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日本の低炭素国仲間入りには更なる原子力活用も視野に シリーズ:カーボンニュートラルと原子力発電(2)

日本の低炭素国仲間入りには更なる原子力活用も視野に シリーズ:カーボンニュートラルと原子力発電(2)

2021年11月01日

気候変動対策となるゼロカーボン電源として、再エネのみならず原子力発電に対する期待がある一方、否定的な意見も多い。では、原子力発電はどのように評価されるべきなのか。長年この分野にかかわってきた、村上朋子日本エネルギー経済研究所戦略ユニット原子力グループマネージャーは、温室効果ガス排出削減の具体的な目標に対し、冷静な対応として原子力発電の役割を評価する。

世界主要国のカーボンニュートラルと原子力はどうなっているか

2019年から2021年にかけて世界主要国が相次いで「2050年(ないしは2060年)のカーボンニュートラル」を目指す旨を発表した。2020年10月には日本でも菅首相(当時)が「2050年にカーボンニュートラルを目指す」と宣言した。2050年までのカーボンニュートラル実現を表明した国は、2021年1月時点で日本を含む124か国(+EU)にのぼっている*1

これらの124か国の電力構成は様々である。フランスのように電力に占める原子力発電の割合が73%(2020年)と高い依存をしている国もあれば、イタリアのように原子力を使用しておらず今後も当面の利用の予定はない国もある。

これらの国が揃って「2050年カーボンニュートラル」を宣言していることから、果たして原子力はカーボンニュートラル達成にあたり必須なのか、という疑問も生じるであろう。

「原子力推進派の方々は二言目には“2050年カーボンニュートラルを実現するためには原子力を最大限活用していくことが望ましい”と述べる*2が、べつに原子力を最大限活用しなくともカーボンニュートラル達成は可能なのでは?」のように。

本稿ではこの疑問を読者各位に考えて頂くための情報を提供し、併せて筆者自身の感触も示すこととする。

現在の極低炭素国の主要電源はどうなっているのか?

2020年の原子力利用国31か国について、電力に占める原子力発電の割合を横軸に、再生可能電源の割合を縦軸にプロットしたグラフを図1に示す*3

図1:Share-of-Nuclear-Renewables-by-country

原子力及び再生可能電源の比率の合計がその国のゼロカーボン電源比率となる。ここではゼロカーボン電源比率が90%以上の国を「極低炭素国(Super Low-carbon Countries)」、同70~90%の国を「低炭素国(Low-carbon Countries)」、同50~70%の国を「炭素依存国(Middle-carbon Countries)」、同50%未満の国を「炭素高依存国(Heavy-carbon Countries)」と呼ぶ。

2020年時点で極低炭素国は、原子力利用国のうちでもフランス、カナダ、スイス、スウェーデンの4ヶ国しかない。エネルギー消費量の多いG7各国については、上述のカナダと、ドイツ及び英国が「炭素依存国」である以外は全て炭素高依存国である。

原子力を利用していないイタリアの再生可能エネルギー比率は37%(2020年)であり、電力の約44%を天然ガスに依存しているから、イタリアも炭素高依存国に入るであろう。なお、極低炭素国であるカナダ、スイス、スウェーデン、フランスのいずれも国内で発電する電力の数%から10%程度を毎年輸出していることも要注目である。

極低炭素国及び低炭素国はなぜ、そのカテゴリーに居られるのか。各国の個別エネルギー事情からその片鱗が伺えよう。

まずカナダであるが、自国で消費するエネルギーの数倍の化石燃料を産出し、米国他に輸出している資源国であると同時に、豊富な水力資源も有している。75%の再生可能エネルギーのうち66%は水力であり、風力等の変動型再生可能電源はまだ9%に過ぎない。

フランスは世界第2位の原子力設備容量を有する世界有数の原子力大国である。国内の天然資源が少ないことからフランスは早期に原子力の技術開発に着手し、1960年代には既に現在主流の軽水炉技術を確立していた。1980年代には更なる改良により1960年代までに建設された多くのプラントをリプレースし、現在それらが基幹電源となっている。

スイス及びスウェーデンも国内化石燃料に乏しく、1960年代後半から原子力導入を進めて基幹電源としてきた経緯がある。更に両国とも電力の半分以上のシェアを占める豊富な水力資源があり、化石燃料をほとんど使わなくとも済んだ。豊富な水力資源という特徴は低炭素国の一角であるブラジルにも共通している。スロベニアやスロバキアも水力資源が比較的あるが、両国とも原子力が最大シェアの基幹電源であり、電力の低炭素化にはその両方が寄与している。

原子力不在でのカーボンニュートラルは、日本にとって相当なチャレンジ

以上をまとめれば電力部門の低炭素化の要素は、豊富な水力資源があるか、原子力を積極的に導入利用してきたか、ないしはその両方であるといえる。太陽光や風力のような変動型再生可能電源が40%以上のシェアを有している国は、G7ではドイツ(42%)のみである。そのドイツも水力シェアが3%と低いこと、かつては30%近くを占めていた原子力比率を徐々に下げて12%となっていることから、電力全体では低炭素国の仲間入りをするに至ってはいない。

太陽光や風力といった変動型再生可能電源は適地が地形や気候に大きく依存し、どこの国でも基幹電源になり得るわけではない。

中国、米国、ロシア、インドといった東西にも南北にも広い国土を有する国であれば今後も条件の良いところに集中立地することは可能であるが、東南アジアや東アジアのような島の多い地域、中東やアフリカといった砂漠や高山の多い地域では設置にあたり送電網も含めた課題が多いであろう。

そして、今後、人口が増加し経済活動に伴う温暖化ガス排出量も急増していくと考えられているのはまさにそのような地域の新興国である。

10月22日、日本政府が第6次エネルギー基本計画閣議決定と併せて発表した「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」資料では、2030年の目標電源構成は図2のようになっている。

図2:電源構成

再生可能エネルギーを36~38%、原子力を20~22%とし、その合計で非化石電源を59%としている。現在の非化石電源比率が24%であることから考えれば相当に野心的な目標であるが、それでも上述の低炭素国の仲間入りはできず、炭素高依存国を脱して炭素依存国に入るのがやっとである。

日本が2050年カーボンニュートラルに向け、非化石比率70%超の低炭素国に仲間入りしようと思えば、水力資源には限界があるので、変動型再生可能電源に加え水素やアンモニアといった非化石燃料による火力発電、更なる原子力の活用も視野に入れる必要があろう。そのための技術開発や規制の変更等にかかるコストも当然、利用者としては負担しなければならない。

「カーボンニュートラル」を叫ぶことと、それを実践することの間には大きな隔たりがある。原子力なくしてカーボンニュートラル達成可能かと今聞かれれば、不可能ではないにしても相当なチャレンジであると答えるしかない。その覚悟を皆さまと共有したい。

シリーズ第1回『原発は「エース」から「控え」に:過度な期待は危険、依存度は下げるべき』はこちら

*1:資源エネルギー庁、「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの? 2021年2月16日 

*2:例えば2021年10月22日の「第6次エネルギー基本計画」閣議決定に当たり、日本原子力産業協会は新井理事長名で声明を発表し、エネルギーシステムの脱炭素化における原子力の貢献に対する期待が示されたことを評価している。

*3:IEA, Energy Balances 2021
原子力利用国33か国のうち、UAEは2020年8月、ベラルーシは2020年11月、それぞれ国内初の商業用原子力発電所から送電開始したため、上記の統計には含まれていない。また各国の電源別比率は電力の輸出入を含んでいるため、発電量の合計が100%を超えることもある。

ヘッダー写真:Triglav, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

村上朋子
村上朋子

東京大学工学部原子力工学科、東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻修士課程修了、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了、経営学修士。 1992年、日本原子力発電(株)、2005年、(財)日本エネルギー経済研究所、2011年より戦略研究ユニット 原子力グループ マネージャー。 研究分野は原子力工学(炉心・燃料設計及び安全解析)、原子力政策、原子力産業動向、低炭素技術開発動向、企業経済学、財務分析。 著書・論文に『激化する国際原子力商戦-その市場と競争力の分析』(エネルギーフォーラム、2010年)『原子力産業における人材確保の今昔と今後の展望』(日本原子力学会誌2019年3月号、2019年)『原子力事業は「普通」という意識』(日本原子力学会誌2020年6月号、2020年)『日本の原子力産業の国際展開再挑戦はあるか』(日本原子力学会誌2021年3月号、2021年)『原子力年鑑2021』Part I [潮流・海外編] (日刊工業新聞社、2020年)、A historical review and analysis on the selection of nuclear reactor types and implications to development programs for advanced reactors; A Japanese study, Energy Reports, Volume 7, November 2021など。

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