今まさに起こっているEVシフト 注目は「軽EV」:平井陽一朗のテスラに乗って 第8回 | EnergyShift

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今まさに起こっているEVシフト 注目は「軽EV」:平井陽一朗のテスラに乗って 第8回

今まさに起こっているEVシフト 注目は「軽EV」:平井陽一朗のテスラに乗って 第8回

2021年12月13日

前回は、脱炭素化の流れを受けた企業の動きを紹介しました。では、個々のユーザーレベルでのモビリティ事情はどう変わっていくのでしょうか?

大企業の変革や事業創出をご支援する私の感覚としては、今後は市場に魅力的な電気自動車(EV)がどんどん出てくるため、個人レベルでも確実にEVへの置き換えが進むだろうと予測しております。ただ、その一方で、そのスピード感については、はっきりと明言しがたい、というのが正直なところです(個人的には変化が早いことを期待していますが)。

変化は緩やかかもしれない、と考える3つの理由

EVの普及が緩やかなスピードに留まるかもしれない、と思う理由は大きく3つあります。それは、価格の高さ、充電の不便さ、そしてハイブリッドの優位性です。

1つめの理由はシンプルで、現状のBEVは高額すぎるということです。前回も述べた通り、欧州系のメーカーからは魅力的なBEVがいくつも出てきています。例えばポルシェのタイカンは、アメリカではテスラをしのぐ売れ行きだと言います。

また、先日ポルシェジャパンの幹部の方と対談させていただく機会がありましたが、彼らは日本でのBEVの普及に力を入れており、テスラを超えるスピード感で専用急速充電所の設置を進めていると聞き驚きました。しかし、テスラもポルシェも結構な値段がする高級車であることは言うまでもなく、手が届く人はわずかでしょう。


参考資料出典:ポルシェ ジャパン株式会社 © 2021 Porsche Japan KK

2つめの理由は、BEVの代替手段の1つであるハイブリッドカーが、脱炭素化に寄与でき、かつ現状のBEVよりも充電の利便性がはるかに高いということです。例えば、私はドライブが好きで、先日もハイブリッド車で片道400km以上を走って弾丸で一人旅をしたのですが、道中で給油や充電を心配することはほぼありませんでした。ハイブリッドモードで普通に運転して、一度も給油する必要なく帰宅できたのです。

以前テスラに乗っていた頃は、常に「電欠」を心配しながら、充電所を探しまわり、何十分も(累積すれば何時間も)かけて充電していました。充電時間をあらかじめ旅程に組み込んでいても、充電所に運悪く先約がいたりすれば、あとの旅程が全部ズレこんで、予約した飲食店に間に合わないこともよくありました。

そのようなことを考えると、やはりまだBEVは端的に言って不便なんだなぁ、とつくづく思います。いくら脱炭素化が叫ばれても、テスラの理念に共感できても、不便なものはやはり不便なのですね。代替手段として、ハイブリッドカーが脱炭素化に寄与でき、かつBEVよりも給油や充電の利便性が圧倒的に高い以上、ハイブリッドカーが今後も普及することはあっても、BEVがそれを上回る勢いで普及するかはまだ微妙かもしれないなぁ、と改めて感じています。

手の届く価格帯のBEVの選択肢が豊富にあり、かつ充電の面倒くささも少ない。そのような世界が来るには、最低でもあと数年はかかると思います。なので、一気にBEVに塗り替わるというよりは、まずはPHEVやハイブリッドカーのさらなる普及があり、それに伴って充電所が徐々に拡充するといった段階を踏んで、緩やかに普及していくのではないかと個人的には見ています。

ご参考までに、政府が取りまとめた2030年の次世代自動車の普及目標によると、ガソリン車やディーゼル車の比率を、2020年の約60%から、2030年までに30~50%と半減を目指す一方で、残り50~70%を占める次世代自動車のうち、半分近くをハイブリッド車が占める(30~40%)という見立てとなっています。

ですから、今BEVへの買い替えをご検討中の方は、本当にBEVにするかどうかは自分の生活スタイルを十分に考慮してからの方が良いと思います。

EVへの転換は意外に早いかもしれない2つの理由・・・次ページ

平井陽一朗
平井陽一朗

BCG Digital Ventures Managing Director & Partner, Head of Asia Pacific & Japan 三菱商事株式会社を経て2000年にBCGに入社。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパン、オリコンCOO(最高執行責任者)、ザッパラス社長兼CEO(最高経営責任者)を経て、2012年にBCGに再入社。キャリアを通し、一貫して事業開発に関わっており、特にデジタルを活用した新規事業立ち上げを多く主導。 BCGハイテク・メディア・通信グループ、およびコーポレートファイナンス&ストラテジーグループのコアメンバー。メディア、エンターテインメント、通信業界を中心にアライアンス、成長戦略の策定・実行支援、特にデジタル系の新事業構築などのプロジェクトを手掛けている。 また、BCG Digital Ventures 東京センターの創設をリードし、2016年4月の同センター開設後は、マネージングディレクター&パートナー、およびジャパンヘッドとして、2021年からはアジア・パシフィック地区のヘッドとして、新規事業アイデアの創出、新規事業の出資を含めた立上げなどを幅広く手掛けている。同デジタルベンチャーズ出資先数社の社外取締役を兼務。

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