所以上の電源を活用するエネットでさえ、「毎日数億円のロス」が発生し、「会社存続が危ぶまれた」という。そうであれば、自社電源を持たず、資本力が薄い他の新電力への影響は計り知れないものがある。
市場連動型プラン契約者に対しては、何らかの措置が講じられる見通しだ。しかし、その一方で新電力への救済措置の芽はほぼなくなった。サーキットブレーカー制度の導入に関しても、現時点では不透明である。新電力の窮状は今後も続くだろう。
(Text:藤村朋弘)
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