2021年1月13日に開催された、経済産業省の第23回「再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」(第11回「再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会」との合同開催)において、FIT制度の後継となるFIP制度の制度設計が一通り完成した。具体的なプレミアム価格はこれからだが、制度そのものがどのようなものになるのかを紹介する。
審議会ウィークリーレポート
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FIP制度とは、再エネ電源が競争環境下で自立できることを目指して電力市場への統合を促しながら、一定の投資インセンティブを確保することの両立を目指した、橋渡し・中間点に位置付けられる制度である。
「再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」(以下、再エネ大量導入小委)では、その第23回会合において、幅広い論点にわたるFIP制度の詳細設計を一旦完成させた。本稿では前回第22回で決定された論点も含め、FIP制度の全体像をご紹介したい。
論点の多くはFIP参照価格の算定方法に関するものであり、そのイメージは図1のようなものである。以下、順にご報告したい。
図1.FIP参照価格 算定方法イメージ
出所:再エネ大量導入小委
従来のFIT制度においては発電事業者の売電単価は固定されていたのに対して、FIP制度では発電事業者は、市場(取引所および相対取引)において刻々と変動する単価に基づき売電しながら、別途「プレミアム」単価を受領することが可能となる。
このことにより、発電事業者の収入は市場価格の変動に一定程度さらされることとなるため、FIPではどのように市場価格を参照するのか、プレミアムをどのように算定するのかが、制度設計上、最も重要な論点となる。
市場参照方法に関する論点の1つが「市場参照期間」である。
市場参照期間を長く/短く設定することにより、事業者による投資回収の予見可能性や、市場価格の変動に対して発電量を増減させるといった事業者の行動変容インセンティブが大きく異なる。
図2.市場参照期間の長短による事業者に与える影響の差異
出所:再エネ大量導入小委
FIPのプレミアム単価は、「①FIP基準価格-②参照価格」(図1)として算出される。
例えば市場参照期間を取引所取引コマの30分ごととするならば、基準価格が20円/kWhの場合、5円のコマではプレミアムは15円(事業者の合計収入は20円)、13円のコマではプレミアムは7円(事業者の合計収入は20円)となり、実質的に売電単価が固定されることととなり、FITと同様に売電事業の安定性・予見可能性は非常に高いものとなる。
逆に市場参照期間を1年とするならば、年間市場平均価格が8円/kWh、基準価格が20円/kWhの場合、プレミアム単価は常に12円/kWhとなる。このケースの場合、5円のコマでは事業者の合計収入は17円、13円のコマでは事業者の合計収入は25円となるため、事業者はなるべく市場価格の高いコマで発電・売電しようとする強いインセンティブが働く。
資源エネルギー庁のヒアリングによれば、発電事業者や金融機関からは市場参照期間を1ヶ月とする要望があった。この方式を前提とした場合のシミュレーション結果は図3のとおりである(九州エリア2019年度実績値を基に試算。太陽光発電。基準価格12円/kWh)。
太陽光発電1,000kWの場合、市場における年間売電収入は818万円、プレミアム総額は995万円と試算されている。
図3.参照期間1カ月の場合の収入単価
九州エリア2019年度実績値を基に試算。太陽光発電。基準価格12円/kWh 出所:再エネ大量導入小委
不需要期かつ晴天に恵まれた3月(市場価格2.2円)のように、電力需給バランスが供給過多により市場価格が大きく下落する時点では、本来は発電量を減少させるべきであるが、その3月に最大のプレミアム単価9.8円が支払われることにより、発電事業者に対して誤ったシグナルを発することとなってしまう。
この当初の事務局案「1ヶ月参照方式」では、再エネ市場統合の観点で問題が大きいことが再エネ大量導入小委の委員から指摘された。よって事務局は以下のような、1年間を参照しながら月間補正を加える方式を再提案し、これが認められた。
その算定式は表1のとおりである。表1の右列では2022年5月を例とした数値イメージを示している。
表1.参照価格の算定方法と数値イメージ
算定方法 | 数値例 |
① 前年度年間平均市場価格を算出。 各30分コマのスポット市場と時間前市場の価格をエリア別に加重平均する。 変動電源(太陽光・風力)は発電特性を踏まえ、1年間分の加重平均により算出。 非自然変動電源は単純平均。 | ① 前年度2021年度年間平均市場価格:10円/kWh |
② 月間補正価格を算出。 1)当年度月間平均市場価格を算出 当年度の1ヶ月分の30分コマ市場価格を、発電特性を踏まえて加重平均(非自然変動電源は単純平均)。 2)前年度月間平均市場価格を算出 上記と同様の計算を前年同月分について実施。 3)月間補正価格 = 当年度月間平均市場価格-前年度月間平均市場価格とする。 | ② 月間補正価格:-1円/kWh 1) 2022年5月の平均市場価格:6円 2) 2021年5月の平均市場価格:7円 3) 6円-7円= -1円/kWh |
③ 参照価格は、① 前年度年間平均市場価格+② 月間補正価格により算定。 | ③ 2022年5月の参照価格:9円/kWh 10円+(-1円)=9円 |
表1の例では2022年5月の参照価格は9円/kWhとなるため、仮に2022年度の基準価格が12円/kWhである場合、2022年5月のプレミアムは、「12円/kWh-9円/kWh = 3円/kWh」と算定される。
この「前年度参照+月間補正」方式に基づき、発電事業者の収入単価をシミュレーションした結果は図4のとおりである(図3と同じく九州エリア2019年度実績値を基に試算。太陽光発電。基準価格12円/kWh)。
図4.前年度参照+月間補正の場合の収入単価
九州エリア2019年度実績値を基に試算。太陽光発電。基準価格12円/kWh 出所:再エネ大量導入小委
この算定方法とする場合、夏の需要期の期待収入単価は高くなる。よって、メンテナンスを不需要期3月に実施するなど、季節をまたいだ発電事業者の行動変容を促すインセンティブとなる。
図4の「前年度参照+月間補正」方式の場合、確かに収入単価は月ごとに大きく変動することとなり、これがリスク要因となることに違いはないが、FIPのような20年間にわたる発電事業において重要となる点は、月ごとに収益変動が生じることではなく、年間もしくは事業期間全体を通じて期待収入が確保されるか否か、そのリスクの大きさであると考えられる。
図4の試算(太陽光発電1,000kW)の場合、市場における年間売電収入は818万円、プレミアム総額は963万円と試算されており、図3の試算結果と大差は無いことが確認されている。
すでに九州エリアにおいて再エネの出力制御が発生しているように、今後は多くのエリアで出力制御がおこなわれると考えられる。再エネの市場統合を進めるためには、需要過多の時間帯においても多額のプレミアムを支払うことで発電を促すことは、誤ったメッセージとなり得る。
FIPでは、発電事業者に対して何らかの価格シグナルを発することで、より多くの収入を得られる時間帯に発電量をシフトする等の行動変容を促すことが重要となる。
発電事業者の投資回収の予見可能性を維持しつつ、タイムシフトの行動変容を促すインセンティブを与える策として、以下のような方法でプレミアムを算定することとした。
① スポット市場におけるエリアプライスが0.01円/kWhになったエリアでは、当該30分コマではプレミアムを交付しない(プレミアムをゼロとする)。
② そのプレミアム不払相当額を、同一エリア内の上記以外の同月各30分コマを対象に割り付ける(プレミアム単価は高くなる)。
2022年5月を例にした計算イメージは以下のとおりである(あくまで仮の数値である)。
A. 2022年5月の九州エリア全体の太陽光電気供給量(0.01円/kWhコマを含むすべてのコマ合計) | 120万kWh |
B. 2022年5月の九州エリア全体の太陽光電気供給量(0.01円/kWhコマを除く) | 80万kWh |
すると、A÷B = 1.5 となる。
仮に調整前のプレミアム単価が3円/kWhであったとすると、「調整後プレミアム単価」は3円×1.5 = 4.5円/kWhとなる。
この調整方式の場合、仮にエリアプライスが0.01円/kWhの時間帯に売電しても得られるプレミアムはゼロであるが、それを売電せずに一旦蓄電したうえで、他の時間帯で売電した場合は4.5円/kWhを得られるということを意味している。
出力制御(抑制)の指示量および蓄電池コスト次第であるが、発電事業者に行動変容を促すインセンティブになると考えられる。
上記と同条件による収入単価シミュレーション結果は図5のとおりである。
図5.前年度参照+月間補正+0.01円コマ補正の場合の収入単価
九州エリア2019年度実績値を基に試算。太陽光発電。基準価格12円/kWh 出所:再エネ大量導入小委
3月の場合、プレミアムが0円となるコマを除いては、13.0円/kWhへと高くなっている。なお、年間収入総額は、0.01円コマ補正が無い図3の場合と同額(売電収入818万円、プレミアム総額963万円)となる。
FITでは、発電事業者の負担とリスク軽減のため「インバランス特例①」制度が設けられている。特例①では発電事業者が発電計画を作成する必要がなく、計画値同時同量におけるインバランス負担も発生しない。
他方FIPでは火力等の他の電源と同様に計画値同時同量義務が課されるため、特に変動電源(太陽光・風力)においては気象予測に基づく発電計画の作成や、計画値と実績値の差分として発生するインバランス費用は、再エネ事業の収益性を悪化させる可能性が高い。
よってFIPでは、これらバランシングコストに相当する金額を発電事業者に付与することとしている。FIT制度では、現在の暫定的な仕組みにおけるインバランスリスク料(変動電源)は0.07円/kWhであり、これが目安とされる。
他方、従来ほとんどの再エネ発電事業者では、これらバランシング業務を実施していないことから、一定のノウハウを習得するまでの間はその追加費用は大きなものとなることが予想される。このため、本来のバランシングコストのほかに経過措置として、一定額(経過措置相当額)を上乗せすることとした。
この経過措置相当額の上乗せは、FIT電源がFIP制度へ移行することを促すインセンティブとしても位置付けられている。
事業者ヒアリングによれば、現状のバランシングコストは0.5~1.0円/kWh程度であり、諸外国のバランシングコストも踏まえたうえで、「経過措置相当額」を設定することとした。また、事業者に早期のノウハウ習得を促すことと国民負担抑制の観点から、経過措置相当額は徐々に低減させていくこととした。
図6.FIPバランシングコスト経過措置相当額低減のイメージ
出所:再エネ大量導入小委
具体的には、FIP開始初年度である2022年度は経過措置相当額を1.0円/kWhとして、施行から3年間は緩やかに0.05円/kWhずつ低減させる。4年目以降は0.1円/kWhずつ低減させることで、将来的には経過措置相当額をゼロとして、バランシングコスト全体でFITインバランスリスク料と同額とすることを目指す。
また事業者がFIP電源のインバランスリスクを低減するには、アグリゲーター等による柔軟なバランシンググループ(BG)組成が有効であることから、FIP電源と火力等のリソースが同一BGを組成することが認められた。
さらに新規FIP認定太陽光発電、もしくは2022年度以降に新規にFIT認定しFIPに移行する太陽光発電に限り、蓄電池の事後的併設が基準価格の変更無しに認められることとなった。蓄電池導入により、タイムシフトによる高額プレミアムの獲得や、インバランスの抑制が可能となる。
FIP電源は電力量(kWh)の他に、環境価値や調整力を自ら販売し収益を獲得することが可能であると同時に、環境価値の売却益は、参照価格の算定に加算する(プレミアムは減額される)こととされている。
第23回再エネ大量導入小委では、FIP電源による環境価値(非化石価値)は、「非FIT非化石証書(再エネ指定)」に該当すると整理された。
非FIT非化石証書は相対取引も可能であるが、公平な参照価格の算定をおこなう上では、直近1年間(4回開催分)のオークション公開価格の平均値(約定量による加重平均)を参照することとした。
以上により、FIP制度のプレミアム単価が算定可能となる。
あくまで仮定の数値であるが、
よって、「①基準価格:20.0円/kWh-②参照価格:7.2円/kWh」= ③プレミアム単価:12.8円/kWhとなる(※0.01円コマ調整前)。
0.01円コマによる調整が発生しない場合、この12.8円/kWhがFIPプレミアムとして発電事業者に交付される。
他方、このプレミアム算定にあたって用いられた数値はあくまで標準的なものであり、現実の販売価格や費用は事業者努力により増減させることが可能である。
例えば電力量については取引所取引でより高単価なコマにタイムシフトすることや、相対取引により、非化石証書や電力量をより高値で売ること、バランシングコストを抑制することなどである。これらの組み合わせにより、自社のFIP発電事業の収益性を改善させることが可能となる。
新規のFIP発電事業者のみならず、既存のFIT発電事業者も、これら制度的ボーナスを最大限活用することを目指して、積極的にFIP制度に移行することを期待したい。
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