トヨタはそのジャストインタイム方式の徹底ぶりから、実は、過去に一度危機に瀕したことがある。
それが、東日本大震災のときだ。
このとき、トヨタは生産調整を迫られている。あまりにもタイトなジャストインタイム方式がゆえに、有事に、余裕が出なかった。
特に、彼らが教訓として得たのが、半導体だ。発注してから納品までのリードタイムが長い半導体は、いざというときに備えて十分な在庫を確保しておく必要があると、このときトヨタは認識した。この経験と長年にわたり社内に蓄積した半導体への知見と相まって、トヨタは生産が止まりかねない「有事」への抵抗力を身に着けたとされている。
ロイターが報じたところによれば、車載情報システムや高級オーディオを手掛けるハーマン・インターナショナルは、2020年11月ごろから製品に使う中央演算処理装置(CPU)やパワー半導体不足を感じるようになった、しかし、トヨタ向けに納める製品に必要な半導体については、4ヶ月分以上の在庫を調達済みだったと、ハーマンとトヨタの取引に詳しい関係者は話したという。
それはなぜか。トヨタとの間で結んでいる契約があったからだ。
そう、トヨタは東日本大震災の教訓から、もともとこの指示をメーカーに出していた。
その結果、何が起きていたか。
VWやゼネラルモーターズ(GM)、ホンダ、ステランティスなど、自動車各社は半導体の調達が間に合わず相次ぎ生産調整に追い込まれた。その中でトヨタはどうだったか。もちろん影響は出た。出たが、トヨタは会見で「半導体減産の影響は限定的」と述べている。
実際、トヨタは2021年3月期の販売計画を31万台積み増し、営業利益の見通しを54%引き上げている。
ジャストインタイム方式に注目しがちだが、こうしたBCP(事業継続計画)は、トヨタがかつて失敗したからこそ、構築できたものだ。
ただ、トヨタは在庫を持たない、サプライヤーが在庫を持つ、「これってどうなの?」という批判は当然ある。
これについてロイターによると、複数の関係者の証言として、トヨタは半導体在庫を積み増したサプライヤーに対し、毎年の原価低減活動で下がったコストの一部を還元している、という。
こうして見ると、トヨタに関しては、持たざる経営の転換は、何も今はじまったわけではなく、10年前ということになるだろう。
10年前からの取り組みを活かして、トヨタは業績を伸ばしている。そこで次は、トヨタがこの危機に打った逆転打、について解説したい。
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