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LNG不足は本当に日本の電気・ガス料金に大打撃を与えるのか

LNG不足は本当に日本の電気・ガス料金に大打撃を与えるのか

昨冬、電力のスポット市場価格高騰で注目されたのが、LNG(液化天然ガス)の高騰です。昨年に引き続き今年もLNGの価格は上昇しており、日本でも電気料金に多少の影響を与えています(日本の場合、原油価格の影響が大きい)。とはいえ、このようなLNG価格の高騰は、これからも続くのでしょうか。

エナシフTVスタジオから(11)

日本のLNGのはじまり

LNGとは液化天然ガス(Liquefied Natural Gas)の略です。欧米では一般的に天然ガスはパイプラインで供給されています。しかし海外のガス田からのパイプラインがない日本は、液化してLNG船で運ぶ必要があります。

日本がLNGを輸入しはじめたのは、1969年です。東京電力と東京ガスが最初に共同で輸入しました。東京ガスは当時、石炭やナフサなどを改質して製造したガスを供給していましたが、これには一酸化炭素が含まれており、毒性がありました。したがってガス自殺も可能だったのです。これをクリーンなガスにしたいと考えていました。

一方、東京電力(当時)もクリーンな発電所の建設を検討していました。当時、東京湾周辺の工業地帯は大気汚染がひどく、その原因の一部は主に石油火力発電所でした。LNGは燃焼時には硫黄酸化物を排出せず、窒素酸化物も少ないので、クリーンな発電燃料として期待されたのです。しかし、LNGは割高なため、当時の東京電力の役員は反対したといいます。それでも輸入に踏み切ったのは、当時の木川田社長の決断だったといいます。

こうして東京ガスの根岸基地にLNGが輸入され、隣接する東京電力の南横浜火力発電所の燃料として使われました。

LNGは最初、特別なものだった

LNGはパイプラインによる天然ガスの輸送と比べると、液化などで手間もエネルギーもかかります。下はLNGチェーンを示したものです。高度成長時代の日本だからこそ、購入する決断ができたのかもしれません。

LNGチェーン

とはいえ、韓国や台湾などでもLNGの需要が増加する一方、オーストラリアやインドネシア、マレーシアなど東南アジア、オセアニアの産ガス国が生産を拡大することで、LNG貿易は徐々に拡大していきます。さらに近年は中国が輸入を増やす一方で、ロシアのサハリンからの輸出や、米国のシェールガスの輸出なども増えています。天然ガス全体の貿易量が増加する中、LNGはより高い割合で増加し、2019年には天然ガス貿易のおよそ3分の1となっています。

日本のLNGの6割は発電用

LNGは主に都市ガスの原料とLNG火力発電所の燃料として使われています。日本の一次エネルギーの2割がLNGです。用途で一番多いのは発電用で、全体のおよそ6割に相当します。

天然ガスの用途別消費量の推移


出典:経済産業省

ただし、近年は需要が減少しています。発電用の減少が目立ちます。これは、電力の需要そのものが下がったというよりも、太陽光発電の増加で日中の発電量が減少したというのが、主な理由でしょう。ピーク時よりも100万トン以上も減少しています。そして、電力広域的運営推進機関によると、今後もLNG火力発電所の稼働率は下がり、したがって発電用燃料としてのLNGは需要が減っていくということになります。

LNG火力発電所は石炭火力発電所と比較すると、出力の調整がしやすいため、再エネの増加が反映されやすいということでしょう。その点、石炭火力発電所の稼働率はあまり下がらないので、その点は問題だといえます。

長期契約でLNGを買ってきた日本

最近、海外で天然ガスの価格が上昇しており、電気料金の値上げにもつながっています。電気料金が上昇しているのは日本だけの話ではありません。とはいえ、欧米と日本の状況は少し異なっています。

天然ガスの価格が急騰しているのは、主に欧州とアジア向けのスポット価格です。米国の天然ガスの価格も上昇していますが、LNGや欧州のスポット価格と比較するとはるかに低い水準です。

一方、日本はLNGのほとんどを長期契約で買っています。したがって、この長期契約分については高騰ということにはなっていません。元々、安くなかったのですが、その分だけリスク回避のために支払ってきたとはいえるでしょう。


出典:JOGMEC

グラフにしめされているように、日本は2020年半ばまでは、割高なLNGを輸入してきました。スポット市場から買えばもっともっと安くなるし、結果として電気料金を下げることができるのではないかという指摘もされてきました。また、実際にスポット取引を少しずつ増やしてきたこともありました。しかし近年はLNG需要が減少し、日本に限ればスポット取引は減少し、2019年度では短期取引と合わせても12.6%となっています。

また、日本のLNG調達では、ほとんどの場合でTake or Pay条項がついていました。これは、毎年決まった数量を購入し、もし購入しない場合でも代金を支払うという契約です。買う側には不利な条項ですが、LNGプロジェクトは多額の資金を必要とするので、リスクを減らす必要があるということです。もっとも、ほとんどの場合はMake Up条項もセットになっており、数量を翌年に繰り越すことができます。

確かに日本は以前であれば高いLNGを買ってきたといえるでしょう。資源小国にとっては、多少高くても安定供給が優先していましたし、買っている企業も公益事業者なので価格への転嫁もしやすいということもいえます。

また、その結果として。昨冬の天然ガス急騰も、それ以上となる今年の急騰も、日本のLNG価格への影響は限定的なものになったといえます。

さらに付け加えると、日本のLNG価格は原油価格との連動が一般的なので、その点からも欧州の高騰とは様相が異なっています。

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もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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