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ノルウェー、水素とCO2でつくる代替燃料「e-Fuel」で輸送セクターの脱炭素化目指す

ノルウェー、水素とCO2でつくる代替燃料「e-Fuel」で輸送セクターの脱炭素化目指す

2021/07/14

「e-Fuel」とは再エネでつくった水素とCO2による合成燃料で、輸送セクターの脱炭素化に役立つと期待されている。Audiの取り組みで話題になったことでも知られる。一方、ノルウェーは、水力発電をはじめとする豊かな再エネを誇る国だ。この再エネを利用することで、グリーン水素を量産することができる。ヨーロッパにおける重要な水素製造拠点となりそうだ。こうしたことから、Audiとノルウェーが、このe-Fuelの大量生産に向けてコンソーシアムを組んだ。

輸送の脱炭素化のための「Norsk e-Fuel」

ノルウェーの首都オスロを拠点とする「Norsk e-Fuel」は、欧州の輸送用燃料の脱炭素化を目指すコンソーシアムだ。2020年6月に結成された。再生可能エネルギーから水素と液体燃料を生産するプラントをつくり、主に航空などの輸送セクターの代替燃料とすることを目標としている。図1は再生可能な燃料をカーボンのサイクルで示したものだ。

プラントの年間生産能力を2023年までに1,000万リットルとし、2026年までに1億リットルに引き上げる予定だ。これによって、ノルウェーの航空ルートのトップ5の排出量を半減できるという。

画像出典:https://www.norsk-e-fuel.com/en/

コンソーシアムのメンバーは、再生可能エネルギーによる電気分解を得意とするドイツのSunfire、直接空気回収(DAC)技術で知られるスイスのClimeworks、SMSグループで鉄鋼業界向けテクノロジーを提供するPAUL WURTH、投資家のValinorだ(ちなみにSMSはSunfireにも投資している)。

水、CO2、再エネでつくられる「e-Fuel」とは

「e-Fuel」とは「Electrofuel」の略で、日本語では「合成液体燃料」と訳される。再生可能エネルギーで水を電気分解することでつくられた水素にCO2を合成した、炭化水素などの燃料を指す。気体や液体の状態で保存できる点が重要で、再生可能エネルギー由来の燃料を自動車や航空などさまざまな場面で活用できる可能性が注目されている。

一般社団法人日本機械学会では「再生可能エネルギーで発電した余剰電力の貯蔵・利用方法の一つで、余剰電力により製造した水素や、その水素と濃縮回収したCO2やバイオガス中のCO2を原料として合成・製造したカーボンニュートラルな燃料」と定義している。

e-Fuelの生産プロセスは、電気から気体または液体燃料を生み出すため「Power-to-Gas」や「Power-to-Liquid」と呼ばれることもある。

ガソリンの代替として自動車各社も注目

e-Fuelが脚光を浴びることになったのは、アウディが 「e-Gas」「e-Gasoline」といったCO2を使ったガソリンの代替となる燃料の開発に力を入れてきたことによる。同社は2013年にAudi e-gas精製工場の稼動を開始した

Audi e-gasとは化学合成メタンガスのことで、再生可能エネルギーで水を電気分解した後、水素の一部をCO2と化合し、メタンに再精製する。1,000トンのAudi e-gasを精製するのに約2,800トンのCO2を必要とする。日本でいうところの、メタネーションである。

生産されたAudi e-gasは既存の天然ガスパイプラインを経由してガスステーションに届けられる。新たな供給インフラを整備する手間やコストを大幅に削減できる点も魅力だ。

また、トヨタもe-Fuelの可能性に注目しているようだ。2021年3月の日本自動車工業会会見で豊田章男会長は、ガソリンにe-Fuelを一定量混ぜ、ガソリン車のCO2排出量をハイブリッド車並みとする技術の可能性について言及した

バリューチェーン全体の脱炭素化を目指すSunfire

さて、冒頭のNorsk e-Fuelの核となるのは気候テックスタートアップであるドイツのSunfireとスイスのClimeworksの2社だが、今回はSunfireについて紹介する。DAC(Direct Air Capture)技術を持つClimeworksについても、機会があれば紹介したい。

Sunfireは2010年に設立されたドイツのスタートアップ。再生可能エネルギーを水素や合成ガス、e-Fuelに変え、化石燃料の代替とすることでバリューチェーン全体の脱炭素化を目指している(図2)。


画像出典:https://www.sunfire.de/en/

同社の電気分解ソリューションには、アルカリ電解と高温水蒸気電解(SOEC)の2種類がある。アルカリ電解は研究の歴史が長く、比較的確立された技術であるため費用対効果が高いという。主に大規模な水素プロジェクトなどに適したソリューションだとしている。

一方、SOEC電解は850℃という高温で動作し、工場の排熱を利用する。同社のセールスポイントは、SOEC電解に要する電力を少なく抑えることができる点にある。水素や合成ガスを生産時の最大のコスト要因とされる再生可能エネルギーのコストを抑制することで、高効率な電解ソリューションを提供する。

同社のSOEC電解システムは「Sunfire HYLINKSOEC」と呼ばれ、3.6kWh /Nm3の消費電力で750Nm3/ hの水素を生成できる。


画像出典:https://www.sunfire.de/en/hydrogen

大量で安価な再エネを呼び水とするノルウェーの産業モデル

Sunfireは、ドイツのほかにノルウェーとスイスに拠点を構えている。以前Energy Shiftでも紹介されたClean Energy Wireのインタビューで、Sunfireのカール・バーニングハウゼンCEOはノルウェーについて次のように語っていた。「ノルウェーは、いくつかの理由から理想的な国だと言えます。ノルウェーの系統電力はほぼ再生可能エネルギーであり、さらに風力発電の膨大なポテンシャルがあります」

この言葉は、大量で(安価な)再生可能エネルギーは新産業を誘致するのに十分な理由になるということを示している。Northvoltのケースといい、ノルウェーではすでに再生可能エネルギーの普及を前提とした産業モデルができつつあるようだ。

再生可能エネルギーの普及や拡大は、日本ではともすればゴールのように語られる印象を受けるが、経済成長や産業の発展という視点でみると、あくまで目標達成のための手段のひとつに過ぎないということを突きつけられたように感じる。

山下幸恵
山下幸恵

九州大学文学部卒。九州電力グループ会社にて大型変圧器・住宅電化機器の販売に従事。新電力ベンチャーにおいて、ディマンドリスポンスやエネルギーソリューションの提案を行う。自治体および大手商社と地域新電力の立ち上げを主管。福岡市にて、気候変動や地球温暖化、省エネについての市民向けセミナーを実施。2019年よりエネルギーライターとして活躍中。

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