European Green Dealで発表されたハイブリッド車禁止の衝撃 | EnergyShift

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European Green Dealで発表されたハイブリッド車禁止の衝撃

European Green Dealで発表されたハイブリッド車禁止の衝撃

2021/07/16

2021年7月14日、EUが発表したEuropean Green Dealは各方面に衝撃を与えている。EUの域内でさえ、これからさまざまな議論が起こるだろう。では、そのEuropean Green Dealは日本の自動車産業にどのように影響を与えるのか。ゆーだいこと前田雄大が独自に分析する。

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欧州が発表をしたEuropean Green Dealとガソリン車販売禁止の中身とは

7月14日、欧州連合欧州委員会はEuropean Green Dealという政策パッケージを発表した。これはEUの本格的な脱炭素政策パッケージとなる。これまでも欧州はEUグリーンニューディールとしてさまざまな政策を打ち出してきており、脱炭素化を進め、社会の移行を行い、雇用も生み出しながら成長をしていく、という基本的な考え方は変わっていない。アメリカなどもこうした方針(グリーンニューディール)を示しており、日本のグリーン成長戦略もこうした世界の潮流の中にあると言えるだろう。

グリーンニューディールとは、経済対策でもあり、気候変動対策でもある。欧州は脱炭素化が進んでいることもあり、この気候変動対策を旗色鮮明にし、CO2排出を悪として自分たちの有利な方向に持っていこうとしていると筆者は見ている。気候正義(クライメイト・ジャスティス)という言葉があるが、まさしく気候変動を「正義」にし、その裏の政策を正当化する、という手法をEUは取ってきていると見る。

本来の気候正義はまっとうな意味での気候変動を推進する意義、責任の所在、将来世代へ不利益が出ないようにするということを指すが、筆者は欧州のやり方こそ、この言葉を今一度見つめ直してほしいと思っている。

今回のEuropean Green Dealは包括パッケージなので、さまざまな分野について、脱炭素指針が示されている。その一つとして、自動車セクター関連で明らかになったのが、2035年のガソリン車(新車)販売の禁止だ。


EU Make Transport Greener 資料より

EUの図(上図)を見てみよう。乗用車とバンタイプの車、それぞれについて2025年、2030年のターゲットが示されている。注目は 2035年、乗用車もバンも100%目標となっている。つまり、2035年、乗用車、バン、ともに新車についてはCO2排出を100%削減、つまり1ミリもCO2を出してはならないということだ。

もちろん、ガソリン車は販売禁止だが、問題はハイブリッド車。CO2排出0のハイブリッドは実現が困難なため、これは実質、2035年に欧州はハイブリッドの新車販売を禁じた、ということになる。

これまで欧州では、ハイブリッド車禁止はサステイナブルファイナンス(金融)のタクソノミー(類型)で議論をしてきた。明示的に「ハイブリッド車」という項目をどうするのか、という議論が行われていたのだが、今回、直接的にはハイブリッド方式にはふれていない。ここがずるいところで、味噌だ。つまり、彼ら(EU)は特定の車を禁止したわけではなく、あくまでも「CO2排出」の量を定義した、という形を取ってきているのだ。

ただ、現状、100%CO2排出削減ができる車はEVかFCVのみになる。したがって、実際はハイブリッドを禁じたのだが、直接アナウンスをすると問題なため、「気候変動対策」の笠を着せてきたわけだ。前述の「欧州の気候正義の使い方」がこれだ。

もちろん、今回の全体パッケージでは気候変動対策をする施策がほかにもさまざまに発表されている。

たとえば再エネは2030年までに40%目標とする、エネルギー効率を36%に引き上げ、さらに原生林からのバイオマス木材調達の禁止、排出量取引制度でのCO2排出量2030年に61%に削減(2005年比)。水素についても40GWの水電解装置の導入、1,000万トンのグリーン水素の製造などの目標設定、建物は2030年までに49%を再エネでという目標を立てる、などなどだ。

包括的な脱炭素パッケージの中でも、仔細に見ればEUとしての意図しているものが見えてくる。まさにそうした論点のうちの一つが今回の車に関するCO2排出をゼロにする=ハイブリッド撤退。これは完全に日本勢潰し、特にトヨタを狙いに来たと見ていいと筆者は思う。

EUのトヨタ潰しの構図

トヨタは今年の決算報告でも、ついにトヨタが脱炭素に動いたということで、筆者は評価をしていた。しかし他方で、ハイブリッドも含めて世界でどのようにシェアを取っていくのかは現実的な数字を決算報告でも出していた。

欧州市場については、BEV(EV)と、FCV、合わせて2030年までに40%。HEV、PHEVも含めた比率は100%とし、ハイブリッドを含めた電動化率で100%、と考えてきた。つまり2030年段階でも6割はHEVやPHEVを売る考えだった。というのも、欧州全体を見ると、必ずしもフランスのようにガソリン車禁止を発表している国だけではない。HEVの市場はまだあると見込んでいた。欧州の厳しい燃費規制をクリアできる車はそんなにないので勝負になる、とトヨタは見込んでいた。実際、去年、欧州でヤリスがカー・オブ・ザ・イヤーで表彰されたように、トヨタは十分勝負できていた。

これを、今回の発表で欧州は封じに来た。では、どのくらい影響を受けるのか。今年の決算をみると、トヨタの販売台数の10%以上は欧州市場にあるのが分かる。これらが直に影響を受ける。

欧州における現在のEVシェアを見てみよう。

Clean Technica

1位がVW。2位にテスラ、3位ルノー、4位プジョー。こうした欧州勢を盤石にしつつ、欧州企業にはインセンティブをつけながら、欧州市場をテコに世界を取りに行く参段なのだろうと筆者は見ている。ただ、トヨタも後発ながらEVに本腰を入れてきている。トヨタなど日本勢のEVが欧州EV市場でも強みを発揮したときに、どうするか、そこまでを欧州は当然考えているだろう。

そこに関係してくる論点は、国境炭素税措置だ。

英語ではCarbon border adjustment mechanism、直訳すると国境炭素調整措置。これは早い話が関税だ。他国から欧州域内に製品が入ってくるとき、その製品の炭素が排出された割合に対して炭素価格を載せるというものになる。制度の趣旨は、温暖化ガス排出削減の厳しい目標を持つEUと、規制の緩い他の地域では同じ製品をつくるにしてもコストに差が出るため、域内外で公平な競争環境を守るというもの。加えて、(他国から輸入した)欧州で使用される製品が炭素比率が高い場合において、世界の気候変動を食い止められない、という体をとっている。

しかし、これは早い話が自国産業保護。その代わり、欧州が脱炭素をしていないと、「おかしいじゃないか」となるわけだが、そこは元々脱炭素を進めていた欧州だからこそかざせる気候正義なわけだ。

この制度は2023年からの3年間は移行期間となっており、2026年から本格導入され、支払いが発生する。ちなみに、国境炭素税を財源にEUが得られる収入は、2030年時点で、年91億ユーロ(約1.2兆円)と見込まれており、かなりの額になる。

最初に対象となるのは、セメント、鉄、アルミニウム、肥料、電気だ。セメント、鉄などは直接石炭などを使うが、ポイントはアルミや電気だ。アルミニウムは生成にかなり電気を使い、電気は、脱炭素製品そのもの。

つまり、電気の炭素系数を欧州は攻めてきているのが分かる。自分たちの電気の炭素系数が低いことをうまく活用しつつ、気候変動対策を進めていることで、他の電源は(国境炭素税の課税があるため)コスト競争力がないとしている。つまり、自国産業保護政策を打ちながら、相手の力を削ぐというやり方になっている。

欧州の二の矢、三の矢

もちろん、露骨な自国産業保護であるから収入も出てくる。さらにEUは今後、国境炭素税の課税範囲を広げるといっている。となると「電気を多く使う製品」について、その課税対象としてくることは容易に見えるだろう。

この脱炭素覇権争いの時代に、自動車分野で一の矢(HV禁止)をまず打ってきた。果たして、それで収まるのか? 欧州が、そんなわけはないと筆者は断言する。では、2の矢は何か。EVで重要なパーツといえば、「蓄電池」。しかもこの蓄電池は製造に相当量の電気を使っている。域外で生産された車載用蓄電池を使っている場合には、炭素税をかけてくることになるだろう。トヨタがEV転換できたとしても、この2の矢でEUは戦えると筆者は思っている。

ちなみに欧州は域内の蓄電池戦略を練っており、多額の支援をしてきている。一見、関係のなさそうな、でも時間軸をうまくずらしながら、1の矢、2の矢、3の矢を打ってくるこの感じはまさに欧州のやり口と筆者は感じでいる。

トヨタは欧州に工場を多く持っているが、それでも2020年実績で20万台を超える台数を欧州に輸出している。トヨタだけでなく、例えば日産もリーフは日本国内の製造であり、影響を受けるだろう。製品仕様でEUグリーンニューディールに適合しても、製品の炭素系数が高ければ、関税(国境炭素税)がかかってきて、競争力を削ぐつもりでいるわけだ。

自動車に関しては日本を狙い撃ちした感があるが、産業全体では日本だけの論点ではない。中国は当面、脱炭素に大きく舵を切ることはできないため、中国製品はどうしても炭素系数が高くなる。

つまり欧州とその他の地域の炭素系数の相対性をうまく活用して、産業保護をする、ここに狙いがある。したがって、日本でも脱炭素を国全体で進める必要が出てくる。国の脱炭素政策が必要だと筆者が常々主張するのは、こういう背景があるためだ。

欧州の攻め手に対しての日本メーカーの勝ち方は

今回のEUグリーンニューディール政策とその狙いに対する日本企業の勝ち方は、と問われると、非常にシンプルだが、カーボンニュートラルの取組みを自社で推し進める、ここにつきる。日本全体の脱炭素比率とは関係なく、例えば工場が脱炭素されていれば、炭素系数は低くなる。

パナソニックが2030年までの自社カーボンニュートラルを発表した。例えば、トヨタが搭載するバッテリーをパナソニックが作ったとして、そのバッテリーの炭素系数が低ければ、トヨタはその恩恵を被ることになる。パナソニックは2030年、トヨタは2035年に自社カーボンニュートラルを宣言しており、トヨタはサプライヤーに対しても年率3%の脱炭素要求をしている。このあたりは元々、サステイナブルファイナンスの論点でハイブリッドが欧州では危ういということも見えていた。トヨタは情報網も駆使して動いていた、というところもあるだろう。

ただし、今よりもさらに加速させる必要はあるだろう。これだけEUに露骨に仕掛けられたことで、逆にこれがトヨタを始めとする日本企業のEV転換、脱炭素転換を早める契機にもなるとも、実は筆者は思っている。脱炭素に関しては目覚めつつある獅子を完全に起こす出来事になるのではないか。ここで起ききって、力ある獅子ぶりを日本勢には発揮してもらいたい。

今回のEUの動きはあくまで立案して公表した段階。これから加盟国や欧州議会の承認が必要な最終決定というプロセスがある。欧州も色々な国があり、調整がどうなるのかは注視していきたい。いずれにせよ、今日はこの一言でまとめよう。

『欧州の露骨なHV外し 日本勢の奮起に期待』

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボール出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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