DACはここ数年で実用段階に入り、スイスのベンチャーであるクライムワークス(Climeworks)が商用化に成功している。同社は、2017年にCO2を回収し貯蓄するDACCSを商用プラントとして世界で初めて稼働させ、昨年2021年9月8日、大気中のCO2を取り出して地中に永久的に貯留するプラント「オルカ(Orca)」を稼働させた。年間最大4,000トンのCO2の抽出が可能で、CO2の回収量は現時点で世界最大といい、隣接する地熱発電所が生む電力によって全ての動力をまかなう。取り出したCO2は連携するアイスランドの企業が開発した技術により地下に埋める。
カナダのスタートアップ、カーボン・エンジニアリング(Carbon Engineering)も年間100万トンを回収するDAC施設の建設を米国内で進めている。2026年の稼働を目標に、2022年から建設する予定だ。
米グローバルサーモスタットは、カリフォルニア州とアラバマ州にパイロットプラントを持ち、新たにコロラド州に実験プラントを建設中だ。
また、DACをはじめとした、排出するよりも多くのCO2を除去するカ-ボンネガティブ技術へ巨額な投資も行われている。2020年1月にはマイクロソフト社が、炭素削減・回収・除去技術のために10億ドルの気候革新基金を設立すると発表。同社は2050年までに「1975年の創業以来、われわれが直接または電力消費によって排出してきたすべての炭素を環境から除去する」という目標を掲げている。
2021年1月には、テスラのCEOであるイーロン・マスク氏が、米のXプライズ財団が主催する大気中や海中などからCO2を回収する技術をテーマにしたコンテスト「カーボンXプライズコンテスト(XPRIZE Carbon Removal)」に賞金総額1億ドルを出資すると発表した。このコンテストでは、参加団体が2021年から4年間かけてCO2を大気や海中から回収する技術を競う。これにより、DACの技術向上を図る予定だ。
では、日本におけるDACの取り組みはどうか、現状をみてみよう。
日本では、海外と比較すると実用化で後れをとっている。そんな中、川崎重工業は、これまで有効利用が困難だった低CO2濃度ガス中のCO2を、特殊な固体吸収材を用いて省エネルギーで回収することに成功した。これまでに500グラムを回収する小型機で試験を行ってきており、2025年にDAC回収装置の実用化を計画している。
三菱重工では、2022年の4~6月をメドにDACの実証試験を開始する。他の企業と共同開発中の独自の固体吸着剤を使用し、1日に数十キログラムのCO2を回収する実証を研究所内で始め、2025年にはさらに規模の大きな1日数トンを回収する実証プラントを立ち上げるという。また、CO2を転換利用するための装置の需要が見込まれており、次世代エネルギーとして有力視される水素やアンモニアへの燃料転換を加速する方針だ。
日本政府も関連技術の開発支援を進めている。2020年に政府主導で革新的な研究開発を呼び起こす支援プログラム「ムーンショット型研究開発制度」の目標の一つとして、「2050年までに地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」が掲げられた。その中のテーマとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトとしてDACの研究が進められている。政府は温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減する目標期限の2030年度までに、CO2濃度が10~数%程度の大気からCO2を分離・回収する技術の実用化を目指す。
政府が支援策を推進するも、大気中に拡散した低濃度のCO2をDACで回収することは大きな挑戦であり、まだまだ課題も多い。
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