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再エネ拡大を阻害しかねない非化石価値取引の市場分割

再エネ拡大を阻害しかねない非化石価値取引の市場分割

2021/09/09

CO2を排出しない電源由来の電気の「環境価値」を取引する「非化石価値取引市場」が、早くも大幅に見直され、2つの市場に分割されて運用される。目的は、再エネの調達を必要としている企業への対応であり、より安価にCO2排出削減ができるようにするためだ。しかし、新制度は、かえって再エネの普及拡大を阻害するのではないかという懸念もある。どういうことなのか、エネルギージャーナリストの木舟辰平氏が解説する。

需要家の非化石証書の直接購入は可能になるが・・・

2021年度から、高度化法義務達成市場と再エネ価値取引市場という2つの市場に分割される非化石価値取引。高度化法義務達成市場は8月末に初取引が行なわれ、再エネ価値取引市場も11月下旬の初取引に向けて準備が進んでいる。需要家が非化石証書を直接購入できるようにすることが制度見直しの主眼だが、両市場の詳細設計の議論を通して浮かび上がってきたのは、新制度が再生可能エネルギーの新規開発の阻害要因になりかねないという本末転倒な構図だ。

非化石価値取引市場はそもそも、エネルギー供給構造高度化法により小売電気事業者が義務付けられた2030年度の非化石電源比率44%という目標の達成の確実性を高めるために創設された。原子力や大型水力を持たない新電力も同市場で非化石証書を購入することで、目標の達成が可能になる。こうした制度創設の目的を踏まえ、取引の買い手は小売事業者に限定された。

一方、非化石証書への需要家の関心はここ数年で大きく高まっている。特に海外で事業展開する製造業者にとって、非化石価値が付与された再生可能エネルギーの購入拡大は重い経営課題だ。そのため、彼らから非化石価値の調達コスト低減を目的に、証書を直接購入したいとの声が強まっていた。

そのため、経済産業省は産業政策の観点からも何らかの対応を迫られた。小売事業者による高度化法の義務達成を後押しするという制度の根幹は維持しつつ、需要家の要望にも応える。こうした難問に対して出された答えが、市場の2分割だった。非化石価値取引市場はFIT証書に加えて20年11月から非FIT証書の取引が始まり、制度全体がようやく本格的に動き出したところだったが、早くも「大改革」が実施されることになった。

問題は引き下げられた非化石証書の最低価格

非FIT証書は高度化法義務達成市場、FIT証書は再エネ価値取引市場でそれぞれ取引される。両市場の詳細設計の中で高い関心を集めた論点の一つが約定価格の最低価格だった。

従来の非化石価値取引市場では、FIT証書は1.3円/kWhで、非FIT証書は最低価格の設定はなかった。FIT証書に最低価格が設けられたのは、証書収入によりFIT賦課金の国民負担を軽減させるとの政策目的もあったからだ。約定価格があまりにも低いと軽減効果は微々たるものになるため、最低でも1.3円という枠がはめられた。

非化石価値取引は現時点では供給過剰に大きく振れているため、FIT証書は最低価格に張りつく取引が続いていた。その結果、1.3円は非FIT証書の上限価格としても実質的に機能してきた。

だが、市場分割後の取引では、FIT証書と非FIT証書の価格水準が逆転することになる。先行して詳細設計が進んだ非FIT証書の最低価格は、相対取引の価格動向を参考にして0.6円で決着した。8月末に実施された初取引では、「再エネ指定なし」証書が0.7円、「再エネ指定あり」証書が0.6円で約定した。

一方、FIT証書の最低価格はまだ決まっていないが、0.6円を下回ることは確実だ。資源エネルギー庁は8月27日、電力・ガス基本政策小委員会の制度検討作業部会に「0.3~0.4円を基本として検討を深める」との案を提示した。

問われているのは再エネの追加性

非化石価値をできるだけ安価に調達したいという大口需要家の要望が今回の市場分割の出発点であることを考えれば、FIT証書の最低価格の大幅な引き下げは当然だと言える。実際、梶山弘志経済産業相は5月の時点で、価格水準について「10分の1くらいに引き下げる」と発言している。

問題は、このことが再エネの新規開発に及ぼす影響だ。再エネ発電事業者などからは懸念の声が噴出している。8月26日に確定版が公開された制度検討作業部会の第5次中間取りまとめへのパブリックコメントでは「追加性のある非FIT再エネの普及拡大を阻害するという大きな副作用が生じる」「2050年カーボンニュートラルに向けた再エネ普及拡大の妨げになり得る」といった指摘が多く寄せられた。

どういうことなのか。関係者が危惧するのは、次のようなシナリオだ。大口需要家は、RE100などの目標達成の手段として、価格が安いFIT証書を優先して調達するようになる。ただ、稼働済みのFIT電源の非化石価値を購入しても、その需要家の消費する電気の環境性が上がるだけで、日本全体の電気の低炭素化が進むわけではない。電気の低炭素化を進めるには当然、再エネの導入拡大が必要だが、FIT証書により自社の消費電力の再エネ化を実現した需要家には、より高いコストを負担して追加性のある非FIT再エネの開発を支える動機がなくなる。来年4月のFIP導入など制度が脱FITへと転換する中、需要家の協力が得られない再エネの新規投資は困難になる――。

新たなエネルギー基本計画では、30年に36~38%という新たな再エネ比率目標が設定される。再エネの主力電源化に向けて、非FIT再エネの最大限の導入拡大は、まさに国家的課題といえる。非化石価値取引の市場分割は、その流れに逆行してしまうのだろうか。

木舟辰平
木舟辰平

エネルギージャーナリスト。1976年生、東京都八王子市出身。一橋大学社会学部卒 著書:図解入門ビジネス 最新電力システムの基本と仕組みがよ~くわかる本