河野太郎大臣のタスクフォースは、再エネ導入の制約・縦割り行政にどう挑むのか 第1回「再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース」 | EnergyShift

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河野太郎大臣のタスクフォースは、再エネ導入の制約・縦割り行政にどう挑むのか 第1回「再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース」

河野太郎大臣のタスクフォースは、再エネ導入の制約・縦割り行政にどう挑むのか 第1回「再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース」

2021年01月29日

審議会ウィークリートピック

2020年12月1日、内閣府において、河野太郎規制改革担当大臣の下に新たにタスクフォースが設置され、第1回の会合が開催された。今回の会合では、発電所建設にあたっての環境アセスの見直しと容量市場に対する意見書が注目された。環境アセスについては何が問題であり、どのような方向で解決されるのか、あるいは容量市場の意見書はどのように扱われているのか、これらについて報告する。

カーボンニュートラルに向けた規制改革がはじまる

河野太郎「内閣府特命担当大臣(規制改革)」の下に「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」が設置され、その第1回会合が12月1日に開催された。

2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて規制改革の取り組みは不可欠であるが、再エネに関する規制は多くの省庁にまたがっており、縦割り行政等に起因する構造的な課題も指摘されている。よって省庁横断的かつ網羅的にスピード感をもって取り組むため、タスクフォースは関連省庁にまたがる再エネに関する規制を総点検し、規制の見直しをおこなうことを目的としている。

タスクフォースでは、再エネの主力電源化および最大限の導入に当たっては、以下①~③の制約が存在すると同時に、④地域との共生も重要な考慮要素であることを指摘している。

①  立地制約:農地、保安林、自然公園等に係る規制、環境規制
②  系統制約:送電網の非効率的運用、再エネ接続の劣後
③  市場制約:未成熟な取引市場、過渡期的な発送電分離、不十分な情報公開
④  地域との共生:各種法令の設置基準、条例
⑤  その他 :安全・保安規制

また、タスクフォースでは、再エネの導入拡大そのものに直接的な制約を課す「個別規制課題」のみならず、脱炭素社会へのパラダイムシフトの根底に存在する「構造的課題」についても検討の対象としており、中長期的な電力・ガス等のエネルギーシステム全体の制度設計、透明性の確保、競争環境の担保等を求めている。

その上で今後の検討に当たっては、「再エネの主力電源化及び最大限の導入」、「脱炭素化の促進」、「国民負担の抑制」、「公正な競争の促進」、「需要家の選択肢の拡大」、「イノベーションの促進」、「国際的整合性や国際的に遜色のない水準の確保」という視点に基づいた検討をおこなうこととしている。

その背景には、世界で進む再エネ大量導入に日本が劣後することがあれば、再エネ関連産業の衰退につながり得るという、産業政策面での危機感がある。

タスクフォースに対してはすでに174テーマの要望が寄せられており、これらを基に今後のタスクフォース検討テーマとして以下のように整理されている。

1.立地制約に係る見直し
 1−1農地や保安林等に関する規制の見直し
   ・荒廃農地等の有効活用に向けた農地法等の見直し
   ・国有林・保安林の有効活用に向けた森林法等の見直し
 1−2環境アセスメント基準等に関する見直し

2.系統制約に係る見直し
 ・優先給電ルールの見直し
 ・再エネ発電設備の優先接続へ向けた制度の見直し
 ・地域間連系線ルールの見直し

3.市場制約に係る見直し
 ・競争促進や負担公平化に向けた取引市場の見直し(容量市場等)
 ・非化石価値取引市場等の見直しを含むトラッキング制度の整備
 ・需要家が発電事業者から再エネ由来電力をより容易に調達できる仕組みの整備

4.地域との共生に係る見直し

第1回会合では議題の一つとして風力発電を取り上げ、立地制約のうち環境アセスメントを集中的に討議した。またタスクフォース構成員4名からは連名で「容量市場に対する意見」書が提出されている。

⾵⼒発電の現状と導入拡大への課題

⽇本⾵⼒発電協会(JWPA)によれば、日本の風力発電ポテンシャルは陸上で118GW(1.18億kW)以上、洋上着床式で128GW、浮体式で424GWあると推計されているが、現在(2020年6月時点)の導入量はわずか4GW(435万kW)に留まっている(なお、FIT認定済み826万kWを含め、開発中案件は24GW程度存在する)。

JWPAでは中長期導入目標として、以下の目標を掲げている。

2030年:洋上10GW+陸上18GW

2040年:洋上30〜45GW+陸上35GW

2050年:洋上90GW+陸上40GW

JWPAでは風力発電導入拡大のために解決すべき課題として、系統制約の克服や農地法の見直し、国有林・保安林に関する規制緩和も同時に求めているが、系統制約についてはすでにエネ庁等において送電線利⽤ルールの⾒直しや系統マスタープランの策定などが検討・審議中であるため、このタスクフォースでは環境アセスメント(環境影響評価制度)の規制見直しを求めている。

⾵⼒発電に係る環境影響評価制度

環境影響評価法(環境アセス法)は、禁止や制約を目的とした法律ではなく、所轄官庁である環境省によれば「パブリックコンサルテーション・ツール」として位置付けられている。事業の実施の際にあらかじめ事業者⾃らが調査・予測・評価をおこない、その結果を公表し、市民や地⽅公共団体などから意⾒を聞き、それらを踏まえて環境の保全の観点からより良い事業計画を作り上げていこうという制度である。

図1.環境アセスのプロセスと目的


出所:環境省

しかしながら長期にわたる環境アセスが、風力発電事業化の一つの障壁となっていることも事実である。フィージビリティが不透明な事業プロセスの初期の段階において、4~5年程度の期間と数億円の費用が掛かる環境アセスをおこなうことは、事業者にとって大きなリスク・負担となっている。

環境アセスの⻑期化に伴い事業開発が遅れることにより、太陽光等の他の再エネ電源に系統接続枠を奪われた結果、系統への接続が困難となっている。ただしこれに関しては、2021年以降のノンファーム接続の導入や地内混雑ルールの見直し等により、解消が進むことが期待される。

現在のアセス法では第1種事業で1万kW以上が国による法アセスの対象となっており、平均で4.3年の期間を要している。環境省はこれまでもガイドラインの発行などによりアセス期間短縮に努めてきたが、事業者がおこなう生態系調査等に時間を要することもあることから、目標としていたアセス期間半減は実現できていない。ただし直近の案件では30ヶ月程度まで短縮されているとのことである。

環境アセス負担軽減のため、事業者側からは環境アセスの規模要件の⾒直し、具体的には現在の1万kWという第1種対象事業を5万kWとすることが要望された。法アセスを5万kW以上に変更することと同時に、1,000kW以上ではJWPA環境アセスガイドに基づいた自主アセスをおこなうこと、1万kW以上では「スクリーニング」をおこなうことで案件ごとに法アセス/自主アセスのいずれを実施するかを個別判断すること、をセットで提案している。

図2.法アセス対象規模の見直し要望


出所:JWPA

2012年に風力発電が環境アセス法の対象となった時点では、その当時すでに法アセスの対象であった地熱発電が規模要件1万kW以上であったことや、アセス法によるカバー率においてベンチマークとした水力発電が80%程度であったことから、風力においても1万kWとすることが妥当と判断された。

しかしながらその後、風力発電事業の大型化も進んでいることから、カバー率80%程度に相当する事業規模は5万kW程度となっており、規模要件の見直しが必要なタイミングとなっている。

また⾵⼒発電に適した立地は、⼯業地帯から⼭間地域と多様な地域が候補となるため、一律の規模をすべての事業に課すことは必ずしも適切ではなく、スクリーニングにより法アセス必要性の有無を判断することが効率的である。火力発電では法アセス適用対象第1種事業が15万kW以上であることも、発電種別間のバランスを欠く状態となっていると言える。

JWPAからの要望を受け、環境省は再エネ・風力発電の最大限導入を目指すため、第1種事業規模要件の見直しをおこなうこと、スクリーニングを活用することには非常に前向きである。

環境アセスはパブリックコンサルテーション・ツール

他方、諸外国と異なり日本では、地方自治体による条例アセスが存在することが特徴的であることから、法アセス、条例アセス、スクリーニング、自主アセスの役割分担等、制度全体の在り方について、検討を深める必要があるとの姿勢である。

現時点は少数ながら、環境アセスを経て運転開始に至った風力発電事業も現れつつあることから、これらの事業者や地域住民・自治体等の意見を踏まえながら、より良い案件形成につながる環境アセスの在り方を検討する予定である。

環境省によれば、環境アセス手続きを純粋に環境面での手続きと捉えるだけでなく、地域住民の合意形成、地元理解の獲得に有益なツールと位置付けることも可能であり、まさに「パブリックコンサルテーション・ツール」としての一面が評価されている。

例えば現在、清掃工場(ごみ処理場)は環境アセスの対象となっていないが、事業着手前の住民理解獲得の段階で10年程度を要するとのことである。

最近では再エネ発電所が一種の「迷惑施設」と捉えられることもあるが、丁寧な環境アセスをおこなうことが、トータルでは事業開発期間の短縮につながることもあり得る。その意味では、スクリーニングの果たす役割が一層重要になってくると考えられる。

規模要件1万kWの見直し自体はすでに既定路線であると考えられるが、タスクフォースの短期的成果を求めて1万kWから5万kWに引き上げてお終いとするのではなく、カーボンニュートラル社会における環境アセスの在り方という2050年からのバックキャスト的な思考が求められているのではないかと筆者は考える。

タスクフォース構成員による容量市場に対する意見書

第1回タスクフォースでは、構成員4名から「容量市場に対する意見」書が提出されており、その主要メッセージは、容量市場の一旦凍結である。意見書では、容量市場の必要性に対して疑義を投じており、諸外国では容量市場以外の「容量メカニズム」(例えば戦略的予備力)が導入されていることを指摘している。

また容量市場(容量メカニズム)導入の前に市場設計の順序として、需給調整市場の整備や先渡し・先物市場の拡充、発販分離などを先行させることを要望している。

さらに、容量市場の中では再エネの主力電源化に不可欠な「柔軟性」が評価されず、柔軟性に劣るベースロード電源が支援されることや非効率石炭火力のフェードアウトに逆効果となることを問題視している。

意見書を受けた資源エネルギー庁からは、その国々の実情に応じた供給量確保の手段をとるべきことや、来年度オークションに向けて入札制度の見直しをおこなう旨の回答がなされた。このテーマに関しては、第1回タスクフォースでは一旦物別れ状態であると考えられる。

参照
第1回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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